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松園菫
スミレさん……。
僕は目を閉じ、あの時のことを思い出した。
長く艶やかな黒髪。健康的に、でも白い肌。小さくきゅっと結ばれた血の滲むように赤い唇。ふわりと感じる女の子の匂い。
でも何より、その瞳だった。
本当に日本人なのかと疑いたくなるほどの、透き通った紫色の瞳。それは彼女の凛とした表情をより一層輝かせていた。
粗末な服を着させられているのは僕でも分かる。
でもスミレさんは、紛れもなく僕が今まで見た女の子の中で一番綺麗だった。
スミレさんは僕より二つ年上の、十二歳。学校には行かせてもらってないらしいけど、まだ六年生。とてもそうとは見えない。
ふっくらとした胸……。優しそうだけれど、凛とした表情。思い出すだけで顔がかあっと熱くなる。普段の僕なら、あんな美少女が僕なんかを選ぶものかとはなから諦めていただろう。高嶺の花だと。
でも今は違う。希望がある。
だって僕とスミレさんは、許婚なのだから。