第13話、嬉しいな、再会できた親友と、1
「う~ん」
ふかふかのベッドからゆっくりと起き上がる。そして、大きく伸びをした後、そのまま腕を下ろし、軽くポーズを決めた。
試験を終えてから毎日トレーニングを積み重ねること二週間、なんだか身体が引き締まったように感じる。
周りをゆっくりと飛び回っている精霊たちも、少しだけたくましく見える気がした。
「精霊さん、おはよう。今日も元気だね!」
手の中に精霊たちが姿を消した後、壁にある時計に目をやる。時刻は午前八時であった。
今日は王立学園の入学試験の合格発表の日である。貴族枠という特別な推薦枠での受験のため、落ちることはありえない。しかし、試験の内容は散々だった。おまけに、シエンに釘を刺され、冒険者組合にも行けず、暇を持て余している。それゆえ、結果を見に行くことにした。
王立学園は屋敷から徒歩で片道三時間の道のりである。とはいえ、運動がてら走ることに決めた。
髪を丁寧にとかし、後ろで軽く束ねて、パジャマを脱ぐ。そして、丈の短いシンプルなデザインのワンピース着てから、下にスパッツを履いた。
「うーん……」
鏡の前でくるっと回り全身を確認しつつ、ふと考える。走ると帽子は邪魔になる可能性が高い。
見られたくない理由から普段は髪を服の中に隠して行動していた。しかし、本音を言うと、動くと邪魔になるため、帽子に納まるようにバッサリ切って短くしたい。そう思いつつ、領主の娘という立場上、難しかった。
走ることに集中したら、視線も気にならないであろう。そう考え、服の中に収めていた髪を外に出す。その後、試験の日に借りたメイド服や汗を拭くタオルなどを入れたリュックサックを背負って、玄関に向かう。ここで、執事に声をかけられる。
「お嬢様、お出かけですか?」
「はい、王立学園の試験の結果を見に行きます」
そう言って、微笑みかけたところ、執事が提案した。
「よろしければ、使いの者に見に行かせますが?」
なんて気が利く執事なのだろうと感心しつつ、返事をする。
「大丈夫、走って行ってきます」
「お気をつけて行ってらっしゃいませ」
「行ってまいります」
玄関を開け、深々と頭を下げる執事に見送られながら、玄関を出る。空はやや曇りであった。しかし、ジョギングするにはちょうど良い。馬車の往来に注意し、門をくぐり抜け、屋敷を後にすると、自分のペースで大通りを淡々と走り続けた。
一時間ほどして、内壁にある門の前に到着する。門番の視線を気にしつつ歩み寄り、リュックサックから身分証明書を取り出して提示した。
「どうぞお通りください」
門番の声と共に門をくぐり抜けた私は、その場から逃げるように走り出すと、徐々にペースを上げ、最後の力を振り絞りつつ王立学園を目指した。そして、屋敷から走ること二時間余り、ようやく到着する。
門前で呼吸を整えながら、軽くストレッチした後、校内へ足を進め、玄関前に設置された臨時の掲示板で番号を探し始めた。
「アカリ?」
突然背後から声が聞こえ、思わず振り向く。小柄な身体にぱっちりとした大きな瞳、そこに立っていたのは、幼馴染のミナであった。肩まで届く黒髪を後ろで束ねたこの少女は、孤児院で暮らしていた頃、髪の色で嫌がらせを受けていた私を助けてくれた親友である。
「ミナ!」
喜びのあまり思わず抱きつきそうになる。しかし、屋敷から走ってきた私は汗をかいていたため、ギュッと握手を交わすにとどめた。
「やっぱりアカリだ。そのきれいな髪、どこにいても一目で分かるよ」
「まさかここで会えるなんて、運命だね!」
「私、ここの試験受けたんだ」
ミナが放ったその一言に、思わず息を呑む。試験官の対応を見る限り、王立学園の一般の受験生たちの合格率は低そうである。
結果を聞くべきか、それともあえて触れないべきか、複雑な思いが心をよぎり、私が沈黙していると、ミナは静かに口を開く。
「合格していたよ」
その一言と明るい笑顔に、安堵と喜びを感じた。
「おめでとう、春から……」
そう言いかけて、重要なことに気づく。
「あれ? 私、結果まだ見てなかった……」
「相変わらずね、アカリは」
臨時の掲示板に向き合い、笑顔のミナと一緒に貼られた番号を探し始める。
ご拝読ありがとうございます。
次話更新は四月八日となっております。
カクヨムでも同一名義で連載中。




