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子供


 中間テストが終わったあとで担任の福崎に呼び出された。なんの説教だくそめんどくせえと思いながら職員室に行くと弁当食い終わったばっかりの福崎が顔をあげて「おぅ」と言う。三十になったばっかの教師の中では若い方の福崎が髪を掻きながら椅子をクルッと回して俺の方に向き直る。足を組む。

「成績、上がってたな」

「……どうも」

 中間の前に必死こいて勉強してちょっとだけ上向いた。ちょっとだけだった。俺が頑張ったところでこんなもんなんだという現実見せつけられてあの日に村雨に言われた「いい大学入って働いてそんな家建ててやればいい」というのが言うのは簡単でも実際にはどんだけ困難か見せつけられて俺はちょうどへこんでたところだった。

 福崎は「最近ノートまじめにとってるし、なんか心境の変化でもあったのか?」と訊いてくる。「ちょっとはましな大学入ろうかと思って」俺が歯切れ悪く言うと顎に手をあてて少し考える。「スポーツ推薦とかは狙ってないのか」と言う。体力テストの俺の成績が全国平均でも上の方なことだとか話しながら「一年で唯一のサッカー部のレギュラーだったんだろ?」と付け足す。

 サッカー部はクビになってるしそんな話してもしょーがねーだろと俺は思うのだけど福崎は「部活やってることは勉強にも内申にもプラスになるから」って妙に粘り強く説得してくる。俺がもういいんだと言っても諦めない。ぐだぐだ話してるうちに俺は自分が部に戻らない最大の理由が「いまさら品川に頭下げたくない」だと気づいてそんな子供じみた理由を引きずっている自分の方が間違っている気がしてくる。「一緒に行ってやるから」と福崎が言い、ついに根負けして俺はサッカー部が練習してるグラウンドに福崎に連れられて行く。

 大方の話は福崎が品川に通して俺は「すみませんでした。反省してます。また部活に参加させてください」と頭下げるだけでよかった。それですら福崎が一緒に四十五度の角度できっちり頭下げてくれた。品川は最初はぶつぶつと小言を言ってたのだけど主力選手がいなくなって困ってたからこっちから筋を通せば「仕方ないから許してやるか」という態度にあっさり変わっていく。拍子抜けするほど簡単に俺は部に戻れることになる。

「なんで先生、別に悪いことしてないのに頭下げれんの?」

 俺は帰り際に福崎に訊く。

「なんでってそりゃ俺は先生でおまえは生徒だし」

 俺がなにも言えずに黙って俯いてたら「おまえがもしも俺になんか負い目感じたんなら、もう暴力沙汰起こして押し通そうとするのはやめろ。それから胸張れる人間になれ。黒田のことは、俺も悪かったよ」と言って俺の頭をぐしゃっと撫でた。

 サッカー部の連中は「クラスメイト殴ったって? おまえはいつかやると思ってたよ」だとかバカ笑いしながら俺の背中を順番に叩いて「おかえり」と言った。

 しばらくして他校と練習試合やることになってそのことを黒田に話す。「見に行く」、「恥ずかしいからくんな」俺はしっしっと手を振ったけど黒田は「わたしだけ恥ずかしいとこ見られてばっかりで不公平だ。だから見に行く」と譲らない。


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