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19 親密になったきっかけ

 ディレンツァが購入したパンを手わたすと、トレヴァは「すみません」と何度も恐縮しながら受けとった。

 パンにはレタスとリンゴのソースがついた白身魚がはさまっている。


 昼食をとらないまま午後になってしまったため、露店での休憩を提案したところ、トレヴァにはもちあわせがなかったため、ディレンツァが自分の勘定でふるまうことにしたのだ。

 最初はかたくなに拒否していたトレヴァも、食物をまえにし、ソースの甘い香りを吸いこむと抵抗できなくなった。


 二人は舗道沿いにある錆びたベンチに腰かけた。

 (それほど高くないが)ニレの木陰だったので、やや強めの陽射しもさえぎられ、のどかな気分になる。

 バドが行方しれずになって混乱していたトレヴァも、徐々に落ち着いてきたようだった。


「――でも、あなたがたが沙漠の国の戦争をめぐる当事者だったなんて……なんだか夢物語みたいな気がしてくるけど」


 パンをかじりながらのトレヴァの感想に、ディレンツァはほほえむ。「信じられないかい?」


 トレヴァはうすく笑う。「いや、信じますよ。だって、あなたがおれにうそをつくメリットなんかないでしょう」


 〈夕凪館〉のまえで邂逅してから露店にたちよるまでのあいだに、ディレンツァはみずからの来歴をかいつまんで話して聞かせた。

 

 沙漠の国の壊滅、王子とルイとの脱出、〈鹿の角団〉との因縁、〈月の城〉での不始末といった経緯だ。

 〈宝石のかけら〉の詳細は省略した。

 話せば長くなるし、そこに国家復興の希望を見いだしているという旅路の核心部分は、唐突に聞きかじったばかりの少年には理解しづらいだろう。


 いずれ協力してもらうことがある場合には話したほうがいいだろうが、出逢って早々にする話ではない。

 とにかく、〈鹿の角団〉の悪意とディレンツァたちの奔走が雰囲気だけでもつたわればいい。

 それがトレヴァの警戒をとけばいいのだ。


「でも、それじゃ災難つづきですね。せっかく港まできても、航路が停まってるし」


「ああ、君もわかっていると思うが、悪いことっていうのは重なることが多くてね。難しいものだよ」


 トレヴァはにやりとしたのち、しばらく黙った。


 ディレンツァにもたらされた情報を消化しているのか、自分のゆくすえについて思案しているのかはわからない。


 ふと目前を数人の子どもがワイワイさわぎながら駆けぬけた。

 残像しかとらえられないくらいの速度だった。

 ディレンツァは目を閉じる。

 知らない街角で、出逢ったばかりの若者と会話をしていることが少しふしぎだった。


「――君がさがしている友人とは、もう長いのかい?」トレヴァが、手にしているパンをすべて口に放りこんだあと、ディレンツァは訊ねた。


 なにげない会話の流れにしたがったつもりだったが、その瞬間にうかべた複雑な表情で、トレヴァが手をこまねいている悩みや葛藤のようなものが、そこに凝縮されているような気がした。

 トレヴァにとっての核心部分なのかもしれない。


 トレヴァはディレンツァから目をそらし、腰かけているベンチの錆をこする。「そうですね、長いです。親密に会話をするようになったきっかけはさておき、知り合いになったのがいつかは、思いだせないくらいですから――」


 誇張ではなく、ほんとうにさだかではなかった。

 トレヴァはいつ、どういったいきさつで、バドと知り合ったか明瞭に思いだせない。


 なぜなら、二人は幼なじみとして、自我が芽生えるまえからずっと行動をともにしていたからだ。気がつけば、近所の子どもたちにまざって、いっしょに遊んでいたのである。


 伯爵都にはじつに多くの子どもたちがいたので、おそらく共通の友だちでもいたのだろう。

 あるいは、子どものたまり場のようなところがあったにちがいない。


 トレヴァの家のある貴族たちの居住区と、労働者階級のつどうバドの住まう地域は若干離れていたが、年端もいかない子どもたちにとっては関係なかった。

 親の職業や社会的影響力などが、わざわざ距離をとるような理由にはならなかったのだ。


 二人はやがておなじ学校に通うようになった。

 女神信仰の名のもとに開校された義務教育の現場には、出生職業等によるクラス区別などはなかった。

 そこでおなじクラスになったことで、トレヴァとバドは二人セットで過ごすことが多くなった。


 トレヴァはわりと優等生(それは家名や父親によるプレッシャーもあったけれど)、バドは典型的な悪ガキだったが、立場が対極にあることが逆に二人をひきつけたようなところもあった。

 なにより、根本的な性格や性質は二人とも、とても似通っていたのである。


 喜怒哀楽の受けとめかた、感情の共有の仕方に相通ずるものがあったのだ。

 放課後に高い落葉樹にのぼったり、羊の群れと走りまわったり、大きな声で叫んだりすることに、成績の良し悪しなど関係あろうはずもなかった。

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