第1話、明日試験、急いで帰ろう屋敷まで、1
作者からのお断り。
構想は定まっていますが、執筆速度が激遅ゆえ、完結まで相当時間が掛かります。
興味のある方は作品をフォローして、気長にお待ちください。<(_ _)>
「う~ん」
ふかふかのベッドからゆっくりと起き上がり、大きく伸びをする。
壁にある時計に目をやると、時刻は午前七時。
緑色の球体が三つと、水色と白色の球体が一つずつ、身体の周りをゆっくりと飛び回っていた。
「精霊さん、おはよう。今日も一日、よろしくね!」
いつものように元気に挨拶し、胸のあたりで水をすくうように両手を合わせる。舞い降りる雪が溶けるように、精霊たちは掌で静かに消えた。
ゆっくりとベッドから出て、カーテンを開ける。部屋いっぱいに広がる朝日を目にして、思わず声が出た。
「今日もいい天気だな~」
窓の外に目をやると、そこには杖をつきながら二人の護衛を引き連れ、迎えの馬車へ向かう父親、シドウの姿があった。
幼い頃に両親を亡くした私を、孤児院から引き取って育ててくれた父親は、国に六人しかいない領主の一人である。そして、母と同じ診療所に勤めていた医師でもあった。
軽く身だしなみを整えてから窓を開け、大きく手を振りながら、声をかける。
「お父様、行ってらっしゃいませ」
父親は私を見つけて微笑みつつ、大きく手を振り返す。その後、護衛に促されて馬車に乗り込んだ。
動き出し、次第に遠ざかる馬車を見送り、私も出かける準備に取り掛かる。
櫛を手に取り、腰まである長い銀髪をすっととかし、髪紐で軽く束ねてパジャマを脱ぐ。そして、タンスから取り出したリボンのついたハイネックのブラウスを着て、ベストと一体になった丈の短いスカートを履き、くるっと回りながら鏡を見る。
「うん、いい感じ」
着替えを終えてから、ベッドの下に隠してある荷物が入った大きな袋を引きずり出し、赤いトランクケースに押し込む。それを持って、つばの広い帽子を被ると、一冊の本を抱えて部屋を飛び出した。
明日は王立学園の入学試験がある。
貴族枠という特別な推薦枠での受験のため、結果が悪くても、落ちることはまずありえない。しかし、寝坊しても困るし、準備もある。
今日は早めに屋敷に戻りたい。そう思いながら急いで階段を降り、玄関に向かう。そこで、執事に声をかけられた。
「お嬢様、お出かけですか?」
「王立図書館で勉強してまいります」
にこやかに微笑み、そう答えた。しかし、王立図書館に行くというのは口実であり、本当の目的地は冒険者組合である。
父親は昔から孤児院への寄付や無償の診察などを行っていた。就任後も一貫して続けており、領主の家庭とはいえ豪華な暮らしはしていない。
王立学園は入学金や授業料など無料と聞いているものの、何らかの費用は生じるであろう。本当の娘のように可愛いがってくれた父親の負担を少しでも減らそうと考え、内緒で半年ほど前から冒険者として働き始めていたのである。
「お気をつけて行ってらっしゃいませ」
今でこそ普通に送り出してくれる。しかし、以前は馬車を手配したり、護衛をつけようとしていた。それを毎回丁重に断ったため、ようやく最近何も言われなくなった。
「行ってまいります」
玄関を開け、深々と頭を下げる執事に見送られ、屋敷の門をくぐる。
その後、東隣の製造特区にある鍛冶師組合に行くため、近くの乗合馬車の停留所へ向かう。平日の通勤時間帯とあって、運行本数も多く、すぐに乗ることができた。
目的地は工業地帯であり、満員になった定員六人の車内には作業着姿の人しかおらず、私はかなり浮いた存在。しかし、いつもながら視線が気になる。
そこで、持参した本、「わが国の成り立ち」を開き、目を落とす。著者は国王のユウシで、国の歴史が詳しく書かれている。私はこの本がとても好きであった。
本を読みながら馬車に揺られること約一時間、目的地に到着する。乗客が全員降りるのを待ち、静かに本を閉じると、御者に軽くお辞儀をし、馬車を降りた。
「さてと……」
始業時間まで時間を潰し、人が少なくなるのを見計らい、近くの路地裏へ足を踏み入れる。そして、周囲の視線を気にしつつ、赤いトランクケースから、荷物が入った大きな袋を取り出す。
つばの広い帽子を脱ぎ、本と一緒にそこに収めると、ガントレットとブーツを装着し、袋に入れていた仮面をつけ、フードのついた白のロングパーカーを身に纏った。
ブーツは去年の年末セールで手に入れた思い出の品で、ガントレットはその後買い足した物である。買った当初は色が好みではなかった。しかし、お気に入りのピンクに染め直したことで、今では大切な一品となっている。
全身を隠し終えた私は、鍛冶師組合に足を運ぶ。借りている倉庫に靴と赤いトランクケースを預け、ここより北東の開拓特区にある冒険者組合行きの停留所へと急いだ。
仮面をつけることにした理由は、顔を見られるのが嫌だからである。
組合の依頼は、魔物退治や護衛など、命を危険にさらす仕事が多い。父親に冒険者をしていることを知られれば、領主という立場を利用して組合に圧力をかけ、依頼を受けられなくなる可能性もあった。それを避ける意味でも、役に立っている。
停留所に到着して乗り込んだ馬車は、ここに来る時とは打って変わって私しかおらず、貸し切り状態。
道中にも乗客はいなかった。馬車は区と区を仕切っている壁にある門を通過し、開拓特区に入ってからも順調に走り続ける。
そして、約一時間で冒険者組合に到着した。
ご拝読ありがとうございます。
視力が悪く文字を拡大して執筆しているため、改行が多く読みにくいかもしれません。
誤字脱字には気をつけておりますが、お気づきの点がありましたら連絡いただけると幸いです。
主人公の前日譚もあります。
https://ncode.syosetu.com/n3734jx/
カクヨムでも同一名義で連載しております。