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八話:イライラ



次の日。


「たった一日程度なのに恋しくなる。それだけ美味しかったんだよな」


思い出したらちょっと、お腹空いた。


さっさと行くか。

転移であの店の近くの路地裏にっと。

こんなときのために探しておいたんだよね。



転移。 


はい、到着。  

いやぁ、便利だねぇ。


「これください」

「この間の。ちょっと待ってな。ほれ。一歩おまけだよ」

「ありがとうございます」


ラッキー。

どれ、いただきます。 

 

んんん~。やっぱり美味しいぃ。


このソース、どうやって再現しよう。


「ホントに美味しそうに食べるねぇ」

「だって美味しいですもの」


俺はそういうのには嘘はつかない!


「君みたいな子が最後で良かったよ」


…………ん?最後?  


「ちょっと、待って?なくなるのか?」 

「あぁ。このあとね」


マシで?これで、最後?


「なんで?こんなに美味しいのに」


それを聞いた店主は嬉しそうに笑った。


「そう言ってくれると嬉しいよ」

「ねぇ、話くらい聞かせてよ」

「そうさねぇ」


その後の話によると、この店の経営はかなり厳しいものになっているそう。

もともと閉める予定は存在した。

けれども最後まで続けようとした。

しかし、この辺一帯を買い取ろうとしてる商人がいる。

そいつが厄介で、これだけ金をやるから出ていけ、とだけ言うのだ。

明らかに土地やら何やらの価格よりも低い値段。

そんなもの皆反発した。

が、そいつらは武力をちらつかせ、権力を利用してそこに近づけないようにしたりと、してきた。


それで、ついにこの人も店を閉めることになったと。


成程。どうしてくれようか。

この味を潰そうとするとは。

そんなの大損失だ。

どうにかできないだろうか。


「悩んでくれてありがとよ。さっきも言ったが、君が最後で、良かったよ」


くそう。

何もできない。

武力は……できなくはないと思う。

単純な勝負じゃ無理だが、転移でのヒットアンドアウェイで。

けど、それじゃ駄目だ。


その間に店主は行ってしまった。


もう、その日は何もする気が起きなかった。




どうしたら良い。


刃が乱れる。


何をすればあそこを守れる。


我武者羅なその剣はあちらこちらを傷つける。


「はぁ」


昨日のあれ以降、ずっとこんな感じだ。

悔しいな。

こんなに無力とは。


昔は頭を下げたり、上司に掛け合ったり、それよりも良い案を出すことでどうにかしたが、今はそんなんじゃない。

そんなものなければ、通用もしない。


「はぁ、忘れよう」


もう、忘れようかと思ったとき。


「ピュイ」


シルクが鳴いた。

 

なんだって?なになに………はっ?


「森が燃えてるぅ?」


緊急事態だ。



俺は空からその様子を伺った。

ホントに燃えてた。


なんで、こんな。

答えはすぐに見つかった。


「人」


松明を持った兵士のようなやつらだった。

その中心には変な馬車のような乗り物。


何が何だかわからない。

けど、消火しないと。


「レイン」


水魔法の一つ。

雨のように水を降らせる魔法だ。


その雨は少しずつ火を消し止めて行く。

しかし、火の勢いが強い。


それは当然知ってる。

だから斬る。


まだ燃えていないところと、燃えているところを区切るようにして木を伐採する。

そして仕上げに火の粉で飛び移らないように風の膜で囲えば、完了。


「ふぅ。あとは原因だけ」  


俺はそれを見下ろした。

何やら俺に向かってギャアギャア言ってる。


仕方ないので俺はそこに降りた。



「お前、俺に仕えろ!」


はっ?何こいつ。三十代位の男だな。

意味わからない。


あっ、ちなみに今の俺はパーカーで、フードで目元とかは隠してる。


「おい、なんとか言え!俺が誰かわかってるのか?!」


まじで何こいつ。


どうしようかな。

周りの人もどうしようか迷ってるし。


「知りませんし興味ない。それより、火をつけたのはお前ら?」


とりあえず、口調は精霊的な?ものにしてみた。

一番良さそうだし。


「あっ?あぁ、俺らだ。それがどうした?」


救いようがない。

木を燃やすのは自然破壊だ。

木は人が生きるために必要なものだ。

それを全く知らないとは。

こんなの地球なら中学とかで習うぞ?


「はぁ。で?仕える?戯言言いにきたなら吹っ飛ばす」

「まぁ、待てよ。俺に仕えるのは悪い話じゃ」

「『黙れ』」


それを聞いた連中は動きが止まった。


成功した。実験できなかったんだよね。

対人用魔法。『マインドノイズ』

声に特殊な周波を含ませ、相手の脳に対して直接効果を及ばす。その発した言葉を脳が指令として体に出すというもの。

言うなれば言霊?

ただこれ、ある程度のしっかりとした知識を持つような生物にでないと使えない。また複雑なものは成功しにくい。

だから今まで使えなかった。

自分で試せないものだ。


効果は抜群。

誰もが驚きの顔を示し、そして、自分が何も喋れないことに対して恐怖している。


「私、そういうのには興味ない。当然お断りさせていただきます。それでは。ウィンド」


俺はそいつらを風で街の方までキッチリと吹き飛ばしてやった。

その際、何かを言おうとしていたが喋れなかった。


あぁ、イライラする。

昨日のあれも然り。

今日のあれも然り。


……一応燃えにくくなるように乾燥しないようにしよ。


俺はそんな魔法を施して家に帰った。



それから数日。

憂鬱な日々を過ごしていた。  


その日も普通に風呂に浸かっていた。


それまでは。


チュン、ドォン。キンキン。


騒がしい。

まさかとは思うが、また誰か来たのか?


何やら騒がしいことに気づき、この間の風呂にポチャンを思い出し、ゆっくりするために動いた。


ローブを羽織り、飛んだ。


すると、予想してたのとは少し違った光景がそこにはあった。



・・・


あいつ、余計なことをしてくれた。


前から色々と聞いてはいたが今回のは見逃せない。

あの、商人。ラァフィ クラズ。

あいつはあの森に火を放ったのだ。


今まで何故そんなことをする人がいなかったと思う?

あの森がなくなったらそこに生息していた魔物は間違いなくこちらに流れてくるだろう。

そんなことをすれば終わりだ。


しかし、それをしやがった。

それに何より、それを止めたのは、娘の恩人。

その人だ。

また、借りを作った。

多分、そんな意図はないだろうが。


それよりも今はあの野郎だ。


あいつ、懲りずにまたあの森に行こうとしている。

次はもっと規模の大きいもので、恩人を炙り出そうとしている。


許されん。


私もそこまでやられれば動くぞ?


「セバス!」

「はい、旦那様」

「今すぐに、兵に戦闘の準備をさせろ!」


驚いたように私を見たがそれ以上は何も言わずに準備を始めた。


あの野郎。

絶対に許さん。

なんとしてでも止める。

決して森には手を出させん。

最悪殺しても良いだろう。

それだけのことをやつはしたのだからな。


翌日。


森の前で私たちは陣取っていた。


そして野郎たちはきた。


「ラァフィ クラズ!これ以上のこの魔境への干渉を控えてもらう!これは決定事項だ!」

「あぁ?知らん!俺は俺のやりたいようにやるのだ!邪魔をするな!」


相変わらずのゴミ野郎だ。

良いだろう。やる気なら、やってやる。


「これは命令だ!この地を収めるものとしてこれ以上の反発は武力行使の対象となるぞ!」

「はっ、知るか。殺れ、お前ら!」


こうして、戦いが始まった。



それからしばらく、それは続き、私たちは劣勢を強いられていた。


「まさか、Aランクの冒険者をあんなにも用意してるとは」


予想以上の戦力に私たちは押し負けていた。

数は負けてない。

しかし、個が強かった。

無論私たちが弱いのではない。

Aランクの冒険者は強いのだ。それを何人も。


「くそっ、私は無力かっ」


拳を大地にぶつけた。


「おら、さっさと降参しろよ。次いでにお前の財産とか、娘とか貰ってやるからよ」


こんな、やつにっ。

私は自らの剣を抜いた。


「やるか?俺の駒に勝てるか?お前が」


色々、言いたいこともあるが、今は集中しなければ。

私も強いがAランクの冒険者を何人も相手できるほど強くない。

しかし、一矢報いる。

それだけだ。


その時だった。


不意に悪寒が私を襲い、全力で後ろに跳んだ。


相手は最初は私の姿に笑っていた。

が、それはすぐに正しいと証明された。


巨大な風の塊が、そこに落ちた。

それだけで地面は落ちた。


そこにいたAランクの冒険者は何の抵抗もできずに死んだ。


「一体、なにが……」


それはこの場にいる全員の心境だった。

そして、ゆっくりと、私は上を見た。


そこには、いたのだ。


探していた人物が。





継続七日目。  


ユウキ、そして初めて人を手にかける?

こんなの俺は望んでないとだけ。 



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