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私の知らない世界でも、時は刻まれている  作者: カドイチマコト
一章、入試編

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11/69

第11話、だるかった、この結果には不満足、6

作者からのお断り。

構想は定まっていますが、執筆速度が激遅ゆえ、完結まで相当時間が掛かります。

興味のある方は作品をフォローして、気長にお待ちください。<(_ _)>

 慌てて足を離し、恨めしそうに天井に付いている蜂の巣状の器具を睨みつける。そして、震えながら個室の外に出て、大きな入れ物を交互に見ながら、しばし考えを巡らせた。


 説明は聞いたものの、あれからあそこに入っているお湯がどうして出るのか、理屈が分からない。運悪く故障している可能性も否定できない。しかし、一連の反応から、もしかするとシエンにからかわれているのかもしれない。


「どうしよ……」


 我慢してこの水で砂を流すべきか、それともバスタオルをお湯につけて身体を拭くべきか。とはいえ、拭くくらいできれいに砂が落ちるだろうか。悩んだ末に出した結論は、水で砂を流し、お湯に浸したバスタオルに包まって温まることであった。


 意を決し、魔力を込める。すると、予想に反し、ほどなく温水が出始めた。


「あれ、あったかーい!」


 幸福感に包まつつ、髪や身体を洗い流す。ジャリジャリした感触が減っていくと共に、黄色く濁ったお湯が足元を流れていく。


「ふぅ、気持ちいい」


 ふんふんふふーん♪と上機嫌で鼻歌を歌っていたところ、ガラガラっとドアを引く音が聞こえた。


「あっ……」


 まずい、そういえば鍵の存在を忘れていた。


 相手が異性だったらどうしようと焦りながら、咄嗟にバスタオルを身体に巻き付ける。そして、息を潜めて左手をかざし、魔法を放つ構えを取った。人間とはいえ、加減すれば多分大丈夫であろう。


 シーンとした室内で心臓がバクバクする音だけが耳に響く。


「お召し物は洗濯しておきますね」


 ドア越しに聞こえた声の主は女性であった。ほっと胸を撫で下ろし、安心してへたり込む。そして、すぐさま返事をする。


「ありがとうございます」


 しかし、すぐに間違えて答えたことに気づく。


「でも私、代わりの服を持っていません」


 慌てて叫ぶと、即座に返事がきた。


「お気に召すかどうか分かりませんが、それはご用意しておりますので、ご安心ください。では、失礼いたします」


 ドアが閉まる音が聞こえた後、確認しに行く。置いてあったのは、なんとメイド服であった。丁寧なことに、ホワイトブリムまで用意してある。


 領主の娘である私に、これを着る機会が訪れるとは夢にも思わず、両手で掲げてそれを眺めながら、小さくため息をつく。もはや選択肢はなく、砂まみれのワンピースよりはるかにマシであろうと、身体を丁寧に拭いた後、思い切って袖を通す。予想外に肌触りもよく、着心地も悪くない。


 壁に設置されている大きな鏡の前でくるっと回って、全身を確認してみた。案外イケてる感じがする。しかし、サイズが……言わずもがな、ゆるゆるであった。そこにあるバスタオルでも、詰めたい気持ちになる。


「お帰りなさいませ、ご主人様」


 鏡の前に立ち、そう言ってお辞儀をして微笑む、お約束の行動をとってみた。もちろん、ホワイトブリムも装着済みである。そんなことをして遊んでたところ、入口のドアが開く。そして、メイド姿の女性が現れ、私を見るなり声を上げた。


「とーってもお似合いですよ」


 満面の笑みを浮かべて首を傾げながら、音が鳴らない程度に手を合わせて、そう言われると、お世辞でも悪い気はしない。その後、メイド姿の女性は小走りで私に近づき、祈るように手を組み、話しかけてきた。


「アカリ様、髪を結んで差し上げてもよろしいでしょうか?」

「うーん、ではお願いします」


 唐突な提案であるものの、悩んだ末、受け入れた。ホワイトブリムを外し、イスに腰をかけ、完成するのをじっと待つ。


「できました」


 そう言われて鏡を見る。そこに映ったのは、きれいな三つ編み姿であった。


「お召し物が仕上がるまでの間、お待ちいただくお部屋をご用意しております。こちらへどうぞ」


 案内されて、玄関より校舎を出ようとした時、足がすくむ。先ほどの状態からすると、グラウンドには大勢の人がいることであろう。ホワイトブリムで頭全体を隠せるわけもなく、確実に髪を人目に晒すことになる。


 躊躇している私に、メイド姿の女性が尋ねてきた。


「どうかなされましたか?」

「髪の色が人とは違うので、見られたくないといいますか……」

「では、裏から参りましょう」


 来た道を引き返し、裏口からグラウンドと反対側の道を通って、王立図書館へ向かう。そして、二階にある一室に通された。


「アカリ様をお連れいたしました」


 メイド姿の女性がそう言って部屋に入ると、シエンは少し微笑んで口を開いた。


「よくお似合いですよ」


 窓際に置かれたイスに座っていたシエンが立ち上がり、反対側の空いている席に、どうぞと手で勧める。私は軽くお辞儀をして、腰を下ろした。イスに座り直し、グラウンドに視線をやるシエンに釣られるように、私もそちらに目を向ける。


 窓の外では、貴族枠の受験生が列をなし、魔術の実技の順番を待っていた。しかし、あくびをしたり、誰かと話したり、一般の受験者と比べ、緊張感は微塵も感じられない。


 校舎の二階の窓には、相変わらず保護者とみられる人々が見学している。そして、馬車の待機所には、あのキラキラと輝く大きな馬車がまだ停まっていた。早くどかないかなと思いながら、少し離れた場所で行われていた武術の実技に目をやる。すると、その動きに釘付けになった。


 一人しかいない受験生が槍を持ち、素早く力強い動きで人形の的を切ったり、突いたり、見事な演武を披露していた。それを見て、私も何か武器を所持した方が良いのではないかと思えてくる。


 主に魔法を使用して組合の依頼をこなす身としては、片手で扱えて、重すぎず、取り回しの良いものが候補となる。


 自分の世界に入り込んでいた私は、部屋のドアをノックする音で我に返った。

ご拝読ありがとうございます。

視力が悪く文字を拡大して執筆しているため、改行が多く読みにくいかもしれません。

誤字脱字には気をつけておりますが、お気づきの点がありましたら連絡いただけると幸いです。


主人公の前日譚もあります。

https://ncode.syosetu.com/n3734jx/


カクヨムでも同一名義で連載しております。

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