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41 どぶねずみ同士

「おい、死んでるのか?」


 トミーがバド(とトレヴァ)にかけた第一声はそれだった。


 バドとトレヴァがそれぞれの重荷を背負いながら旅にでて、やがて路銀も尽き、空腹と不安と恐怖と失望とによって精神も肉体も疲弊しきって、いきだおれるようにして〈はずれの港町〉の浜辺にたどりつき、横臥していたときのことだった。


 波の音の合間に、急にトミーが現れたのだ。


 トミーは少し大きめのどぶねずみの死骸をみつけたときのような声で、「おい、死んでるのか?」と靴さきでバドをつついた。


 ぼんやりと見あげたトミーの顔はうっすら笑っているかのようにみえた。

 じっさい、あとから知ったトミーの陰湿な性質をかんがみると、おもしろいものをみつけたという好奇の目をしていたように思う。


 トミーの身なりも、バドやトレヴァと同様に、ほめられたものではなかった。

 トミーは年がら年じゅうおなじかっこうをしていたし、ふだんの生活をみても、(メオラはそれを嫌悪していたが)清潔さを意識して暮らしているとは思えなかった。爪につねにごみがたまっているタイプだ。


 バドの視界のかたすみで、ぼろきれのようにすり切れたトミーのコートのすそが、潮風にゆらゆらゆれていた。


「おまえが死神なんだとしたら、いま死ぬところなのかもな……」


 しばらくみつめてから、バドがそうつぶやくと、トミーは右目だけ大きくしたのち(おそらく、驚いたのだろう)、ククと笑った。


 そのあと、いくらか来歴に関する会話をしたが、バドはよく憶えていない。

 朦朧とした状態だったし、どちらかといえばトレヴァのほうが正確に困窮している事実についてうまくつたえていたからだ。


 バドはそもそも見知らぬ人との会話をひねりだすのが上手ではないうえ、依怙地なぶん、助けをもとめる声を発することが苦手だった。


 やがてトミーは衰弱したバドとトレヴァを、デュアン(とメオラ)のところにひっぱっていった。

 そして、その日の夜には、〈夕凪館〉において、一同で杯をかわしていたのである。

 トミーがどういう善意でもって、自分たちを仲間にひきいれようとしたのかバドにはわからない。


「なぁ、おれたちなんか実戦経験もないし、役にたつかあやしいぜ?」


 バドの問いかけにトミーは「まぁ、どぶねずみ同士、なかよくやろうや」と赤ら顔で、ククと笑った。

 

 どぶねずみにはどぶねずみの匂いがわかる、それで充分だろという顔だったし、なによりバド(やトレヴァ)には干天の慈雨ともいえる申し出だったので、「ああ、まぁ、恩にきるよ」と応えたきりだった。


 デュアンは「ちょうど、人員がいなくて補充を考えてたところだから」と言ったし、メオラにいたっては「にぎやかなほうがいいわよ」とうすく笑った。


 ギャングといっても、バドたちが思っていたようなものではなく、ただなんとなく群れているだけの集団だったが、居心地が悪いわけでもなく、離脱していく契機があるわけでもないので、バドは(トレヴァも)半年のあいだ、居つくことになってしまった。


 そのあいだに、町の人々にいくらかの知り合いもできた。

 どんどん馴染んでいってしまったので、なおさら、夢と現実とが乖離していく感覚に悩まされたのだ。


「まぁ、どぶねずみ同士、なかよくやろうや」


 トミーの親しみと卑屈さが合わさった声が、耳の奥によみがえる。


 バドははしごを降りて、定間隔に設置されたランプのうすあかりに照らされた〈鹿の角団〉の地下アジトの通路にたちながら、目を閉じていた。

 

 やがて暗闇に順応しようと目をゆっくり開けて、瞳に闇を映しこもうとする。

 

 通路に降りてくるまえの、あごひげの団員たちが哄笑していた様子に、バドはかつての仲間たちとの談笑を思いだした。


 なにより、トミーはまだいるのだし、きっと慣れてくれば、ときどきは笑ったりするぐらいの日々にもどれるのではないだろうか。


 有能な盗賊の一群で、根本的にドライな人間たちが集まっていたのだとしても、全員が全員、そこまで冷酷な態度をとってくるわけではないはず。


 バドは視界が暗さに慣れると、ふとももを二回たたいてから、ゆっくりと歩きだした。

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