11.
あれから数ヶ月…クリスティーナは旅をしていた。
「んー!!最高!なんて世界は広いのかしら」
船の上でどこまでも青く続く海の向こう、水平線を見ながらクリスティーナは思いっきり空気を吸い込んで深呼吸していた。
***
北の森から帰還し、結界を通り抜けてパーゴスに戻った2人は、クリオと面会した。
「結界は無事に強化されたのですね。感謝いたします。」
「えぇ、これで当分の間は魔獣が国に入ってくる事はありません。また両国の間の結界も同じです。ただ…きっと私たちの国はもっと付き合い方を変えられると思っています。」
「ほう」
「すぐには難しいでしょう。私も今回は政治的な立場で来たわけではないので…これ以上何を言うつもりもありませんが…」
クリオの表情からは何を考えているのか読み取れなかったが、一通りの報告を終えてクリスティーナはシルバートと共にフローガへ戻った。
帰国後は父と母、つまり国王と王妃および兄のエドワードに今回の件を報告し、心配していたと泣きながら抱きしめられた。改めて家族の温もりに触れ、クリスティーナも目頭が熱くなった。その様子をシルバートも微笑ましく眺めていた。しかしこの時クリスティーナはある決意をしていた。それをみんなの前で告げてみた。
「お父様お母様お兄様、私…旅に出ます!シルバートと!」
「「「なにーーーーー⁈」」」
家族は勿論だが、シルバートも驚いていた。
「ク…クリスティーナ…殿下…あの…初耳なのですが…」
「だって今初めて言ったもの。でも決めたの。」
そう言うとクリスティーナはシルバートの元に駆け寄り、コソッと喋った。
「あなた、私の前から居なくなろうとしてるでしょ?」
「…パーゴスが僕を放っておくとは思いません。きっと始末されるでしょう。あなたを危険に巻き込みたくないんだ。」
「でもほら、熊さんの魔獣の時に魔石を拾ったでしょ。これ結構強い力があって、腕輪に新たに組み込んだら私の力も結構上がるわ。結界張ってれば追手なんて怖くないわよ。」
はあぁ…とシルバートは大きくため息を吐いて片手で前髪をくしゃっとして困っている。
その隙にクリスティーナは家族に向き直って頭を下げてお願いした。
「無茶を言っているのは承知してるわ。でも私、今回のことでどれだけ自分に力が足りないのか思い知ったの。この世界のことをもっと知りたいし勉強したい。どこかに嫁がなくても存在価値のある王女になりたいの。」
「クリスティーナ…」
もう誰が何を言っても意見が変わることが無いのは明白だった。そして世界に詳しく政治的に使える人間になるというのは、決してマイナスな事ではない。
国王は渋ったが最後には諦めて頷いた。
「良いだろう。ただし、もうすぐエドワードの誕生祭だ。その後に出発とせよ。あと旅の期間も決めて必ずその期間内に帰ってくるように…」
「ありがとう!お父様!」
食い気味に返事をしてクリスティーナは喜んだ。
その後エドワードの誕生日を祝うパーティが開催され、シルバートもそこで曲を披露した。前回の時と同じように、女性貴族からの黄色い声援は凄まじかった。もうその場面だけは、どう見ても前世のライブとやらと同じだった。
そしていよいよ旅立ちの時…
みんなに心配されたり、旅の安全を祈る言葉を掛けられたりしながらクリスティーナは一歩を踏み出した。
「行って来ます!…あ、そうだお父様!お母様!」
「なんだい?何か忘れ物…」
「私、帰国したらシルバートと婚約します!それじゃ!」
「「「なにーーーーーーーーー⁈⁈」」」
ギャーギャー言う家族を背に、クリスティーナは笑顔でシルバートと共に旅立った。
***
それから東の方に乗合馬車や徒歩で移動しながら隣国を旅した後、今は大陸の東の端から人生で初めて船に乗り海を渡っている。前世でも海などほぼ行かなかったので、クリスティーナは感動しっぱなしだった。
「ねえシルバート!海の向こうはどんな国かしら?」
「プラシノスに向かうよ。緑に溢れた国で治安もいいそうだ。結構大きい国だから暫く滞在することになるよ。」
そう優しく答えてくれるシルバートはもう何の迷いもなく、クリスティーナに対して愛しい者を見る眼差しを向けている。
クリスティーナも今は疑うことなくその好意に対して素直に応えている。
「シルバート、ちゃんと言えてなかったと思うから、はっきり言うわね。私、あなたの事が好きよ。」
「不意打ちはずるいなあ。でも僕も今言おうとしてたんだけどな。そういえば婚約話って…」
「あっ…ごっごめんなさい、さすがに困るわよね…嫌なら帰国してからやめることも…」
シルバートはクリスティーナの唇に自分の人差し指を当てて言葉を止めた。
「嫌じゃないよ。でも王族と平民が結婚なんて可能なのかなって。」
「あら、前例がないわけじゃないのよ。何より貴方はパーゴスとフローガの平和関係を維持するために尽力したじゃない。その功績はお父様もよく分かっているわ。もちろん帰国するまでに皆に納得してもらえる様に色々考えるわよ。」
シルバートは、そうか、と納得した表情になりクリスティーナにきちんと向かい合って彼女の手を取った。
「歌わずに告白するのは緊張するけど…僕もクリスティーナ、君のことが好きだよ。今度こそ幸せにするから。ずっと僕の隣にいて下さい。」
クリスティーナはその言葉に瞳が潤み、瞬きと同時に一粒の涙が頬を伝った。そして微笑んで…
「えぇ、喜んで!」
そんな2人を他の乗客や船員が盛大な拍手で祝ってくれた。空には太陽が輝き、幸せいっぱいのクリスティーナとシルバートを優しく照らしていた。
ーー終ーー
なんとか書き終えました!ちょくちょく手直しするかもしれませんが、とりあえず完結です!
面白かった!最後まで読んじゃった!という方は是非高評価お願いします!次作もがんばります!
最後までお付き合いいただきありがとうございました!