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44 暗い通路をぬけた先

 日光のあたらないところ特有のカビと湿気とほこりの匂いが、ないまぜになってルイの鼻を刺激する。

 〈鹿の角団〉の地下アジトに入って、ルイの最初の感想は「くさい」だった。

 じっさいに鼻腔からくるものだけではなく、アジトそのものがおそろしいほど辛気臭く、胡散臭かった。


 しんがりのアルバートはせまい入口からはしごで降りてくる勇気がなかなか沸かないらしく、ルイを辟易させた。

 ルイが下から何度も「いやならついてこなきゃいいでしょ?」「どうせなら、居残って見張ってなさいよ、入口を?」「いいかげんにして!」「こないなら、さきにいっちゃうわよ!?」などとせかすはめになった。


 二人が悶着しているあいだも、ディレンツァとトレヴァは黙っていた。

 トレヴァは(あまりさわぐと盗賊たちにみつかるんじゃないか)と危惧していたが、ルイはみつかったならみつかったで、大立ちまわりを演じればいいと思っていた。

 盗賊団相手に、こそこそしているのは性にあわない。


「あ、ああああぁぁぁぁああああ!! うぎゃ!?」


 アルバートがはしごの途中で脚を踏みはずして落っこちてきた。

 床にしりもちをついたのち、仰向けにたおれて後頭部をしたたかにぶつける。

 一瞬、白目をむいた。


「あら、時間短縮したのね、お利口さん」ルイがにやにやする。


 アルバートが羞恥と憤怒のいりまじった顔で「むぅ」とそれをにらむ。

 

 口論しそうな雰囲気に、トレヴァが仲裁に入ろうか悩んだ瞬間、「ずいぶん静かだな――」とディレンツァがつぶやいた。


 全員がディレンツァをみる。

「かくれがだからなのか、それともなにか理由があるのか――」


 そして、ディレンツァの視線をたどって、通路に目を向ける。


 定期的にあかりがともされているが、それほど明るくはなく、5メートルも離れれば、人間も人型の影にしかみえないだろう。

 くわえて、アジトの内部に盗賊がたむろしている気配は感じられない。

 なんとなく体感温度がさがった気がする。


「でも、あの人たちが入口を守ってたぐらいなんだから、無人ってことはないよね?」

 アルバートが訊ねてから口をつぐむ。


「もともとあまり常駐の人はいないんじゃない?」ルイがつづける。

 常駐の盗賊という概念がなんだか奇異なものに思えたけれど。


「うえにいた輩は民間人のような恰好をしていたので――」ディレンツァが受ける。「団員の多くは庶民として町で暮らしているのかもしれない」


 トレヴァはそれについて考える。

 確かに、〈夕凪館〉に夜毎集まってくるような手合いのなかには〈鹿の角団〉の盗賊らしき者もいたが、ふだんどこで活動しているのかは知らなかったので、そういうこともあるかもしれない。


「でも、あのおばかさんがここにきた可能性はあるのよね?」


 ルイの問いかけに、ディレンツァはゆっくりとうなずいた。


「ああ、港に向けて走っていったのだし、さきほどの連中の反応からしてもまちがいないだろう」


「敵が少ないなら好都合じゃない?」ルイがトレヴァをみて笑みをうかべる。「さっさと追いついて、あいつにビンタのひとつでもしなきゃ!」


 トレヴァは苦笑しながらあいまいに首肯する。


「だが、敵の領域であることは確かなのだから、最善の注意をはらう必要はある」

 ディレンツァがまぶたを一度、ぎゅっと閉じる。

 おそらく目をならすためだろう。


「とにかく、急ごう――」


 それから駆け足をうながし、小走りに移動をはじめたので、全員それにしたがった。


 この暗い通路を走りぬけたさきに、どういう光景が待っているのか――トレヴァは緊張せずにはいられなかった。

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