番外編・やりなおし
「ねえ、もしもいまと全然別の場所で親も違って友達も違って人生やり直せるとしたらやり直す?」
唐突に黒田が言った。
「いや」
俺はさほど間をおかずに答えた。
「そうね。恭介どっちかいえばリア充属性だもんね」
うんうん、と黒田は勝手に頷く。
傍からみればサッカー部でそこそこ活躍してて体がでかくて村雨と仲がよくてカノジョとかいる俺はそこそこ恵まれてるように見えるし、実際そうなんだろう。少なくとも自分のことに労力を割けるくらいの余裕はあるのだから。ストレスで頭がパーになって自分のことに力をまったく割けないような状況にはない。そんなに多く例を知ってるわけじゃないが俺の家はまだまともな方だ。
でも俺は俺なりに家が農家でガキのころから仕事手伝うのが結構嫌だったし、うちの親だっていまは落ち着いてるけど昔はそこそこ喧嘩とかひどくて決していいもんじゃなかった。(嫁いできた母親が農家のしがらみうんたんでキレてることが多かった)
「わたしはやりなおしたいな」
「そっか」
「特に親ガチャ、引き直したい」
そりゃまあふつうの親はクビ吊らねーし、娘のクビ絞めたりしないんだろーな。
黒田がそう言うのは仕方ないけど俺は多少さみしい。
「恭介はこれまでで嫌なこととかなかったの」
「まさか。死ぬほどあったよ」
「やり直した方がいいと思わない?」
「でもそれじゃあ次で、す」
すみに会えるかわかんねーじゃん。
……すげえ恥ずかしいこと言ってる気がして途中から声が小さくなって、途切れた。
途中までは聞き取れてた黒田がすんごいにやにやしだして「いまなに言おうとしたの? ねえねえいまなに言おうとしたの。聞きたいなぁ。私、すっごく聞きたいなぁ」俺の顔を覗き込む。
「すみに会えるかわかんねーから」
半ばやけくそになって俺は言う。
よくできたましたと黒田が俺の頭を撫でて。ついでにぎゅっと俺を胸の中に抱き止めた。
黒田の抱き方はたったひとつの大事なものを他人に取られまいとするみたいな感じで、俺は黒田にもっともっと大事なものがたくさんできてそれが俺と共有できるもんならうれしいなとなんとなく思う。