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お弁当屋さんの特別な副菜

作者: Hk


 自分の噂話を聞いてしまった。


「あの人って仕事も人柄もパッとしないよな」

「分かる」


 分かる〜! 私ってパッとしない。

 入社十年、独身、恋人無し、バリキャリでもない。


 しかしね、「妻の代わりに子供迎えに……」と君達が残した仕事を片付けているのは私なんだよ。気付いてないなら教えてやろうか、あ?

 と、心の中で上がった炎を燻らせてその場を去る。直接思い知らせてやる気概もない。


 とはいえ、彼らを羨ましく感じるのは事実だ。

 自分以外が皆、誰かに選ばれ、誰かの特別な人であるという事実は、私の心をえぐる。




 ──こんな日はお弁当屋さんに寄るしかない。


 私には、疲れた日に寄るお弁当屋さんがある。

 メインは日替わり、副菜は三種類を選ぶことが出来て、一食八百円。さほど安くは無いが、中堅会社員が躊躇する額ではない。


「いらっしゃいませ」

「こんばんは」


 閉店ギリギリに行くと、レジには同年代の男性が入っていた。

 この店は老夫婦+息子で運営しているらしく、奥様とは世間話する仲だ。今夜は息子が店番らしい。

 いつも通りショーケースを覗くと、頭上から「あの」と声をかけられた。


「よかったら、これどうですか」


 彼がショーケースの上に乗せた皿には、えびと豆腐のあんかけ。

 わっ、見たことない! どうやら、いつもとは違う副菜らしい。

 特別!? もしかして、常連の私に特別におすすめしてくれたのでは!?


「新作とかですか!?」

「いえ、そういうわけでは」


 わ、あーー、違った、やらかした、恥ずかしい。

 浮かれた私に落ち着いた声で返され、顔を上げられなくなった。


「えっと、そしたらそれください」

「はい」


 ろくに店員さんの顔も見られず、会計を済ませてお弁当を手に店を出る。

 こんな私に特別な配慮してくれることなんてあるはずないのに。おこがましく喜んでしまった自分が虚しい。


 でも、えびと豆腐のあんかけはとっても美味しかった。




 数日後。

 お弁当屋さんに寄ったら、今日の店番は奥様だった。

 いつも通りに世間話して副菜を選んだら、「ふふ」と意味ありげに微笑まれる。


「この間、息子がおすすめしたやつ食べてもらえた?」

「えびと豆腐のですよね? すごく美味しかったですよ」

「よかった! あれね、あなたがお好きなんじゃないかしらって息子が新作として考えたものなの! お好みに合って嬉しいわ!」


 返す言葉を失って、でも頭の中で反芻する。

 新作だった、私のための。


 急激に頬に熱が集まる。



 ──なんだ、特別だったんじゃん!!



 《 おしまい 》


↑いつものやつ入れたら1000文字超えたので、後書きで…笑

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― 新着の感想 ―
素敵なお話でした! 『特別』っていいですね。
自分が誰かの特別だ感じるの、すごく嬉しいことですね。 この後の展開も楽しみなとても素敵なお話でした!
超特別だったー! 息子さん、ドキドキしながら懸命に落ち着いた声を出したんでしょうね。 ほっこりしました。ありがとうございます!
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