2.
「さて、シルバートに会わないのが1番だけど、敵国のスパイを街に放置しとくのも一国の王女として見逃せないわね。」
どうしたものかと思案していると、侍女のマリンが部屋にやって来た。
「失礼しますクリスティーナ様、そろそろ街へお出掛けになる時間です。」
「…わかったわ、準備をお願い。」
「畏まりました。」
そう、街へのお出掛けは市場の偵察であり遊びではないのだ。王族として身分がある限り、国のため民のため、私は仕事をする。
街へ行くことは避けられないが、噴水広場にさえ行かなければ大丈夫。曲なんて無視して仕事に集中すれば良いい。そう言い聞かせてクリスティーナは前回と同じように街へ向かった。
街へ着いたクリスティーナはさっさと市場を周り、早々に仕事を終えた。
このまま帰れば彼と出会わずに済む。そう思って馬車の方に向かう途中で、彼の歌声が聞こえて来た。
それは前世の記憶を揺さぶる歌声だった。前回の人生の記憶も同時に蘇る。王宮の庭で私だけに歌ってくれた贅沢な時間。私の目を見て微笑んで…きっと彼も特別な感情を持ってくれていると自惚れた…あの情けない思い出が私の中をぐるぐる巡る。己れの羞恥心が次第に相手への怒りに変わっていくのをクリスティーナは感じていた。
ーーなぜ私が彼から逃げなければならないの。むしろ未来を知っているなら行動すべきよね。攻撃は最大の防御よ!
私は噴水広場の方へ歩みを進めた。
「クリスティーナ様?どちらへ?」
「…会いたい人がいるのよ」
そう言って曲を歌い終えた吟遊詩人を真っ直ぐ見つめて、ぐんぐん進んでいく。そして自分の方へ真っ直ぐ歩いてくる人物に気付いた彼も、こちらへ目線を向けた。髪は黒で襟足が銀髪。顔は女性的だが瞳に色気がある。前世だけでなく今世においても女性の人気を集める容貌だ。
彼の目の前まで来て漸く歩みを止めた私は口を開いた。
「素晴らしい演奏だったわ。貴方ならすぐにでも宮廷音楽家になれるわ。」
彼は少し驚いた様子だったが、柔らかく微笑んで賛辞に対してお礼を返した。
「ありがとうございます。…あなたは…とても…。こんな綺麗な方に褒めていただけて嬉しいです。」
「私から紹介しても良くってよ。」
とっとと王宮で囲んで、外部と連絡を取らせないようにしようと考えた。
「え…」
しかし彼はなんだか困っていた。前回は紹介すると言えば喜んで返事をしていたのに。
「…では、お願いします。」
「善は急げね!さぁ今から着いてらっしゃい!」
「え!?」
明らかに動揺するシルバートや主人の行動に困惑するマリンを他所に、クリスティーナは彼を馬車に押し込むように乗せて王城へ帰った。
あまり長々と引っ張らず簡潔な物語にする予定なので、最後まで見ていただけると嬉しいです!
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