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私の知らない世界でも、時は刻まれている  作者: カドイチマコト
一章、入試編

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第12話、だるかった、この結果には不満足、7

作者からのお断り。

構想は定まっていますが、執筆速度が激遅ゆえ、完結まで相当時間が掛かります。

興味のある方は作品をフォローして、気長にお待ちください。<(_ _)>


「お飲み物をお持ちいたしました」


 サービスワゴンを押しながら、先ほどここまで案内してくれたメイド姿の女性が入ってきた。テーブルにティーカップが並べられ、ポットからお茶が注がれる。すると、部屋中にふんわりと桜の香りが広がった。


「では、失礼いたします」


 そう言い残し、メイド姿の女性は部屋を後にした。


 しかし、このまま黙って試験を見学しているのは、シエンに失礼だ。そう思い、何か話題はないかと考える。そして、ふと湧いた疑問をぶつけてみることにした。


「ところで、学長はなぜここで見学なさっているのですか?」


 あえてそう呼ぶことで、ここにいる不自然さを強調する。


「ここの館長も務めておりますので」

「王立図書館の館長もされているんですか?」


 驚きの声を上げた私に、シエンは強烈な一言を放った。


「はい、おかげさまでアカリ様のお顔を拝見する機会にも大変恵まれております」


 テーブルに肘をつきながら、顎の前で両手を組んだシエンが軽く微笑む。そして、この言葉を聞いた私は、間違いなくやらかしたと悟った。話題を変えようと必死に頭を働かせる。しかし、動揺しているのか、何も浮かんでこない。


 その沈黙を切り裂くように、シエンは静かに語り出した。


「シドウ様が学長を受諾すれば、魔法の研究を進めることができる王立図書館の館長に任命すると言われたので引き受けましたが、多忙を極めており、それどころではありません」


 言い終えると顔を伏せ、組んだ両手に額を当てていた。悲壮感を漂わせようとしているつもりだろうが、いかにも芝居じみている。


「それは大変ですね……」


 私は相槌を打ちつつ、紅茶をいただき、様子を見ることにした。


「それなのに、適任者がいないということで、領主代行にまでやらされる始末」

「お気の毒です」


 その返答に、シエンはゆっくり顔を上げる。そして、手をポンと叩いた後、こう告げた。


「アカリ様が早く成長され、領主の座を継いでくだされば……」


 そんなことを言われても困ってしまう。そもそも世襲制かどうかすら定かではない。とりあえずこう答えて逃げるしかなかった。


「努力いたします」


 そう言って軽く頭を下げたところ、シエンはティーカップを手に取り、グラウンドに目をやりながらお茶を飲む。その後、静かにそれを置くと、こちらを向き、再び話し出した。


「シドウ様から、アカリ様がお受験のために王立図書館で毎日勉強していると伺っておりましたので、何かお困りのことがあれば、お手伝いできたらと思い、お声をかけてみようと思いましたが……」


 やはり、嫌な予感は的中したようである。

 すっとイスから立ち上がったシエンは、私に顔を少し近づけ、話を続けた。


「ここでお見かけしたのは、たった一度きりでしたね。別の場所でお勉強されているのでしょうか?何かご都合があるのでしょうか?」


 言い終えたシエンは、微笑みながら私を見つめていた。


 一度きりということはない。しかし、片手に余るくらいしかここにきていないのは事実である。


「えっと……」


 言葉に詰まるこの状況は、まさに蛇に睨まれた蛙のようであった。沈黙が続く中、シエンは視線を逸し、どこか遠くに目をやる。そして、ぼそりと呟く。


「最近、仮面で正体を隠した冒険者が……」


 心臓がドキッとした。なぜそこまで知っているのか分からない。とにかく、全て言い終わる前に、慌てて謝罪する。


「も、申し訳ございません」


 シエンはこちらを向き、さらに言葉を重ねた。


「事情があるにせよ、くれぐれもシドウ様にご心配をおかけにならないよう、お願いいたしますよ」


 この言い方であれば、私が冒険者として働いていることを父親は知らないであろう。


「ご配慮、感謝いたします」


 この人にはしばらく頭が上がらないと感じながら、深く頭を下げる。

 とんだ藪蛇であった。


 とても居心地が悪くなり、早々に帰りたくなった。しかし、あのキラキラと輝く大きな馬車は、まだあそこに停まったまま動かない。ため息をついたところ、シエンに尋ねられる。


「どうかなされましたか?」

「あれのせいで、私が乗ってきた馬車が動かせないのです」


 そう言って指を差すと、シエンは恐ろしいことを口にした。


「そうですね……あれ、燃やしましょうか?それとも吹っ飛ばします?」


 真顔で手をかざすシエンの腕を慌てて押さえる。


「ちょ、ちょっと」

「冗談ですよ、冗談」


 微笑みながら、シエンはそう言うものの、目は笑っていない。


「昼になれば、食事の時間でグラウンドが空きますから、その時に対処いたしましょう」


 言葉通り、人がいなくなると、周囲に止められた馬車は誘導され、移動した。しかし、キラキラと輝く大きな馬車は、そのままである。


 試験が再開されて再び動けなくなる前に、馬車に王立図書館の玄関まで迎えに来てもらう。そして、メイド姿のまま学園を後にした。


 帰りの馬車に揺られながら、明日からのことを思い巡らせる。


 試験も終わり、冒険者組合へ出かける口実として、王立図書館で勉強すると告げることはできなくなった。シエンからも、父親に心配をかけないよう、釘を刺されている。


 仕方がないので、しばらくの間、体力作りと魔力の向上に励むことにした。

ご拝読ありがとうございます。

視力が悪く文字を拡大して執筆しているため、改行が多く読みにくいかもしれません。

誤字脱字には気をつけておりますが、お気づきの点がありましたら連絡いただけると幸いです。


主人公の前日譚もあります。

https://ncode.syosetu.com/n3734jx/


カクヨムでも同一名義で連載しております。

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