空の魔物
「良し! では、実戦に移りましょう!」
唐突にそんな言葉がロンドから出て、俺達はある場所までやってきていた。
俺達が休んだ村とはまた違う村で、少し広めだが村の破壊跡はこちらの方が雑というか酷い感じがした。
「ここはね。ゲーテの配下の魔族が魔物達を連れて襲った村なの」
「なる程」
言われて気付く、壊され方が違うように感じたのは複数の魔物に襲われたからなのだろう。
「グルルルゥゥーー……」
「……」
それに誰もいなくなった村なのに現在進行形で暴れている魔物がいるようだ。
様子を見に来た騎士や旅人達を現在進行形で襲っているのかもしれない、実戦という意味を理解した。
「グリフォンに、キマイラか……」
どちらも翼を持つ大型の魔物だ、確かに実戦に向いてるだろう。
「グルゥオオオォォォーーッ!!!!」
「ピィヒュルゥゥゥーーッ!!!!」
「飛翼!」
咆哮を上げ、2匹の魔物が空から襲い掛かり、俺は対抗するように空へ飛び真っ直ぐに剣を振るが、グリフォンが翼を大きく羽ばたかせると自身は急上昇し、俺はグリフォンが起こした突風に少し押し戻される。
「くっ!!」
動きが鈍くなったところにキマイラが爪を振るってくる、俺は聖剣を前に構え空中で後退りながらも何とか受け止める。
「いいぞ、カイ君! そのまま地面に着かずに戦うんだよー」
「りょう、かいっ!」
ロンドに答え、空中で踏ん張りキマイラの爪を弾くと翼に魔力を込めてキマイラの顎先に体当たりをする、体格と体重の差はあるが角度と速度でそれを補う。
怯んだキマイラに追撃を入れようとするがグリフォンが再び両翼で突風を起こす。
「くっ、魔術並の突風だな」
「そりゃあ、その魔物も翼に魔力を込めて突風を起こしてるからね」
「ほぼ魔術だな、それ……」
「そうよ。魔物の中に魔術を使えるものも使えないものもいる……けど、使えないものも勿論魔力は持っていて魔術以外の使い方をする。気を付けるのよ」
なる程、もしかしたら、他の魔物達も気付かないだけで普段から魔力を使っているのかもしれない。
思い当たる節は幾つかある、体の小さい魔物でも大人より力が強いのは魔力を身体能力に使ってるのかもしれない。
……などと考えているとグリフォンが大きなくちばしを開き襲い掛かる。
「おっと、炎爆!」
「ピィィッ?!?!」
その大きく開いた口の中で炎を爆発させる、魔術の制御も上手くいき、威力も魔力の消費もちょうど良い。
感動してる場合じゃないと俺は魔術で怯んでる隙に空を駆け、通り抜けざまにグリフォンを斬る。
「ギャピッ!!」
「! 浅い、か!」
気が逸り飛行位置が少しズレて、グリフォンの腹を軽く斬るだけに留まる。
追撃をかけようとするが今度はキマイラがそれを邪魔をするように獅子の頭が噛み付いてくる。
「くっ!!」
「ギャウッ!! ガオッ!!!」
牙の間に剣を挟み、何とか獅子の噛み付きを防ぐ。
しかし、キマイラには他にも首がある、尾の蛇が足に絡み付き、山羊の頭は何かをぶつぶつと呟いている。
「────!」
山羊の頭が鳴き声のような声で何かを唱えると、俺の周りに火の玉が現れて一斉に俺に向かって襲い掛かる。
山羊の頭はファイアボールの魔術を使ったらしい、直接魔術を使う魔物のようだ。
「くっ!!」
剣が獅子の牙で固定され動けない俺は全ての火の玉をまともに喰らう。
「カイくーん、大丈夫?」
地上から呑気な声が聞こえる。
大丈夫じゃなかったら、どうするのか……。
「平気だ」
短く答える。
魔術はまともに食らったものの鎧のお陰でダメージは少ない……金属鎧のせいで多少熱くはあるが。
「これで捕らえて追い詰めたつもりか……逆だぞ、魔物」
「グルゥッ?!」
「んっ!!!」
剣を抜こうと引いてた力を、今度はキマイラの頭側に押し込むように力を入れる。
俺の動きに気付いたキマイラが慌てて歯を立て、刃を文字通り食い止める。
「判断は早いが、無駄だ……空圧!」
「ギッ!?!?」
空気を爆ぜさせて聖剣に推進力を与え、剣に勢いを付けるとキマイラの口の付け根からあっさりと切り飛ばした。
「(聖剣は魔を冠するものを滅する剣だ。元々、魔物に防げる術はないん……)……んっ?!」
獅子の頭を落とされたキマイラだが、蛇の尾は足を絡める力を強め、山羊の頭がこちらを睨み付けながらぶつぶつと呟く、魔術を使うつもりだ。
1つの頭を落としたくらいではまだ死なないようだ。
「ま、させないけどな!」
「ピギッ!!」
剣を振り下ろしまずは足を捕らえていた蛇の胴を切り落とす、硬くもないのであっさりと聖剣で切ることができた。
更に返す刃でキマイラの胴体を斬る、噴き出す血飛沫、とどめを刺すと自分の体に魔力が流れてくるのを感じる。
「…………はぁ」
「どうしたの、ため息なんてついて」
「いつの間に来たんだ? ……今の倒し方じゃ飛び方の練習にもならないと思ってね」
「あぁ、確かに……でも、まだ終わりじゃないでしょ。ファイト!」
いつの間にか近くまで飛んできていたロンドに背中をパンパンと叩かれる。
言われた通り終わりじゃない、グリフォンが残ってる。
「ピィィィーーーッ!!!!」
鳴き声を上げながら、グリフォンが鉤爪を広げ上空から襲い掛かる。
それを刃で弾き、空中で距離を取る。
「残り1匹……時間にも余裕ができたか……」
「さぁ、カイ君、練習の成果を見せる時よ!」
「わかってるさ」
飛翼でできた黒翼に更に魔力を込める、込めすぎても翼が維持できなくなったり速度に振り回されたりする、かと言って、魔力が少なければ普通の飛翼と変わらず速度が出ない。
「これくらいか!」
魔力を調節し十分に込めてから、速度を上げ飛び出す、その速さはグリフォンにも引けは取らないだろう。
まるで金属がぶつかるような音を奏でるようにグリフォンの爪と空で打ち合う。
自由に動く分には問題ないが速度はまだ若干グリフォンが上のようだ。
「速度がまだ足りないか……でも!」
1対1の状況なので魔術は使わず、空を飛ぶ練習を兼ねて何度も剣で打ち合う。
最初は拮抗していた打ち合いも空での戦いの慣れと魔を滅する聖剣の力で徐々にこちらが押していく、レンゲルも空は飛んでいたが元々飛べる魔族ではなかったのでグリフォンの方が良い練習台になる。
「ピィィィーーーッ!!!!」
なかなか仕留め切れない苛立ちと焦りかグリフォンが前足の爪を広げ急加速し真っ直ぐに突っ込んでくる。
俺はその攻撃をしっかりと見極め、紙一重で躱すとグリフォンの右前足に聖剣を振り下ろす。
「ギピャアァァァーーーッ!!!?」
斬った断面から血飛沫を上げて痛みで仰け反るグリフォンに飛び込み、聖剣を深々と突き刺す。
「ピギッ!!!?」
「んっ!」
刺した剣を捻り心臓まで届かせ、とどめを刺すとグリフォンから魔力が流れてくる。
「ふぅ……」
長時間空を飛んでいたが魔力の消費もそこそこで疲労度も少し疲れた程度で済んだ、少しは成長しているだろうか。
倒した後も空中に漂いグリフォンを眺めていると、拍手がなる。
「うんうん、大分マシになったわね」
「マシ、か……まだまだ先は長そうだな……」
「そりゃあそう。私は生まれた時から翼を持ってるのだから年季が違うわ」
「……いくつなんだ?」
「カイ君、失礼ねぇ。年齢を聞くなんて!」
「……」
種族によって寿命は違う、エルフ族は長寿と聞くし、天翼族の寿命はいくつくらいでロンドはいくつなのか……年齢によっては、確かに年季が違うだろう。
俺が空を飛べる飛翼を使い始めたのはほんの少し前なのだから。
「ゲーテとはやりあえそうか?」
「うーん……」
「正直に答えてくれていい」
「うん、無理ね。一撃も与えられないまま、落とされるでしょう」
清々しい程にあっさりとそう答える。
はっきり言われた方がこちらとしても有難い、元々空を飛べない人間が空を飛ぶというのはやはり難しいようだ。
「難しいな」
「人間にしては頑張ってる方だけどね」
「……」
ならば、空を飛ぶゲーテを相手にどう戦うべきか、地上で戦えれば一番手っ取り早いが……
「そんな落ち込まなくて平気よ。私がサポートしてあげるから」
「君が?」
「ええ、私もゲーテに故郷をやられてるわけだし」
「……」
「私は飛行能力に関してゲーテに遅れを取るつもりはないわ。……でも、決め手にかける。そこに君が現れたわけ」
「聖剣、か……」
「そう!」
ロンドがサムズアップし、にっこりと微笑む。
確かにロンドのサポートを受け、俺がとどめを刺す、それが今できる最善の策になりそうだ。
「それしかなさそうだね……」
「ええ、協力しましょう。十魔将・蔑視のゲーテを倒すために!」
差し出された手を取り、握手する。
「わかった、宜しく頼む」
「よろしくね!」
俺は十魔将ゲーテを倒すため、天翼族の英雄・天空の舞姫ロンドと共闘を約束した。




