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偽りの勇者  作者: 石田ぽち
14/19

初めての……

 絶望に包まれながら無力な僕はただ泣いていた。

 何も出来ないまま、僕の両親も村の人達も無惨に殺され、村も家も畑も容赦なく潰された。

 魔王に対する怒りや憎しみ、でも、何も出来ない歯痒さとそれ以上の悲しさと苦しみにただ咽び泣いた。


「ああぁぁぁーー……!」


 音のない村に僕の嗚咽だけが響く、誰もいない、皆死んでしまった、そう思っていると……


「クロル君……?」

「!」


 誰もいないと思っていた村に、ふと僕の名を呼ぶ声が聞こえる。


「良かった。無事だったのね……」

「おねえ、さん?」


 振り返ると、畑に行く途中でよく挨拶をしていた近所のお姉さんが立っている、よく見れば、他にも何人か生きていた人がいたようだ。


「うっ、うぅ……あ……」

「クロル君……」


 感情と涙が溢れ続ける僕をお姉さんが優しく抱きしめる。


 僕は泣いた、泣き続けた、僕は生きているし、他にも生きている人達はいたけど、それでも、父と母

は死にたくさんの人達が死んだ、家も畑も滅茶苦茶だ。

 これから、どうすればいいのか先の不安は拭えないけど、僕は生きていて両親に生かされた。

 この先、どうなるかなんてわからないけど、僕は生きなきゃならないと思った、死んだ皆の分まで。


 それから、僕達は比較的無事な家で夜を過ごし、倉庫に貯めてあった備蓄で飢えを凌いだ。

 ただ備蓄にも限界があり、畑も荒らされていて再び収穫できるようになるには時間がかかりそうで、不安を抱えながら日々を過ごしていた。


 ──数日経ったそんなある日、2人のセインウルト王国の騎士が馬車を連れて村へとやってきた。

 難しい話はよくわからなかったが、どうやら村への支援物資を持ってきたらしい、そして、騎士達が村の状態を一通り確認すると僕達は王都で保護されることになると告げた。

 僕達の人数から、騎士達は一度王国へと戻り、馬車を増やして再び来ると告げた。


「では、私達はこれで。また来ます、それまでお気を付けて」

「はい、ありがとうございます」


 村の皆が騎士や王国に感謝の言葉を口にする。

 僕も感謝した、絶望しか見えなかった未来に光が差した気がした。


「いいや、またはねぇ!」

「!!」


 ──やっとみえた小さな希望、でも、それはすぐに打ち壊された。

 いつの間に現れたのだろう、2人の騎士の後ろには大振りな片刃の剣を持ち粗野な格好をした大柄な男達が立っていて、慌てて振り向いた騎士の首めがけて剣を振り切った。


「きゃあああぁぁぁーーッ!!!!!」

「なっ、盗賊だとっ……貴様ッ!!」


 騎士の首が飛び、お姉さんが悲鳴を上げ、もう1人の騎士が慌てて剣に手を掛ける。

 でも、遅い、それは僕にでもわかった。

 盗賊は1人じゃない、2人がかりで騎士の腹に剣を刺す、騎士は為す術もなく口と腹から血を流し倒れた。


「さあて、と、邪魔な騎士様はいなくなったわけだが……」

「げへへ……無駄な抵抗はやめておくんだなぁ」


 何が起こっているんだろう、わけがわからなかった。

 いきなり現れた10人程の盗賊が物資を運んできた騎士達を殺し、物資の中身を確認しにやにやといやらしい笑みを浮かべている。


「あっ、あなた達は何故こんなことをッ!?」

「あん? んなモン、楽に飯にありつくためだ」

「そんな事のために……殺したの、人間を?!」

「ハッ、そんな事? 違うな、この世界じゃそれが全てだ! どうせ、世界は滅びんだ、真面目に働く奴がバカなのさッ!!」


 村の人達が盗賊を非難するが、そんなことは気にもせずに、むしろ、僕達を嘲笑っている。


「くっ……セインウルト王国が黙っておらんぞ?!」

「げひゃひゃっ! それがなぁ、案外バレねぇモンさ!」

「あぁ、奴等は魔王軍がやったのか盗賊がやったのかなんて細かく調べたりしねぇのさ。魔王軍様々だ!」

「なっ……」

「そう。ま、目撃者さえいなけりゃ、だがなぁ……」

「「「「!?!?」」」」


 盗賊の目がぎらりと光り皆を見る目付きが変わる。

 わかりやすいように武器を持ち上げ僕達に見せつけると皆が明らかに動揺し怯えているのが伝わってくる。


「(どうして……)」

「あぁ、だが、女ァ、てめぇは使い道があるから、生かしといてやるよ」

「ッ!!」


 盗賊の頭領らしき男が下卑た笑みを浮かべ、手下達に手で何か合図を送ると、手下達がにやにやと笑いながら剣を振り上げ……


「ひっ!!? や、やめーーッ!!!」


 ──容赦なく、村の子供を殺した。

 それは一瞬のことで僕は何も出来ず、それをただ見ているだけだった。

 その殺された子は僕も一緒に遊んだことのある優しい少年で好きな子がいると言うのを聞いたことがある。

 続いて、他の盗賊達も生き残った村の皆を殺し始める。

 畑に行く途中に挨拶したおじさんも、洗濯の仕方を教えてくれたおばさんも、一緒に畑仕事を手伝った歳の近い子供達も、みんなみんな殺されていく。


 僕は為す術もなくただその光景を眺めていた。


「(なんで……)」

「げひゃひゃひゃ……」


 1人の盗賊が僕に気付き、目を向けると目を細め口元を歪めて笑う。

 どうやらこの盗賊は僕に狙いを定めたらしい。


「げひゃひゃ、おめぇもみーんなのところに送ってやるよぉ」

「……」


 それも良いかもしれない……そう思った。

 魔王軍に村を襲われ、騎士が来て助かったと思ったら、今度は盗賊に襲われ村の皆が殺されていく。

 そんな世界でこれからも生きてどうすれば良いって言うんだ。

 もう……死んだ方がマシなのかもしれない。


 盗賊が剣を天高く振り上げる、俺はそれをスローモーションになったかのようにゆっくりと僕に向かって振り下ろされる剣を僕は目を瞑って、その刃を──死を僕は受け入れる。

 不意に訪れる衝撃と温かく柔らかい感触が僕を包み込む。


「……え?」


 目を開けると、そこには僕を抱きしめたお姉さんがいて、その背中からどくどくと血を流していた。


「てめぇ何してやがるッ!? 女は生かせっつっただろうがッ!!」

「ヒィッ!? 親分すみませんッ!!!」


 盗賊が怒声を上げている、でも、その声は僕の耳には届かなくて現状を理解するのに精一杯だった。


「おねえ、さん……?」

「クロル君、だい、じょ、う……ぶ?」

「なんで……」

「ごめ、ん……ごめん、ね……」

「……」


 何がごめんなのか、悪い事なんて何一つしてないって言うのに。


「に、げて……」

「おねえさん……」


 お姉さんはそれだけ言い残して、僕の手の中で静かに息を引き取った。


「(なんで、どうして……)」

「あーあ、ったくよぉ、この女ァ、余計な真似してくれやがってよォ……親分に怒られたじゃねぇかよ……」

「(どうして……こんな世界で、人間同士でこんなことをしてるんだ……これじゃあ、魔族も人間も何も変わらないじゃないか……いや、むしろ人間の方が……こんなの、こんなのって……)」

「ケッ!! てめぇは大人しく奴隷になってりゃ良かったんだよォ、ゴミがッ!!」


 お姉さんを殺した盗賊がお姉さんの死体を蹴り付ける。

 その光景を見て、僕の中で何かがプツリと切れ、僕の中でずっともやもやと溜まっていたモノが爆発した。


「あああぁぁぁーーーッ!!!!!!」

「「「「!?!?」」」」


 気付けば、僕の体はまるで僕の体じゃないように素早く動き、盗賊に体当たりをしていた。


「てっ、何だァ、このガキャァ……?!」


 僕の体当たりに全く動じず、一歩も動かすことは出来ない、それどころか僕の体の方が飛ばされる。

 ただ──


「は? な、何だ、こりゃ……?」

「……ん? おいっ、どうした?!」


 盗賊が自分の体の異変に気付き、手で自分の腹を触る、その手にはべっとりと血がついている。

 盗賊に体当たりをした瞬間、僕が盗賊の腰からナイフを引き抜きそれを刺したからだ。


「いでぇッ!! いでぇッ!!! ち、血がァッ!!?」

「……」


 痛がる盗賊に駆け寄り、更にナイフで盗賊の首を斬り付ける。


「がっ?!! ぁ、が……──ッ!!!!」


 喉を切られ声にならない悲鳴を上げ盗賊は絶命し、僕は返り血をまともに浴びる。


 それが僕が初めて人を殺した瞬間だった。


 何か感じるかと思ったけど、特に何も感じなかった、魔王軍も人間の盗賊も一緒だ、どちらも僕達の生活を害し苦しめ殺す──僕の敵だ、それなら……


「ころしてやる……」

「あぁ?」


 僕はナイフを両手で持ち、盗賊の頭領──僕の敵に向かって真っ直ぐ構えていた。



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