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33 不可解な表情

 住居のドアを開けて、するりと入りこんだディレンツァは一瞬だけ周囲に警戒したのち、だれもひそんでなく、なんらかの気配もないことを感じとると、メオラのもとへ向かった。


 そのあとをルイとアルバートがおどおどと追従する。

 見知らぬ家で、かつ死体があると宣告されていたため、おびえているようだ。

 アルバートにいたってはあきらかに混乱しており、入りしな、小声で「おじゃまします」とつぶやいた。


 念のため、かがんでしっかりと視認したが、メオラは事切れていた。

 手足が痛々しく不自然な方向にねじれていたが、顔はうっすら笑顔をうかべているようにみえる。

 死の際して不可解な表情だと思われたが、もしかしたら即死に近かったのかもしれない。


 さわってみようか考えて、結果的にやめたが、あばらをはじめとする胴体のそこかしこの骨も折れているのではないか――ディレンツァはメオラの全身を注視しながら判断する。


 そして、ふと魔力の気配のようなものをメオラの周囲に感じた。

 デュアンのときにもうっすらと感じられたものだった。

 ディレンツァは集中してみたが、それ以上なにかの情報を得ることはできなかった。


「どう?」ルイがおっかなびっくりといったそぶりで、うしろからのぞきこんでくる。アルバートにいたっては目をそらして、家の内装などをみていた。「やっぱり、亡くなってる?」


「――そうだな」ディレンツァは答える。「いかなる魔法や蘇生術を駆使しても、息を吹きかえすことはないだろう」


「……これって、どうみても殺されたのよね?」ルイの視線はもはや人間をみるものではなかった。


「そうだな、自分でこういう死にかたはなかなかできないだろう」べつの人がいえば冗談のように聞こえただろうが、ディレンツァは真剣な顔だった。「絞殺のようだが……」そして腕組みして黙りこむ。


 だが、のあとになにがつづくのかはわからなかったが、ルイが訊ねなかったので、ディレンツァも答えなかった。


 アルバートはぼんやりと「いいお家だね」とつぶやいた。

 あまりに場違いなせりふだったので、ルイでさえつっかかるタイミングを逸した。


 そこへトレヴァが入ってきた。


 落胆しているようだが、顔は高潮していた。

 怒りつかれたといった表情だった。


 ルイもアルバートも話しかけづらい雰囲気だったのだが、トレヴァのほうから声をかけてきた。

「メオラは――?」


 ディレンツァはゆっくりたちあがって、頚を横にふる。

「君の友だちが話していたことは正しいのかな?」


「友だち――ああ、あいつですか」

 トレヴァは皮肉めいた顔をする。

 そして、メオラの死体に目を向ける。


「あいつは、トミーが殺したって断言しましたね……」

 トレヴァはそう言ってから部屋を見まわす。

 なにか手がかりがないかさがしているのだろう。


「デュアンを殺したのも、そのトミーだと彼は話していたが……」ディレンツァが受ける。


「そうですね――」トレヴァはうなずく。「でも、その信憑性はなくもないかな」


「というのは?」アルバートが訊ねる。

 いきなりしゃべったので、ルイさえも驚いた。


「二人の死にかたですかね。いやな言いかたですけど」


「絞殺のようだが……尋常ではないな」ディレンツァが話をうながす。


「絞殺って文字どおり絞め殺されてるってことでしょう? それに尋常もそうじゃないもあるの?」

 ルイが思わず訊ねる。

 黙っていられなかったのだ。


 ディレンツァはルイを一瞥する。

「人力では考えられない強いちからで一気に締めつけられている。全身の骨がへし折れるほどの」


「え?」ルイもアルバートもたじろぐ。


「そして、抵抗する間もなく、命をうばわれている」ディレンツァは淡々とつづける。


 ルイは渋面をし、アルバートは口を「ほ」の発音のかたちにしたまま固まった。


「なにそれ、どういうこと?」ルイが不審顔のまま訊ねる。


「――ヘビですよ」トレヴァが答える。


「ヘビ?」アルバートが頓狂な声をだす。


「トミーは大きなヘビを自由自在にあやつれるんです。王都で盗んだとかいうマジックアイテムのおかげで――」


 ルイとアルバートはディレンツァをみる。


 二人の視線には、そういう品物があるのか訊ねる意図があり、ディレンツァはそれを理解してゆっくりうなずいた。

 ディレンツァが肯定したことでルイもアルバートもそれ以上質問してこなかった。

 いちいち説明するのが面倒だったので、トレヴァにとってはありがたかった。


「デュアンとメオラの両方をトミーが殺したんだとすれば、そういうやりかただったと考えるのが自然なんですけど……」

 トレヴァはつぶやく。

 歯切れが悪かった。


「宝石のかけらを手に入れたところで、〈鹿の角団〉と交流がもてるようになるとして、ただそれだけの理由で、そのトミーがいままで仲間だった者たちを割り切って、躊躇なく殺せるものだろうか――」


 ディレンツァが小声でつづけると、トレヴァははっとして顔をあげる。

 図星だったのだろう。


「おかしいわよね、ふつうじゃないわ。いくら私でも、その程度の利益でたとえば王子やディレンツァを手にかけるなんてできないもの」ルイが口をとがらせる。

 こうみえて義理人情にはうるさいところがあるのだ。


「……そりゃそうだよ」と言いつつもアルバートはなぜか及び腰になる。

 あきらかにルイならやりかねないとその目が語っている。


「〈鹿の角団〉の価値が心のなかでそれほど肥大するほど、君たちは窮状にあったということなのかな」ディレンツァの問いに、トレヴァは黙りこむ。


 わらにもすがりたいくらい深刻でふがいない日常であったことはトレヴァ自身感じていた。

 しかし、トミーまでもが、たとえば漁夫の利を得るために身内を手にかけてでも、とまで苦しんでいたかはわからなかった。

 だがじっさいにデュアンとメオラは死んでしまった。

 トレヴァは混乱する。

 トミー以前に、なにかがおかしい気がする。


「私も、君の考えが正しいと思う――」ふと、ディレンツァが小声でつぶやく。

 独白のようだったので、ルイとアルバートには聞こえなかったようだ。


 トレヴァはディレンツァをみたが、ディレンツァはもうドアのほうを向いていた。


「――ねえ、ところであの聞かん坊はどこへいったの?」ルイがディレンツァの視線につられて訊ねる。


「流れで考えると、〈鹿の角団〉に接触するつもりだよね」アルバートが答える。「そもそも、そのための材料を仲間に盗まれてしまったって思ってるから、それを追いかけてるわけだし」


「それはわかってるわよ」ルイが目をキツネのようにして怒る。「それがどこなのかって聞いてるのよ――」


「ああ、なるほど……」アルバートが納得する。「この町にアジトがあるってことなのかな?」


 アルバートがトレヴァをみたことで、自然とルイとディレンツァも目を向けてくる。


「あ、いや、おれは知らないですけど――」トレヴァは急に視線がそそがれたことで動揺しながら応えるが、すぐに「あ、だから、すぐ追いかけないとだめですね」と気持ちをあらためる。


 ディレンツァはうなずく。

 そして、「とにかく、行こう」と外出をうながした。

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