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35 人目にとまる行動

 どちらかといえば悪めだちだが、バドの存在がよくもわるくも人目にとまるおかげで、トレヴァとルイたち一行はバドのゆくえを見失わずにすんだ。


 デュアンたちの家から出発して大通りにでたものの、もはやバドの背中はどの方向にも垣間見ることはできなかった。

 バドの向かうさきが〈鹿の角団〉のもとだとしても、トレヴァには(当然ルイたちにも)そこがどこかはわからなかった。


 見当さえつかなかったので、本来なら途方にくれていただろうが、バドが走っていった方角については、大通りにいる知人たちが教えてくれた。

 いちばん懇意にしていた知人の船大工見習いが話してくれた情報がいちばん確かなものだった。


「ああ、バドならさっき見かけたぜ。通りのまんなかにつったって地面を蹴とばしたりしてたぞ。なんだかやけになってるみたいにもみえたな。さわらぬ神になんとやらだから、オレはひきとめるのはやめて、様子をみるだけにしたけどな。そのあと港のほうに走ってったな。あいかわらず、あたまの悪そうなツラをしてたぜ、へへ」


「港……? なんでだろう?」


「さァな、港が目的地かどうかは確かじゃないが、方角としては産業区のほうを向いてたってことよ。どこに向かってるのかなんて知りたくもないが、あいつがどうしようもないほどばかで致命的な方向音痴でも、海にとびこんで波にさらわれるつもりとかっていうんじゃないだろうよ――」


「うーん、とりあえず、ありがとう」

 船大工見習いに謝辞を告げて、トレヴァはディレンツァをふりかえる。


「港に向かっても、いま船は動いてない」

 ディレンツァがトレヴァよりさきに口を開いた。


 トレヴァは少し面食らったが、「……はい」とうなずく。


「〈鹿の角団〉だけが特別に船舶を利用しているということは考えづらい」


「めだつもんね」アルバートが応える。


「それにそんなことしたら、湾岸事務所にたむろしてた人たちが黙ってないわね」ルイが苦笑いする。「でも、あのばかな子が一心不乱に走ってったってことは、そっちに用事があるのよね?」


 ルイの問いかけに目を細めてから、ディレンツァがつづける。

「一連のことをトミーが犯人だと断定したのだから、バドがなにかしら私たちの知りえない情報を得ている可能性があるな」


「……というと?」トレヴァが小首をかしげる。


「私たちにはメオラやデュアンの遺体しか残置されていなかったが、バドにはそれ以上の、たとえばメッセージのようなものでもあったのかもしれない」


「――だれかがいっしょにいた形跡はなかったものね」ルイがひきつぐ。


 ディレンツァがうなずく。

「物理的な手段ではなく、魔法のようなもので伝言を残すこともできないわけじゃないが、わざわざそんなことをするメリットはないだろう。われわれが到着したとき、デュアンのときもふくめ、室内に魔力の残滓のようなものがあったが、それはトレヴァたちから聞いた話ではトミーのマジックアイテムということになる」


「いずれにせよ、バドが港のほうをめざしたってことは、そっちに〈鹿の角団〉やトミーがいるってことですね」

 トレヴァがディレンツァをみる。


 ディレンツァはトレヴァの目をみてから、ゆっくりうなずきかえす。

「港のほうに、〈鹿の角団〉のアジトがあるのではないかと私は思う」


「……え? まさか」アルバートが瞠目する。「あっちのほうにそれっぽいものなんてなかったよね?」


 アルバートに訊ねられて、ルイは口をつぐむ。

 賛意を示すのがなんとなく不服だったが、じっさいそうだったので返答しづらかった。


 それをみて、ディレンツァが応える。

「しかし、町のいずこかにアジトを設ける可能性はあるだろうな。立地的にみて、この〈はずれの港町〉は草原の国の入口であり、出口だ。それももっとも王都と行き来がしやすい要所ということになる」


「――だから、その町の港にアジトがあると考えるのは自然といえば自然だと」

 トレヴァが考えこむ。


「うーん、どうだろう?」

 アルバートは腕組みして、ななめうえをみる。

「船を格納する建物や、物資搬入の倉庫とかが建ちならんでいたけど、人が大勢ひそんでいるような感じはなかったしなァ。そんなところに盗賊たちがいたら、そもそも目的どおりに施設が利用できないよね。倉庫を開けたら物資代わりに盗賊がわんさか登場、なんてね、へへ。あ、まさか灯台とか? でも灯台なんてもともと灯台守くらいしかいないだろうから、そんなところに盗賊たちがいればみんなに注目されちゃうよね、やっぱり……」


「まァ、いいわ。とりあえず、行ってみましょうよ。あれこれ可能性を模索してるあいだに、あのおばかさんはどんどんあともどりできなくなっちゃうんでしょうから」


 ルイが声高に提案すると、ディレンツァがうなずいた。

 そして、ディレンツァの目線をうけてトレヴァも頚をたてにふる。


 四人がかたまって全力で走ると、それこそバドのように余計な疑視を集めることになるので、トレヴァたちはそれぞれに距離を少し置き、小走りで移動することにした。

 しかしそれでも、産業区がみえてくる頃には、全員が無言のまま全力で走った。

 それはひとえに、だれもが感じていた悪い予感に起因する行動だった。

 潮風は心地よく、白波がたつ海はおだやかだったが、ルイたちにはなんの安らぎもあたえてはくれなかった。

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