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動機

 なんとも言えない沈黙が降りた。


「まずはこの村についてまとめてみようか。

一、逢園村は松竹梅の家がまとめている。

ニ、その松竹梅の家は、後継がいなくなることで入れ替わる。

三、松竹の家では稀に紫色の瞳を持った子が産まれ、その子は全て菫と名付けられる。

四、紫色の瞳を持った子は災いをもたらすとされ忌み嫌われ、梅園家に押しつけられる。

五、逢園村の住民は紫首神社に毎日参拝しないといけない。

六、逢園村には縄垂らしという妖怪がおり、参拝を怠ると急に現れて首を吊らされ殺されてしまうと言われている。

七、紫首神社の御神体は今のところ分からない。

八、祠の鍵がかかっていた中には、墓石のような物と、蝋燭と線香、沢山のスミレの花があった。

九、その墓石のような石には、『松園菫、竹園高寿』と記されており、読み方によればここにいる二人の名前と一致する」


 瀬戸さんはそう言いながら、手帳に鉛筆で同じ事を書いていった。


「そして、それとは別に、起きている出来事。

まず昨日の朝、竹園将太が死亡したのを発見される。

同日夕方あたりに、松園浩一が死亡したのを発見される。

今日の朝梅園徳郎が死亡したのを発見され——」

「あの……本当は、僕が今日の早朝に見つけました」

 誰にも言っていなかったことを、打ち明ける。突っ込まれる前に、自らどうしてそんな行動をしたのか、他の家族が見つけるよりも早く見つけていたと言うことを話す。ついでに縄垂らしを見てしまったと言うことも。


「そう……だったんですか」

 スミレさんは目を丸くした。

「じゃあ、香寿君としては縄垂らしのような何かを深夜に見て、それがあったから早朝目を覚ましてしまった時に確認しに行ったんだね?」

「はい。……でも、まさか本当に死んでるなんて思わなくて」

 そうだよね、と瀬戸さんは頷く。


「寝る前は奇妙な物を見やすいの。だから、金縛りで変な物を見るのも心霊現象の一部として捉えられやすいけど、誰にでも起きうる事なんだよ。

 ちょっと難しいんだけどね、金縛り中は体が眠っているのに頭は起きている状態になるから、自分は起きていると思っていても体が動かない。これは奇妙な事でも何でも無くて、ただ単に体が寝てるから。そして変な物を見るのも夢を見ているから。

 こんな感じで寝る前に奇妙な物を見た場合、金縛りまではいかなくてもほとんどは実は寝ていて夢を見ているの。それで現実との境目が分からなくなって本当に起きたことだと錯覚しちゃう。だからこの手の話は気づいたら朝だったって話が多い」


 瀬戸さんは、だからいつもは気にしなくていいよって励ませるんだけどね……と付け足した。


「香寿君の場合、これは微妙になるね。しっかり体は動かせてるし、実際に人が死んでいる。だから夢では無さそう」

「じゃあ、本当に妖怪……なんですか」

 スミレさんが控えめに聞く。


「そうでもないよ」と瀬戸さんが曖昧に言った。

「この村には縄垂らしと言う妖怪の存在が語り継がれている訳で、それは村の全ての人が知っている。つまり近づけば命を狙われるかもしれない縄垂らしの格好を真似していれば、誰かに見られても不審がられることは無い。

 例えばそれを見た人が縄垂らしを見たと言いふらしても、そんなことはあるはず無いと取り合ってもらえないでしょ。

 でも死人が出たら出たで、あれは縄垂らしだったんだと納得して怯える人が多数。

 万が一の為に縄垂らしの格好をする事は、犯人にしてみれば利益しか無い」


 そうか。確かに昨日の夜、僕が見たのが普通の人だったら、怪しいと思って何か行動に移していたかもしれない。


「そして、重要なのは動機だよ」


 瀬戸さんは人差し指を立てて、改まって言った。


「例えば犯人が妖怪縄垂らしだった場合、伝承通りに考えれば動機は参拝を怠ったことにある。でも犯人が人間だった場合、動機は謎。

 そこで、さっきまとめたのが役に立ちます。この村のこと、その二。

『松竹梅の家は、後継がいなくなることで入れ替わる』

 ここ!」

 千愛姉さんが教えてくれたことだ。

 

「動機がその線で行くと、取り敢えず松園家の人達は除外できる。特殊な事情がある可能性も無くは無いけど、そこを考えてもしょうがないので」

「それに、多分松園家の人達は知らないと思いますよ」

 僕が言う。


「僕とスミレさんは今日の朝、この事を初めて千愛姉さんに教えられました。千愛姉さんは、前に竹園家の愛子さんと将太さんが話しているのを聞いてしまったと言ってます」

「うーん……じゃあ、君達を除きこの事を確実に知っているのは神主さんと、竹園家の二人、あとは香寿君のお姉さんの千愛さんか」


 何か突っかかった。あれ? 神主さん?


「神主さんって、茂さんのことですか」

 瀬戸さんは頷く。

「神社だからね、資料が保管してあると思うよ。それに、君のお姉さんの言い方だと香寿君と菫ちゃん以外の人も知らない風でしょ? 竹園家の二人だけ知ってるってことは、誰かに教えられたんじゃないかな。そして、それが出来るなら神主さんの——」

「茂さん?」

「そう、その人」


 苗字も教えて欲しいと言われたので言うと、竹園愛子、将太、梅園千愛と言う名前と共に桃園茂と手帳に書かれた。


「今ここに書いた人が、家の立場の入れ替わりを動機とした際にそれが当てはまる人達」


 調べたらもっといるかもなんだけど、と瀬戸さんは笑った。

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