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 シン達が居る食堂を後にしたアストラの胸を燻るのは、シンに対しての怒りではなく自己嫌悪だった。

 何も言い返して来ないと分かって居ながらも、語気を荒らげて敵意をむき出す。これじゃあ、全てを奪っていった奴らと何ら変わらない。単なる弱いものいじめだ。


 シンの悲しい表情が脳裏に浮かぶ。


「畜生!畜生畜生畜生畜生が!!」


 足踏みは強く、歩くスピードは早くなる。この場所、シンが作ったこの場所に居心地の悪さを感じ仕方がなかった。理由はある程度、予想がついている。結局はアストラ自身の心の問題。


 孤児院のドアを開け、アストラは森の中へと進み始めた。此処には凶悪な魔獣が数多く生息しているが、シンの施した結界が外と内を隔て安全が確立されている。


 嘗て全てを奪った男に守られている現状。とは分かっていても、結局今の世の中で一人、生きていく事は限りなく難しいのも分かっている。


 シンが居なければ今生きているかも定かではない。


 答えも出ない葛藤がアストラの足を早める。


「これは……血の匂い?」


 風に運ばれ、鼻腔をついたのは嗅ぎなれた匂いだった。

 後に残る嫌な感じが呼び覚ます、過去の惨憺たる状況。一体この先で何があったのだろうか。


 皆に──シンに伝えるべきか。一瞬それも考えたが、あんな事を言った後に頼るなんて都合が良すぎる。それに食堂には誰一人欠けず皆がいた。肉食獣の狩りにしては血の匂いが濃すぎる。それらを考慮した時、導き出される答えは一つ。


「魔獣の生き残によるものだろうな」


 これはシンの失態。ここで魔獣を討伐し戻れば、シンに見せつけられる。──一体何を見せつけようと。


 よく分からない感情を見て見ぬふりをして、アストラは血の匂いがする方角へ走る。泥濘に足を取られても。小枝に服を引っ張られても振り払い、ただ前を向いて。


 暫くして立ち止まるアストラは息が止まるような強い衝撃を受ける。結界の外に居るのだ。助けを求める同胞が何人も。


 片目や片腕を失いながらも、結界を叩いて何かを叫んでいる。魔獣から逃げてきたのだろうか。──しかし、彼等を引き込む為には結界を破壊しなくてはならない。


 シンを呼べば、結界を解除する事も可能だが悠長な時間が無いのは明白。


「一部だけなら……」


 外側から見る結界は不可視だ。一部を解除しても、ピンポイントで魔獣がなだれ込む可能性は低い。まずは彼等を結界の内に引き入れ、一足先に家へ戻る。そして、シン達を連れてこの場に戻る。これが一番効率的嘗つ、生存率を高める選択に違いない。上手くいく保証はない。でも、シンならきっと迷わずに行動するはずだ。


 意を決したアストラは固唾を呑み込む。緊張感が律動を早め、心音は鼓膜に届く程に強い。


「…………」


 目の前にある台座、その中心で浮かぶ青い宝玉を掴むと伝わる熱と痛み。アストラが歯を食いしばり、宝玉を取り外すと強い衝撃が体を突き飛ばす。


「痛ッ……」


 よろめき立ち上がると、口を大きく開いた。


「お前達!早くこっちに来い!!──おい!何をやってるんだよ!!」


 何かがおかしい。背筋が凍るような違和感がアストラの膝を笑わせる。


 結界は解かれた筈だ。加えて、アストラが目の前でしていた行動と彼等がして欲しかった事は一致していた筈。なら何故、アストラの指示に目の前で絶望を宿した瞳で見つめる彼等は従わないのか。


「何をしてる!早く来いよ!」

「……ない」

「え?」

「すまない……」


 微かに鼓膜を言葉が掠った刹那──


「フレイムアウト」


 アストラの視界に青白い炎が一気に立ち上がる。喉が焼けるほどの熱波を持ったそれは、巨大な壁となり助ける筈だった同胞を瞬く間に呑み込み盛る。


 響く絶叫と肉の焼け焦げた悪臭が希望が絶望に変えた。アストラの選択が大きな過ちだと分かった瞬間、込み上げる吐き気。


「おぇええぇぇ……ッ!!」


 吐瀉物を地面にぶち撒ける中、声が聞こえた。


「馬鹿だねぇ。お前らの家族はもう生きてねぇっつうの。魔族に生きる場所なんかねぇんだよ。なぁ?お前もそう思うだろ?」

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