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私の知らない世界でも、時は刻まれている  作者: カドイチマコト
一章、入試編

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10/69

第10話、だるかった、この結果には不満足、5

作者からのお断り。

構想は定まっていますが、執筆速度が激遅ゆえ、完結まで相当時間が掛かります。

興味のある方は作品をフォローして、気長にお待ちください。<(_ _)>

 ジュジュと試験官Cの二人が校舎へと姿を消した後、視線に気がついたのか、男性は顔を左右に振り、辺りを見回した。そして咳払いをし、パンパンと二回拍手する。


「失礼、試験を続けますよ」


 半笑いで発せられたその言葉で、時は動き出し、試験は再開された。


 最後に残されたのは、剣や槍、弓など様々な武器を用いて演武を披露する武術の実技である。しかし、私は一度も武器を扱った経験がなかった。


 その旨を試験官Dに伝える。すると、返ってきた答えはこうであった。


「無理にしないほうがいいですよ。下手をすると怪我しますから」

「すみません、棄権します」


 そう言い、両手でバインダーを差し出し、試験官Dが押印した後、記入表に目をやる。全ての受験科目を終えた結果は、測定不能、測定不能、棄権、棄権というひどいありさまであった。


 これは一般の受験生なら間違いなく不合格である。


 一抹の不安を覚えながら、提出するために受付に向かう。すると、どこからか美味しそうな匂いが漂ってくる。


 ここから見える校舎の裏側に、多くの馬車が止まっており、そこからメイドたちがせわしなく料理を運び入れ、校内の階段を上がっていた。


 今から帰れば、お昼ごはんの時間にちょうどよい。バインダーを提出し、屋敷へ戻るべく、待たせていた馬車へ足を進めた。


「ええっ……」


 馬車に着くと、あのキラキラと輝く大きな馬車が前を塞いでいる。そして、私の後から来た馬車の一団に周囲を囲まれ、完全に身動きが取れない状態になっていた。どうしたものかと思いながら、馬車を見上げる。


「ん?」


 遠目には分からなかったが、人型の装飾は一体ではなく、男女一対であった。


 左の男性像は鎧を纏い、左手で剣を掲げ、右手は隣の女性の右肩に置かれている。右の女性像は修道女のような衣を纏い、片膝をつき、両手で杖を支えていた。


 なぜかこの像を見て、どこか懐かしさを感じてしまう。


 しかし、この状況では屋敷に戻れない。走って帰ろうかと頭を過ったものの、体調は万全ではない。それゆえ、あの馬車が動くことに賭けることにした。


 時間を潰すため、武術の実技でも見学しようと場所を移すべく、砂だらけの服をぱたぱたと払いながら、うつむき加減で歩き始める。


「アカリ様」


 突然そう呼ばれ、顔を上げる。そこには先ほど、王立図書館の二階から大爆笑していた男性が立っていた。


「シドウ様にお仕えしている領主代行のシエンと申します。先ほどは試験官が失礼いたしました。ここの学長も兼ねております」


 シエンといえば、国に三人しかいない特級冒険者の一人であり、魔法を二重詠唱できるという稀有な才能を持つ有名人である。


「ところで、先ほどから何をなさっておられるのですか?」


 問いかけに、私はぽつりと答えた。


「先ほどの魔法で、全身砂まみれになりました」


 シエンが笑いを堪えるように拳で口の辺りを押さえる。それを目にした途端、腹が立ち、この人から離れようと決めた。


「では、ごきげんよう」


 そう告げて武術の実技へ足を進めようとしたところ、驚きの提案が舞い降りた。


「よろしければ、温かいお湯でお身体を流されますか?」


 シエンの言葉を聞き、立ち止まり振り返る。


 どうあがいても屋敷に戻るには一時間以上かかる。そして、この不快感から逃れられる提案が目の前にあるとすれば、答えは一つしかない。


「お願いできますか」

「では、ご案内いたします」


 そう言った後、私の前を歩き出し、シエンは校舎へ向かう。


 魔力測定と体力測定を受けた会場とは反対側の廊下を進み、ロッカー室と更衣室を通り過ぎると、右手にあるドアが開いていた「女子シャワー室」と上部に表示されている部屋へ入っていく。


 部屋には床にすのこが敷かれ、バスタオルなどの備品が置かれた棚や、大きなロッカーが設置されていた。シエンはさらに奥のドアを開けて進む。


 そこには身体が隠れるよう上下に隙間があるスイングドアが取りつけられている五つの個室が並んでいた。そして、部屋の突き当たりには三つの魔石が埋め込まれた大きな入れ物が置かれてあり、中に液体が満ちていた。


「少々お待ちください」


 シエンが大きな入れ物に歩み寄り、右と左の魔石に手を添える。しばらくすると、そこから湯気が出てきた。


「こんなものでしょうか」


 そう言って、シエンは大きな入れ物に片手桶を突っ込み、液体をすくって私に差し出す。そっと指先を浸してみると、熱くもなく冷たくもなく、ちょうどよい湯加減になっていた。


 片手桶を置き、シエンは一番手前の個室まで足を進める。そして、どうぞと手で促した。


「こちらをお使いください」


 そうは言われても、初めて目にするものであり、使い方など分かるはずもない。


「えっと……」


 口ごもっていると、シエンは気がついたのか説明を始めた。


「ああ、失礼しました。この魔石を操作していただくと、ここから先ほどのお湯が出ます」


 スイングドアを手で支えながら、床にある魔石をつま先で示した後、天井に取り付けられた蜂の巣状の器具に指を差した。


「では、ごゆっくりどうぞ」


 そう言い残し、深々と頭を下げ、シエンはこの場を去っていく。


 私は急いで服を脱ぎつつ、前室の棚からバスタオルを拝借する。それをスイングドアに掛けると、ワクワクしながら、魔石にそっと魔力を込めた。


「冷たっ!」


 期待とは裏腹に大量の水が降り注いだ。

ご拝読ありがとうございます。

視力が悪く文字を拡大して執筆しているため、改行が多く読みにくいかもしれません。

誤字脱字には気をつけておりますが、お気づきの点がありましたら連絡いただけると幸いです。


主人公の前日譚もあります。

https://ncode.syosetu.com/n3734jx/


カクヨムでも同一名義で連載しております。

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