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私の知らない世界でも、時は刻まれている  作者: カドイチマコト
二章、授業編

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第15話、嬉しいな、再会できた親友と、3

 屋敷の門前に停車している馬車に、荷物を運んでくれた執事に話しかける。


「荷物も全部積み終わったし、そろそろ行きますね」

「お嬢様、新しい生活はご多忙のことと存じますが、くれぐれもご自愛ください」


 幼い頃から私を見守ってきた執事は、そう言いながら目に涙を浮かべていた。


「執事様、お世話になりました」

「何かございましたら、いつでもご連絡を」

「はい、ありがとうございます。きっと楽しい学園生活になると思います」


 そう言うと、軽くお辞儀をし、足早に乗り込む。馬車が動き出した後、執事は視界から消えるまで深々と頭を下げ、見送ってくれた。


 出発してからおよそ一時間、寮の前へ到着する。学生寮は王立学園の校舎の西側に位置しており、北棟が男子寮、南棟が女子寮となっていた。


 馬車を降りた私は、すぐさま女子寮の警備室に向かう。そして、女性警備員に声をかけ、寮の入寮許可書を提示する。


「よろしくお願いします」

「しばらくお待ちください」


 そう告げた女性警備員は受け取った後、確認し、部屋へ案内してくれた。


「こちらでございます」


 部屋の前に着き、女性警備員がそう言ってドアを開ける。目に飛び込んできたのは、私の想像をはるかに超える開放的な空間であった。


 大きな窓から差し込んでいる陽光で室内は光に包まれ、開け放たれたバルコニーへの引き戸から爽やかな風が吹いている。そして、ふわふわの絨毯が敷かれた床に、四人掛けのテーブルセットやタンスなど立派な家具が配置されていた。


 左隅にある大きなベッドにはもこもこの布団が敷いてあり、その向かいには大きな鏡が壁に立てかけられる。さらに別室には広々とした浴室と最新の設備を備えたトイレが併設されていた。


「うわーっ、すっごーい!」


 屋敷にいた時の二倍はあろうかという広さの部屋を、感動しながら見回る。すると、あのベッドに飛び込みたい衝動に駆られた。


 うずうずしていたところ、女性警備員が話しかけてくる。


「よろしければ、荷物をお運びいたしましょうか?」


 その提案に、荷物が積まれている馬車の方へ指を差しつつ、元気に答えた。


「はい、お願いします」


 女性警備員が馬車へと向かうのを確認し、助走をつける。そして、ベッドに飛び込み、くるくると回転した。


「ふっかふかのふっかふかだ!」


 飛んだり跳ねたりしつつ感触を確かめながら、ここに来たのは正解であったと確信する。


 しばらくして、コツコツと足音が聞こえてきた。急いでベッドを離れ、イスに腰を下ろすと、何事もなかったかのように、窓から外を眺めているふりをして、平然を装う。


「お待たせいたしました。こちらに置かせていただきますね」


 戻ってきた女性警備員はそう言い、両手に持っていた荷物をドアの横へ丁寧に置いた。うずうずしながら礼を述べる。


「ありがとうございます」

「では、これにて失礼いたします」


 そう言い残し、女性警備員は部屋を後にした。


 ドアが閉まったのを確認して、再度ベッドに勢いよく飛び込む。そして、くるくると回転した瞬間、ドアが開く音が聞こえた。


「えっ!」


 驚いて顔を上げたところ、女性警備員と目が合った。


「寮の規約を渡し忘れておりました……ここに置かせていただきます。失礼します」


 そう告げ、女性警備員は去っていく。


 私は恥ずかしい気持ちを抑えつつ、ベッドから降りて、テーブルに置いていった封筒を手に取る。中にあった紙には男子禁制、外出時は警備員に帰宅時間を知らせることと記載されていた。


 ちょっとはしゃぎすぎたと反省しながら、荷解きをしようと思った時、グーとお腹が鳴る。時計に目をやったところ、すでに十二時を回っていた。


 食事を取るため一階へ足を向ける。しかし、食堂は昼時であるにもかかわらず誰もいない。静寂の中、ぐつぐつと煮えたつ音だけが響いている。


 厨房に歩み寄り、少し緊張しつつ、そこにいる料理人に声をかけた。


「すみません。お食事をいただきたいのですが、よろしいでしょうか?」

「あいよ」


 返事を聞き、ほっとして席に着く。すると、間もなくシチューとパンが運ばれてきた。


「いただきます」


 小さく呟き、軽く手を合わせ、食事を始める。そして、誰一人姿を見せることなく食事を終えた。


「ごちそうさまでした」


 そう告げた後、食器を返却し、食堂を出る。


 部屋の戻ろうとした時、トレーニングルームのドアが勢いよく開き、中からハーフトップとスパッツというシンプルなウエア姿の背の高い女性が現れた。


「でかっ!」


 見た瞬間、私は思わず声を上げてしまう。


 その声に気づいた女性はこちらに目を向けた後、タオルで顔を拭きながら近づいてきた。鍛え上げられた身体は筋肉が浮き出ており、ツンツンとした茶色の髪型と合わさって威圧感が凄い。


 失言を謝罪するため口を開こうとした時、女性から話しかけられる。


「お、新入生か。武術科で武術指南をしている魔石職人のマキだ。よろしくな!」


 気にする様子もなく、そう言って、バシッと背中を叩かれた。


「ア、アカリです。よろしくお願いします」


 そう挨拶し、疑問に感じたことを尋ねる。


「魔石職人なのに、武術を教えているんですか?」

「変か?」


 マキは笑いながら答えると、詳しく説明してくれた。


「加工前の魔石の原石は魔力を吸収するため、魔石職人は生まれつき魔力がない人しかできない職業なんだ。魔力がある人は枯渇して意識を失ってしまうからな。そういった理由で、魔法が使えない魔石職人は、自分の身を守るためには武術しかない。それを学んでいるから指導できるんだ。ちなみに、俺も魔力がない」


 言っている内容はイマイチ理解できていないものの、とりあえず相づちを打つ。


「なるほど」

「ついでに言うと、出席者が少ない武術科の指導は誰でも務まる。魔法と武術を組み合わせた魔導武術の方が強いから、王立学園はそっちに力を入れているんだ」


 昼時なのに食堂に誰もいないことが気になっていた私は、マキに尋ねる。


「寮には他に学生はいないのですか?」

「在校生が二人住んでるが、春休みだしこの時間はおらん。中央行政区在住者は原則実家から通学だし。そもそも男性と比べて女性の入学者は圧倒的に少ないからな。部屋が余ってるから俺もここにおる」


 マキは親切にそう教えてくれた。


「ありがとうございます」


 礼を述べるとマキは告げる。


「長話したら冷えたわ。風呂行くわ。またな」


 そう言い残し、マキがドタドタと足音を立てながら去った後、一人になった私は部屋に戻り、荷解きをすることにした。

ご拝読ありがとうございます。

次話更新は四月十二日となっております。


カクヨムでも同一名義で連載中。

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