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偽りの勇者  作者: 石田ぽち
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贖罪の誓い

「……ねぇ、起きてる?」

「…………どうしました?」


 寝ていたベッドの中から顔だけ動かし声の主を見る。

 その人物は隣のベッドに潜り同じように顔だけ覗かせ、こちらを不安げに見ている。


「変な顔してるね……」

「へっ、変って失礼ね!」

「静かに、他の人に気付かれるよ」

「あ……」


 飛び起きベッドの上で慌てて口を抑えて、きょろきょろと辺りを見回す。


「まぁ、部屋には防音の効果もあるし大丈夫だろうけど」

「そうじゃない!」

「それでも、大声を出せば気付かれる可能性はありますよ」

「う……」

「それで何ですか? カイリス様(・・・・・)

「カイリス様、か……」


 少し寂しそうに顔を伏せる少女、しかし、俺は構わず話を促す。


「明日も早いんです、早く寝た方が良いですよ」

「まあ、そうなんだけど……近い内に、また十魔将との戦いもあるのよ?」

「大丈夫だよ、カイリス様なら。もう既に十魔将の1体も倒してるんだ、心配はいらないよ」

「あの十魔将は真正面から向かってくるタイプだったから上手くいったようなものよ……だけど、今度の相手は狡猾のレンゲル。策を弄して卑怯な手もいとわない相手という話よ」

「……」


 確かにそういう相手に彼女は弱い、だけど……いや、だからこそというべきか。


「カイリス様ならきっと大丈夫だよ」


 彼女の純真さ、だからこそ聖剣に選ばれたのだろう。

 相手が多少の策を弄したところで、彼女ならいずれそれを正面からでも打ち破り、いずれは魔王を届くだろう。

 少しくらいの策略など、彼女の前では意味をなすはずがない。


 そう、思っていた……


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「…………」


 目を開けると、少し見覚えのある天井が見える。

 窓の外は深夜といったところだろう、恐らく数時間も寝てないだろう……。

 そして、直前に見た夢とカイリスの殺されたシーンがフラッシュバックする。


「ああ、くそ……」


 思わず悪態が口から出る。

 この宿、この部屋は最後にカイリスと泊まった部屋だ、そのせいで今の夢を見てしまったのだろう。

 そう、レンゲル討伐に向かう数日前──その記憶を夢に見た。


 悔やんでも悔やみ切れない、もう少し準備していれば何とかなったのではないか、せめて死を回避することはできたのではないかと……。

 何故、レンゲルが1体だけで行動してると決め付けて行動したのか、綿密に調査しマガツもこの近くに来ているという情報を仕入れることができていれば違った結果を拾えたかもしれない。


 ただ──それは意味のない回想、言い訳だ。


 過程がどうあれ、結果としてカイリスを失うという失態を犯した、それが全てだった。


「……」


 まだ起きる時間でもないが、寝れる気もせず、俺は起き上がると部屋にある椅子に腰掛ける。


『汝が街で休むと言ったのにもう良いのか?』

「もう休んださ……アムルガこそ、休まなくて平気なのか?」

『我は休息を必要とせぬからな』

「そうか……」


 暫く何もせずぼーっと椅子に腰掛けていると、ふと部屋の外に気配を感じて急いで鎧兜を着け聖剣を手に取り身構えていると部屋の扉がノックされる。


「(殺気は……ないか。というより、この気配は……)」

「私だ、入るぞ」

「……どうぞ」


 聞き覚えのある声が外から聞こえ俺が返事をすると、鍵が差し込まれる音が聞こえると解錠され、扉がゆっくりと開く。


『知っている者か?』

「(あぁ……)」


 部屋の中へと入ってきたのは貴族の服を着た身なりの整った青年。


「夜更けに失礼。戻ったと聞いて、いてもたってもいられずにな……大丈夫だったか、カイリ、ス……」

「ケルヴィン……」

「……いや、違うな。誰だ君は……クロ、か?」

「ああ……」


 鎧兜を着けていたとしても立ち振る舞いや仕草、喋り方でわかるくらいの付き合いはある、中身が変わっていることに訝しげな表情を作り俺の名前を呼ぶ貴族の男。

 知っている顔が現れたので俺も兜を脱ぐ。


 ケルヴィン・ウォルター、彼はセインウルト王国の伯爵家の次男で、勇者カイの秘密を知っている数少ない人物だ。

 この宿の手配も彼がしてくれたものだ。


「どういう事だ? 何故君だけがここにいる……勇者が街に戻ったと聞いて急いで戻ってきたのだが、彼女はどこにいる?」

「……」

「…………おい、何故黙っているッ!? 無事なのだろうな!?」

「……彼女は死んだ」

「なっ!!??」


 そう告げると、ケルヴィンの表情が驚愕、絶望、悲哀と変わり、最後に怒りや憎しみに近い表情で俺を睨み付ける。


「貴様は何をしていたッ!? 一体何のために同行していたのだッ!?」

「……ッ!!」


 カツカツと靴音を鳴らして近寄り問い詰めるように怒声を浴びせる、俺に弁明など出来ないしする気もない。


「くそっ! 答えろ、一体何があったと言うのだ……!」

「わかってる……」

『勇者の死は秘匿するのではなかったのか?』

「(彼は元々俺達のことを知ってるし、イリスと俺の住んでた孤児院や旅の資金の出資者で、イリスの婚約者でもあったんだ。いずれはバレる……それにケルヴィンは知っておくべきことだ)」

『そうか』

「説明しろ。納得、できるものなのだろうな……?」

「納得は……わからないけど、説明はするさ……」


 少し冷静さを取り戻したケルヴィンに俺は説明し始める。


 この街を出た後、あの場所に着き、十魔将・渇欲のマガツとの会敵と戦闘、あと一歩で勝てそうだったところを途中で現れた狡猾のレンゲルに子供を人質に取られ無抵抗で殺されたこと、その後、彼女の遺言で死を隠したこと、掻い摘んでわかりやすく説明していく。

 俺の説明をケルヴィンは俯き黙ったまま最後まで聞き、俺を睨み付ける。


「情けないものだ……君はそういう相手から彼女を守るために同行したのではなかったのか? 何もできずにおめおめと帰ってくるとはな……」

「……」

「しかし、それで何故、君が聖剣を扱えるようになった? それに魔術も使っていたそうじゃないか、君にそんな才覚があるとも思えないが」

「奈落に落ち魔物に襲われたところ無我夢中で聖剣を手に取ったら、鞘から抜けたんだ。あの時は必死だったからよく覚えてない……魔術は多分聖剣のお陰だよ」

「ふん、そうか……」


 アムルガのことは伏せた、多少話に無理があるとしても、奈落で自称邪神の声が聞こえ、その力を借りて聖剣を振れるようになっただのと胡散臭い説明をするわけにはいかなかったから。


「……」

「……」

「…………」

「…………」


 暫くの沈黙が続き、やがて意を決したようにケルヴィンが目を開く。


「……話はわかった。しかし、君が彼女の代わりに聖剣を持って、それでどうするつもりだ? それは国に返すべきじゃないのか?」

「………………倒す」

「倒す? 聖剣で彼女を殺した十魔将に復讐でも果たすつもりか、彼女よりも弱い君が?」

「復讐は当然する……それに魔王も倒す」

「……ハッ! ははっ、言うに事欠いて、魔王を倒すときたか!」


 鼻で笑い冷たい目で睨め付けてくる、だから、俺はその目を正面から見つめ……


「ああ、それがイリスの最後の望みだから」

「!」


 そう言った。


「本気、みたいだな……良いだろう。ひとまず君に聖剣は預けよう。ひとまず誰にも言わず黙っていてやる、支援もこれまで通り行おう。最もバレた時は切り捨てるがな」

「……何で、だ?」


 正直、支援は打ち切られると思っていたから、その言葉は意外だった。


「これは責任と義務と罰だよ、クロ。彼女を守れなかった、君への。途中で諦めることも死ぬことも許さない。私に宣言したなら生きて為せ、魔王は必ず倒してみせろ」


 呪言のように言葉を吐くケルヴィンだが、俺は元よりそのつもりだったので真っ直ぐにその言葉を受け止める。


「わかった。……いや、最初からそのつもりさ」

「……ならいい。必要なものは改めて届けさせよう……まだ夜明け前だ、もう少し休んでおけ。十魔将や魔王を本気で倒すつもりなら体調は万全にしておくんだな」

「ああ……」


 そう言って出ていくケルヴィンを見送り、眠気はないがベッドに潜り込み、目を瞑る。


『眠くないのではないか?』

「無理にでも眠るさ……責任、だからな」

『成る程』


 目を瞑っていると、いつの間にか眠っていたようで、起きた時には日が昇っていた。


 ベッドから起き上がり、鎧を着込み聖剣を背負うと部屋を出て宿の1階に降りると、1人の執事服の男が声を掛けてくる。


「どうも勇者カイ様。おはようございます」

「あなたは?」

「私はケルヴィン様の使いの者です。支援物資をお届けに参りました」

「随分と早いんだね……」

「はい、朝一番に届けよとのご命令でして、ご確認を。他に必要なものがあれば、別途ご申し付けくださいませ」


 まるでケルヴィンにちゃんと寝ただろうな? と言われた気もしたが気にしないことにした。

 男が床に置かれた大きめの袋を指し示す、俺はその中身を確認する。

 中にはお金の入った袋と食料袋、野外で使うキャンプ道具の入った袋、他には装備品の手入れに必要なものなども入っている。

 中を確認し終わった俺は支援物資を受け取る。


「いつもありがとうございます。確かに受け取りました」

「では、以上で私は失礼させて頂きます。貴方様に神の御加護がありますように……」

「あ、待ってください」

「はい?」

「仕入れて欲しいものがあるんですが、頼めますか?」

「物にもよりますが……何でしょう?」

「それは……」


 俺の注文を聞き、ケルヴィンの使いは「承りました。では、また後日」と帰って行った。

 それを見送り、俺は宿の主人から食事を受け取り、部屋の中で朝食を取る、人前で兜を脱ぐわけにはいかないので宿で食事を取る時は基本的に個室で食べていた。


「ふぅ……(言葉使いを変えるのも疲れるな……これから慣れていかないと)」

『しかし、何故あのようなものを頼んだのだ?』

「ん? あれか……多分必要になるからだよ」

『ほう?』


 食事を食べ終わると食器を宿の主人に手渡し、俺は宿を出る。


「さてと、まずは騎士隊長のハルデルトのところで話を聞くとするか……」


 そう呟き、ローレイユの兵の詰め所に向けて歩き出した。



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