5.
王宮にある図書室は誰でも入れる一般区画と、王族のみが入れる特別区画がある。特別の方には古代書や今は禁止された魔術などの本が保管されている。
クリスティーナは自分に宿る聖女の力をもっと強くする方法を探しに図書室へ通う日々を送っている。
「…これだわ!やっと見つけた…聖女の記録…」
クリスティーナは急いでいた。シルバートからの情報提供が止まればパーゴスもきっと何らかの動きを見せるはず、そのため敢えて、順調に王家に取り入っていると思わせるために手紙をパーゴスに送ることは許可した。もちろん私が直に読み、封をしてからである。それでも進捗がなければパーゴス側がしびれを切らし、次の手を打たれては敵わない。
またフローガの王にもいつまでもシルバートやパーゴスの目論見を黙っているわけにもいかない。これは国民の命がかかっている。だからこそ、希望の無い段階で報告すれば、軍事力のないフローガは混乱するだけだ。どんな一手が破滅向かうか分からない今は、報告出来ないと思っていた。
クリスティーナは手に持っている古文書をどんどん読み進めていく。
「…やっぱり聖女の力は代々弱くなっているのね。」
聖女として産まれるのは王族だけではない。平民や貴族など、その時代によってバラバラだ。聖女が死ぬと、次の聖女が誕生するというサイクルを繰り返し、クリスティーナの時にはもう腕輪の魔石の力が無ければならないほどに弱ってしまった。魔石は非常に高価で市場にも滅多に出回らない。クリスティーナが王族でなければとっくに国は終わっていただろう。
パラリとページを捲ると、クリスティーナはその手を止めた。メモが挟まっている。読めない字で書かれている…と思った瞬間、頭の中にスラスラとその字の意味が入り込んできた。
「…これは…どういうこと…」
戸惑いながらもこれでメモが読める。その内容を見てみると…
「初代聖女が張った結界の…寿命ですって…?後の聖女が補強してもいずれ崩壊…張り直すには竜の涙という特別な魔石が必要…そんな!」
こんな重要事項を今まで誰も報告してこなかった。いや、出来なかったのだ。メモの内容が読めず、古代語でも現在のどこの国の言葉でもないこの文字が。
だが不思議とクリスティーナには理解することができた。それは、おそらくーー
「初代聖女の魔法…」
ーーそうよ。きっと聖女にしか読めないんだわ。なんてこと…すぐにお父様に報告しなくては。そして竜の涙…これは北の端の洞窟に棲む…と。
「魔物の森を抜けた先…」
ハァァとクリスティーナは大きく溜息を吐いた。
「やるしかないのね。」
そう決意した時、メモの裏側にもまだ字が書かれていることに気付いた。
「魔物の森に結界を張った時のことだわ。えーっと、北の地を治る竜に会いに行き、美しい音楽を奏でると竜は涙を流しそれが魔石となった。それを手に結界を張り、平和を築いた。…って…音楽⁉︎」
竜に涙を流させるほどの音楽を奏でる必要があるーー
今のクリスティーナにはすぐ適任が思い浮かんだ。
「彼にも協力してもらわないといけないのね。いいわ、私はどうせ一度死んでるもの。生き残るために命懸けの旅が必要なら、やってやろうじゃない!彼にも命を掛けてもらうわ!」
クリスティーナは本とメモを手に図書室を出た。