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1.

暗闇を沈んでいく。

身体は重く動かない。ただユラユラと暗い空間をゆっくりと沈んでいくだけ。

どう…して…

私がバカだったのね…

私のせいで、この国は…終わるのね

あの人に好かれようとして

気を引きたくて

話してはいけない事まで話してしまったから

あの国が攻めて来て、ただただ一方的に滅ぼされた

後悔してもしきれない、悔しい

もし神様がいて、こんな私を哀れに思って、やり直しをさせてくれるなら、もう二度と私は、あの人のことなど…好きにはならないわーーーー


パチッ

目が覚めるとそこは自室のベッドの上だった。

見慣れた天井、窓から差し込む優しい朝の光。

私はベッドから勢いよく降りて鏡の前に立つ。そこには朝日を受けてキラキラ輝くプラチナブロンドの髪とエメラルド色の瞳を持つ美しい女性が映っていた。

ここフローガ王国の第一王女、クリスティーナだ。

「もどった…?」

その時ズキンッと頭が波打って思わず顔をしかめる。

これまでの出来事が頭に流れてくる。


❄︎❄︎❄︎

私はある日、侍女のマリンと街にお忍びで出かけた。そこで噴水広場から素敵な歌が聞こえたので向かうと、美しい吟遊詩人の男性がベンチに座って楽器を弾きながら歌っていた。初めて聞くはずなのに懐かしい、そんな不思議な感覚でいると突然頭痛がして、ある人の記憶が流れて来たのだ。それは私の前世の女性の記憶で、彼女は好きなバンドのヴォーカルを推していて、彼のグッズをたくさん持っているような子だった。そして改めて吟遊詩人の方を見ると、なんと彼は推しのヴォーカルの人そのものだった!

完全にファンの気持ちで最後まで演奏を聞き、曲を披露し終えた彼の元にはたくさんの人がお金を入れに向かい、私もその中に入って行った。

「素晴らしい曲と歌声だったわ。」

そういうと吟遊詩人の彼はこちらを向いて微笑みながら応えた。

「ありがとう。貴方はとても綺麗な人ですね。」

ボンっと顔が一気に沸騰するように赤くなったのを感じた。前世の記憶を思い出す前なら、そんな賛辞など言われ慣れていて反応する事も無かったが、前世を思い出した今、推しだった人から綺麗などと言われれば、それはもう舞い上がってしまうものだ。

それからの展開は早かった。彼は名をシルバートと言い、私の口利きもあって王宮お抱えの音楽家となり、王女である立場を使って私は彼と頻繁に会って時間を過ごしていた。本来なら他所からの流れものと一国の王女が仲良くするのは良い目では見られないが、特に王位継承権を持たない私は、そのうち政略結婚をするのが分かっていたので、周囲も今だけの王女の淡い初恋を見守ってくれていたのだろう。

しかし私はそんな彼らを、後に失ってしまう。

私は浮かれすぎていた。シルバートのことは完全に推しのヴォーカルの人として見ていて、気に入られたくて、好かれたくて…国の兵士達の訓練場に行きたいと言われれば連れて行き、北の隣国パーゴスとの堺にある結界は私が張っているということも話してしまって…


パーゴスとは昔に一度争った歴史がある。大陸の北には魔物が多く住む山々が連なっていて、その対処で国は貧しくなる一方のパーゴスは、南の豊かなフローガを狙って戦を仕掛けたのだ。しかし当時のフローガには聖女がいて、北の山に結界を張ったことでパーゴスに恩を売り、戦を収めたのだ。その時に念のため、二度と争いが起きないように両国の国境にも結界が張られた。その結界は国を害す目的のものを弾く効果があり、武器を持って国を跨ぐことが出来なくなった。

そして私クリスティーナは現在の聖女であり、常に付けているブレスレットには結界を維持する魔力が込められた魔石が埋め込まれている。聖女の力は代々弱くなり、これが無いと結界は解かれてしまうのだ。


そんな重要な秘密を、自分を特別視してほしい、そんなバカな思いのためだけにシルバートに喋ってしまったのだ。秘密を言った数日後、私とシルバートは城の皆には内緒で街へ出掛け、彼の仲間が待ち伏せている店にデート気分でウキウキで入ったところで私は呆気なく捕まった。薬を嗅がされ意識を失い、目が覚める頃にはお店の中に人はおらず外では戦の音がしていた。ブレスレットが無くなっており、結界が解かれていたせいで北のパーゴスがフローガを侵略しているところだった。結界に頼っているフローガの兵士達は完全に平和ボケしていて戦闘レベルは低い。

私はお店から出ようとしたが何故か扉は開かず、戦の間外から兵士が押し寄せることもなく、ただただ呆然としていた。そしてあっという間に決着がついた。

暫くして閉ざされていた扉が外から開かれ、パーゴスの兵士達が私をフローガ城へ連行していった。

城内は変わり果てた姿になっていた。あちこちに使用人や城に出入りする貴族の死体が転がっていた。

謁見の間に着いた時、パーゴスの王太子であるクリオが、両親である王と王妃を斬った後だった。兄である王太子は逃げた先で捕まったらしく、おそらくその場で斬り殺されている。

残るは私ひとりーーー。

そして今1番見たくない顔が私の前に現れた。シルバートだ。クリオの周りに立つ兵士達の中に、彼はいた。私に気づいた彼は酷く気不味そうな顔をして目線を外した。

ーーあぁなんて愚かだったの。恥ずかしい。敵国の者に必死で媚を売っていたのね私…。でもね…でも私は…あなたの事を本当に…

そうしてクリオの前に跪いて白いうなじを晒し、剣が振り下ろされた。私は暗い闇の中に落ちていった。


❄︎❄︎❄︎


爽やかな朝を自室で紅茶を飲みながら過ごす。

侍女のマリンが淹れた紅茶はいつも美味しい。

これまでの記憶を整理し、私は神様に与えられた慈悲のやり直しの人生を有り難く享受することにした。

そして決意する。今回の人生では私は王女としてこの国を守る。それからーーー

「たとえ推しだとしても、もう恋などしないわ!」

読んでくださってありがとうございます!

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