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09.夢の世界と現実世界

「ハァ~~……」


 ヒカルは、大きなため息をついた。


 ()てがわれ部屋で、ミナミと2人で話をしていたときに響いた悲鳴。


 隣の部屋に飛び込んだらメイダが居たこと。それだけでも驚くことだが、そのあと聞いた声が、一緒にいたミナミの「あれ? メイダじゃん」のまさかの言葉と「どうしてミナミがこの世界にいるのですか!」のメイダの返し言葉。


 そしてそのあと、メイダがダイタに対して行った脅迫(寸劇?)。


(なんか、一気に疲れてきたな……)


 それよりも、この4人が一緒にいる中で、誰に何から話したらよいのかをヒカルは考える。


(……よし!)


「メイダ、ダイタはこの世界の人間だが、彼に俺とミナミの世界のことを話していいのか?」


 ヒカルの問いかけに、メイダは腕を組み、考えるようなそれでいて可愛らしい表情になる。


「本来ならダメです。なによりヒカルの世界のことは、神官の教えの中でも「禁忌」に該当しますから。一般人がそれを口にしたら、間違いなく消されるでしょう」


 メイダが言う「禁忌」の言葉に、ダイタの体がまたビクッとなる。


「……ですが、すでに私を「ここで」見ている以上、今さらという感じがします。なので……」

「なので?」


 ヒカルは、メイダに聞き返す。


「問題はありますが、問題ないことにしましょう」


 ヒカルはその答えに、半分呆れる。禁忌も何もあったもんじゃないと……。それでも彼女の了承を得たことで口を開いた。


「わかった……。まずはダイタには俺がわかる範囲で説明する。もし、間違いがあれば都度訂正してくれ」


 そうヒカルは、メイダに向かって告げた。


「なので、ミナミもとりあえず俺の説明を……」


 ヒカルがそう言ったとき、ミナミはなぜかダイタのほうに歩み寄った。


 ヒカルの目線は、メイダからミナミへ移動している。


 ミナミはなぜかダイタのいるベッドのほうへ向かって言う。


「ねぇダイタ、歳いくつ?」


 そう彼女は、唐突にダイタへ聞いた。


「えっ、俺? 16だけど……」


 突然のミナミの問いかけに驚いたダイタは、率直に答える。


「じゃ、あたしと同いだから呼び捨てでいいよね?」


 ミナミがさらにダイタに顔を近づけて言う。そのとき、ダイタの顔が赤くなった。


 その光景を見てヒカルは「このタイミングで言うか? おまえ絶対楽しんでるだろ」と彼女に突っ込みを入れたくなったが、さっきまでの緊張した空気を一変させたミナミの行動に、感心もした。


 ミナミの問い掛けに対して、ダイタは「あっ、あぁ……別に構わない」と呟く。


「オッケー。じゃ、あたしのこともミナミでいいから。ところでダイタ。身体の調子はどう? 熱は?」


 ミナミはそう言いながらダイタの額に触ろうとする。


「おい! ちょっと!」


 ダイタがその手を振り払おうと両手を前に出したが、ミナミは反対に彼の手首を自分の左手で掴み、逆の手で彼の額を触る。


「う~ん。体温はまだ高いねぇ~」

「そうなのですか?」


 ミナミのその言葉に、横に居るメイダもミナミの頭越しに手を伸ばし、ダイタの頬に触れ「本当ですね~」と満足そうに頷いた。


 ヒカルはその様子を見て「おい、メイダ。おまえさっき、ダイタの顔を抱きしめていただろうが……」と、さらに突っ込みを入れた。


 ヒカルには、ミナミとメイダのせいで、ダイタの顔から湯気が出ている幻が見える。


「フッ」


 そのときヒカルは。メイダの口から独特な呼吸を感じた。


 これは、オーラの呼吸だとヒカルはとっさに理解する。メイダが彼の知らないオーラの呼吸を行い、そのオーラをダイタへ流していたのだ。


「「「「…………」」」」


 そしてしばらくの沈黙のあと。メイダが口を開いた。


「身体の中に侵入した彼の悪いものを私のオーラで消しました。大したことはありません。なので、すぐに良くなるでしょう」

「驚いた……。神官とは、そんな治療まで行えるのか?」

「いえ、これくらいは普通の医師でも行えるでしょう。それに私は神官ですから」


 彼女はそう誇るように言った。


 メイダとミナミはベッドから離れて部屋の椅子に座る。


 ヒカルはその様子を見てから、ゆっくりと3人に向かって今まで体験したことを説明しはじめた。


 まずは、二つの世界が存在することを説明する。メイダとダイタがいる「ムーカイラムラーヴァリー」と、彼とミナミが存在する別の世界だ。


 話していてこんがらがるので、便宜上、ヒカルとミナミの世界は「現実世界」と呼ぶことにする。


 二つの世界は、お互いに眠ることで行き来が可能な世界。「夢の世界」であることを告げ、普通に見る夢とは異なる、別の「夢」であることも伝えた。


 行き来できる割合は、一定の確率で稀有(けう)であること。普通の夢と大きく異なるのは、夢の中で死ぬと現実でも死んでしまうことだ。


「えっ……」


 死と言う言葉を聞いて、ミナミの口から驚きの言葉が漏れる。


 ダイタは「それは、十分注意する必要があるな……。それじゃ、ヒカルとミナミは、現実世界で寝た状態ってわけなのか」と呟く。


「うん。あたしは寝たのを覚えてる。ヒカルもでしょ?」


 ミナミが、同意を得るように聞いてきた。


「いや、俺は違う」

「えっ?」


 ヒカルの否定にミナミは「えっなんで?」って顔をした。


「実はな……」

「待ってください!」


 ヒカルがミナミに、自分のことを告げようとした瞬間、メイダが彼を止めた。


「えぇとですね。話の腰を折ってごめんなさい。その話に関しては私がします」

「メイダが? 大丈夫なのか?」


 ヒカルは正直心配した。


 なぜなら、メイダには話せないことが多いからだ。と言うよりも「話してはいけないこと」のほうが多いだろう。


 そのヒカルの様子を察したのか「大丈夫ですヒカル。()(つま)んで説明しますから……」とメイダが言った。


「かいつまんで?」


 ミナミがそう言いながら、首を傾けて「ん?」というしぐさを取った。


「まず最初に……。私がヒカルたちの現実世界に行った目的ですが、それは、禁忌中の禁忌に当たるので言うことはできません。口にした瞬間に、私を含むここにいる全員が消去される可能性があるからです。なので、それは聞かないでください」

「わかった」

「うん」

「あぁ」


 3人が素直に返事をした。今ここで反論する意味がないからだ。


 メイダは神官である。神官であるメイダは『聖神器』を使うことで、眠らずにムーカイラムラーヴァリーと、現実世界を行き来することができることも3人に告げる。


 そして、現実世界に行ったその日に、身に着けていた神器が暴走。偶然にも通りかかったヒカルに、神器である指輪を外してもらったこと。彼がその指輪を自分の指にはめて暴走を抑えたことだ。


 ところが、しばらくしてからまた、メイダが付けていた別の指の神器が暴走する。


 それをどうにかするために、ヒカルは同じようにメイダの指から神器を外すが、すでに自分にはめている指輪に反発して、同じように自分に付けることができない。そこでヒカルは自分のオーラを制御しようと試みる。しかし結果的には、オーラがさらに暴走してしまったことを説明した。


「じゃ、その流れの中で、ヒカルが付けてしまった聖神器がヒカルのオーラに反応して……」


 ミナミがそう言うと、エイダが答える。


「はい。ヒカルは、ムーカイラムラーヴァリーに転移してしまったのです」

「ふ~ん。じゃ、あたしがこの世界に来れたのは運が良かったんだねぇ~」


 ミナミとメイダは、そう会話するが「いえ。ミナミのは偶然ではありません」とメイダが否定した。


「ふぇ?」(ミナミ)


「私は、ヒカルが消えたあと、ヒカルの手から弾け飛んだ神器の気配をたどっているうちに、ミナミに出会ったのです」

「あ~。そうだったんだ。そういえば、(から)まれているところを助けたっけ」

「はい、そうです。そのあと、ミナミと別れたあと、私はいったんこちらの世界へ戻り、ある方法で神器を探します」


 それを聞いてダイタが「ある方法?」と聞いてきた。彼もだいぶこの雰囲気にも慣れてきた感じだ。メイダが答える。


「詳しい方法は、聞かないでください。でも、その方法で探したところ、中層のこの島、この場所であることがわかりましたので、急いでやって来たのです」

「それで……いきなり現れたのか」


 ヒカルが、そう相槌を打つ。


「はい、ですが反応のあった神器は一つだけではありませんでした」

「一つだけじゃない?」


 ヒカルが聞き返す。


「そうです……。先ほど、その答えが判明しました」

「それは?」


 ヒカルがさらに聞くと、メイダが率直に答えた。


「ミナミが左手にしている指輪がそうです……」

「「「えっ――!!!」」」


 ここにいる三人が、ミナミの左手を見る。見られたミナミは、一瞬「えっなんで」って表情をしたが、すぐに「あっ!」という顔つきに変わった。


「まさか……これ?」


 ミナミはそう言いながら、自分の左手を上げて見せた。その左手の人差し指には見たような指輪がはまっている。


「これって、道場の庭に落ちてたんだけど……。まさか、ねぇ……ははは」


 ミナミは気まずそうに笑っている。


「だから、ミナミはここに来てしまったというわけか?」


 ヒカルはそう呟き、メイダは続けて口を開く。


「そうなりますね。ただ、ヒカルと違うのはハギオン(聖なる光)のオーラで転移したわけではないのです。聖神器を付け、寝た状態でこちらに来られたわけなので、ヒカルとは違い、ミナミの身体はちゃんと現実世界に存在していると思います。でも、聖神器を身に付けてさえいれば、寝ただけでも転移可能だったなんて……私も詳しくは知りませんでした」


 ヒカルは考える。自分という一つの存在と身体がそのまま転移してきたのと、睡眠という行動を経由して、身体は現実世界に残したまま精神で転移してきた彼女。ここに居るミナミはいったいなんなのだろうと……。


 そして彼女とは違い、現実世界で身体が存在しないヒカルは、行方不明になるはずだ。


 横で聞いていたダイタが、疑問を口にする。


「メイダの話だと、ミナミはこれからどうなる? 今日の夜寝たあとの話しだけどさ」

「ミナミが現実世界で寝た翌日の朝、普通に目覚めるはずです。ですがヒカルに関しては、身体がそのままこちらへ転移しているので、今晩普通に寝ても戻ることはできないと思います……」


 メイダは、言いづらそうに言う。


 それを聞いてヒカルが「やはり、そうなるか……」と呟いた。


「「「…………」」」


 一瞬、周りの空気が気まずくなる。


「じゃぁさ。ヒカルがなんだっけ? その『ハギオン(聖なる光)』とかいうのをもっかい使えば戻れるんじゃない?」


 ミナミが勢いよくそう言い、メイダがそれにかぶせて続けて口を開く。


「普通ならそうです。私はそれで転移可能でしたし、1回こちらに来たヒカルなら可能だと思います。夜にためしてみましょう」


 ヒカルが「わかった。そうしよう」と言うと、ここでの話は一旦終了した。


 それから4人で話して、メイダの存在が他人にバレないように、夜までダイタの部屋に居ることになった。そのうえでダイタは体調が良くないことを理由にして、ヒカルとミナミの2人が、3人分の夕食を多めに部屋まで運んでくる。4人で食べるためだ。


 食事は、パンとスープ、串焼きの肉だったが、知らない味のスパイスが効いていた。ヒカルとミナミにとっては何かもの足りない感じもしたが、素朴と言えばそれまでだとヒカルには感じた。ミナミはまんざらでもなさそうな感じで食べている。


 食事の途中で、メイダがため息を吐きながら呟いた。


「あぁ~。現実世界で食べたパンや、ミナミがくれた肉まんのほうが美味しかったです……」

「なんだ、肉まんって?」


 だいぶと言うか、食事しているうちにメイダに慣れてきたダイタが彼女に聞いてきた。


「とても柔らかい「ふにゃ」っとしたパンなのですが、噛むと中から熱い肉汁が飛び出てきて……あのような食べ物は神殿でも食べたことがありません」


 ゴクッ……。


 それを聞いて、ダイタの喉が鳴った。彼から見て神官のメイダは、身分が上の人間だ。普段一般人が食べているよりも当たり前に美味しい物を食べているに違いない。その彼女が「神殿でも食べたことがない」と言っているものとはいったいなんなのだろうと……。


 こんな感じの会話で時間は過ぎ、ミナミが眠たそうな顔つきをしている。


「念のため、どうなるか心配だし、先にミナミを寝かせよう」


 ヒカルはそう提案した。


「ミナミ、悪いけど向こうの世界で起きてもすぐには連絡して来ないでくれ。なんなら昼過ぎくらいに家に来てくれたほうがいいだろう」



 ミナミが「なんでさ?」と、顔で訴える。


「万が一、俺が現実世界に戻れなかったときに、朝早くミナミが家に訪れたら変に思われるだろう?」

「そっか、うん……わかった」


 ミナミは理解したようにそう答えると、コックリコックリと船をこぎはじめた。


 その瞬間、ミナミの姿が薄くなる。


「えっ!」


 ダイタがその様子を見て声を挙げたが、ミナミはそのまま俺たちの目の前からゆっくりと消えてしまった。


「消えたな……」

「あぁ、本当に消えた」


 ヒカルとダイタで呟く。


「はい。でも大丈夫だと思います。ミナミはまだ神器を付けていますから、またこっちの世界へ来られるはずです」

「そう……なんだよな」


 ダイタが、心配そうに呟いた。


「では、俺も試してみるか……ハギオンで戻れるかどうか」

「はい。お願いします」


 ヒカルの言葉にメイダが彼のほうを向いたので、ヒカルはオーラの呼吸をはじめる。慣れてきた感じで、身体の中で生成したオーラが集まってくる。


「「「…………」」」


 ヒカルが「あれ?」と口にした。それを聞いてメイダが「どうしました?」と聞いてくるが、彼はそのメイダの声を無視して呼吸を続ける。


「(なんだか……)この間と違ってオーラが勝手に集まらないし、膨れ上がりもしない!」


 ヒカルはそう声をあげた。前回、現実世界で行ったときは制御できないほど集まった。だけど今は、それとは異なる感覚。


(どうしてだ?)


 メイダが「ヒカル! もっと強くオーラを濃縮してください!」と叫ぶが、なぜだか彼の耳には遠く聞こえる。


(濃縮って……)


 オーラは確かに身体の内部でドンドン生成される。それを左手の1カ所に集めることもできる。でも現実世界のときのように「あんな」膨れ上がり方はしない。


「おい!」


 いきなりダイタが叫んだ。ヒカルの体の表面から光が(にじ)み出し、その光が、さらに大きく漏れ出していたからだ。彼は続けて叫ぶ。


「メイダ! ヒカルのオーラが体から漏れ出てる。こんなふうに……オーラが体外へ放出されるなんて、これが神器の力なのか!」


 オーラは、単体では放出できない。何かに定着させるだけだ。そのオーラが体から離れるということは、神器が作用している証だった。その光景を見て、メイダも叫ぶ。


「ヒカル、違います! オーラを放出するのではなく、指の神器に集めていくのです」

「あぁ! わかってはいるのだけど、この間ほどに1カ所で大きく……膨れ上がりはしないんだ!」


 ヒカルは止めることなくオーラの呼吸を続ける。体の中で、オーラを生成している感覚は感じ取れるが……。


 そのとき……。


 ゴフッ!!!


 ヒカルは、体の中から喉にこみ上げてくる強烈な何かを感じ、両手で自分の口元を押さえた……。


「「ヒカル!」」


 その光景を見て、ダイタとメイダも彼の名を呼んだ……。



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