6.
「ふぅ…流石に寒いわね…」
「これくらい普通だよ。真冬はもっと寒くなる。」
クリスティーナとシルバートは今パーゴスの城に着いたところだ。馬車の中からチラッと外を見ると、たくさんの兵士たちが整列しており、真ん中からパーゴスの王太子クリオがこちらに向かって歩いてくるのが見えた。
***
クリスティーナは図書室で結界の真実を知った後、すぐさま父に報告しに行った。
豪華な父の執務室でクリスティーナは先ほど知ったばかりの結界の綻びと、シルバートの出身地及びパーゴスが戦を厭わない姿勢であることを告げた。
父も宰相も酷く混乱し、また黙っていたことの叱責を受けたが、やはり戦の可能性を全く考えたいなかったのだろう、父の瞳は動揺を隠せていなかった。
「ご安心くださいお父様。私が北の地を治る竜に会い、竜の涙と呼ばれる魔石を手に入れれば結界を張り直す力を持つことができます。そうすればパーゴスもこちらに攻撃してくる口実がなくなります。」
「なぜそのような事が分かる?これまで聞いたことがない。」
そしてクリスティーナはメモを読む時の不思議な出来事について話した。父も宰相も唸りながらも納得してくれたようだ。
「竜に涙を流させるには音楽が必要です。よってシルバートを連れて行きます。」
「何!!それはダメだ!パーゴスのスパイだぞ!」
「いいえ、彼と2人で北に向かいます。でもパーゴスを通らないといけないので、あちらの王家に手紙書いていただけます?」
「お前はいったい何を考えて…」
「姫様、危のうございます…」
父も宰相も私が次々びっくり発言を繰り出すものだから段々疲れて来ているのが分かる。
クリスティーナは腕輪の魔石を見せながら言った。
「私にはこれがあります。自分に結界を張れば誰も私を害せません。魔物も聖女には攻撃してこないと本に記述がありました。お願いしますお父様。」
***
御者が馬車の扉を開けてくれた。目の前には雪国の王太子クリオが立っていた。殺された記憶が一瞬頭をよぎったが、軽くキュッと目を瞑り恐怖を振り払ってから、しっかりと前を見据えた。
馬車を降りようと片足を出した時、意外にもクリオが手を差し伸べてくれた。
ーーまだ戦争してないもんね。表向きはお隣同士の国。あんまり交流はないけど面識がないわけでもないし、結界の確認と言ってあるからむしろ友好的なお出迎えね。
シルバートは複雑な顔をしながらクリスティーナに続いて馬車を降りた。繋がれたクリスティーナとクリオの手を見ながら一瞬辛そうな顔をしたのは誰にも見られていない。
2人は魔物の森へ向かう前に一度城の中で装備を整えることになり、応接室へ案内された。