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第8話 商人と装備

 翌日の夕方、最後の客が店から出たのを確認した後、俺はテントで作られた商店の中へと入る。

 テントの中は四方に四段式の棚が設置されており、商品が所狭しと並べられていた。


「うわぁぁ~ 凄いな」


 様々な道具が目に入り、大きな口をポカンと開て見入っている。

 その時店主と思われる男性が声を掛けてきた。


「いらっしゃいませお客様。どの様な品をお望みですか? ただ…… 売り切れの品も御座いますので、その場合は次回用意させて頂きますが」


 声を掛けられた方を振り向くと、少し恰幅の良い男性が笑みを浮かべていた。


「えっと、一つお聞きしたいんですが?」


「何でもお伺いします。何でしょうか」


 男は顔色一つ変えずにそう告げる。

 この時の俺は少し驚いていた。

 この村の人達は俺の容姿を初めて見た時、必ずと言っていい程、怪奇の視線を向けてきていた。

 だがこの商人にはそんな様子が全く感じられない。

 

 後で知る事になるのだが、この時の商人は大きな勘違いをしていた。

 この世界には人間と亜人(あじん)が存在しており、共存共栄の良い関係を作り上げている。

 なので商人は人間以外にも亜人と取引をする機会も多い。

 実際、この商人も今日までに数多くの取引を亜人達と行って来ていた。

 

 なので商人は初めて見る俺の事を亜人と勘違いしていたのだ。


 九歳の俺の身長は1メートルを少し超えたくらい。

 年齢と比例してやや大きめだが、大人と比べればまだまだ小柄である。

 姿は老人という事で、商人も俺の事を低身長の大人の亜人と思ったようだ。

 低身長の亜人と言えば、ドワーフやホビットなど人と見た目が殆ど同じで体格の小さな種族を思い描く。


 商人も俺の事を彼等のどれかと思い込んで話していた。

 俺にとってそれは幸運であった。

 俺でも武器やアイテムが買えるようになれば、今後の狩りの効率や安全性が大いに高くなる。

 

「実は…… 素材を買って貰えないかと」


「ほぅ、素材。それはドロップアイテムですか? それとも採取品でしょうか?」


「えっと、ゴブリンの牙なんですが……」


 【ゴブリンの牙】その単語を耳にした瞬間、商人の表情が少し落胆したのが解る。

 【ゴブリンの牙】と言えば素材で言えば最低ランクになる。

 【ゴブリンの牙】の用途と言えば、鉄器やガラス製品を作る時に、強度を上げる為に粉状にした牙を混ぜたりする。

 簡単に手に入るので余り価値は高く無いのだが、人々の生活において、必要不可欠な素材の一つにはなっていた。


「ゴブリンの牙ですと、五つで銅貨一枚が今の相場ですがどうでしょうか?」


 この世界のお金の価値は銅貨十枚で銀貨一枚、銀貨十枚で金貨一枚そして金貨二十枚で大金貨一枚となっている。


「それで大丈夫ですが、幾つ位買い取ってくれますか?」


「幾つでも買い取らせて頂きますが、どの位お持ちで?」


 俺は今まで二万匹以上のゴブリンを倒しており、倒した全てのゴブリンからドロップアイテムが落ちる訳でないのだが、現状で言えば一万個は有に超えて持っていた。

 今は森で見つけた小さな洞穴の中に隠している。

 軽く見積もって一万個で銅貨二千枚、金貨で換算すると二十枚以上は保持していた。


「金貨二十枚分?」


 流石に俺の言葉を聞いた商人は驚きを見せた。

 一度に売買する量を有に超えているらしい。

 動揺を隠し笑顔を絶やさないが、商人の眉がピクピクと動いている。


「ご冗談を、ですがそれだけの素材をどうやってお集めになられたのか聞いてもよろしいでしょうか?」


「解りました。実はこの村にはゴブリンだけしか出ません。村の安全の為に長い間、ゴブリンを倒していたのでその素材となります」


 これは事前に考えていた返答だった。

 大量の素材をこんな爺さんが用意出来た理由の辻褄をあわせる。


 商人は少し考えていた。


(反応が鈍いな……もしかしてゴブリンの素材など必要無いのか?) 


 俺は少し不安を覚える。


「あっご挨拶がまだでしたね。私は商人のザイルと申します。素材の件ですが、今回はそれ程の金銭を持ってきておりません。なので一度に全部購入と言うのは難しいかと……」


 頭を下げてザイルさんは謝ってくる。

 俺は金貨が欲しい訳ではなかった。

 そこで一つ提案を持ちかけてみる。


「いえ、お金が欲しいわけじゃないんです。実は素材と交換で狩りで使う装備や備品を整えたいと思っていまして、次の時で良いので物々交換とはか出来ないかと……」


 物々交換を希望しているとは思っていなかったザイルさんは、少し驚いていた。

 だが直ぐにソロバンをはじき答えを導き出す。

 商人だけあって計算は早いようだ。


「それは此方としても有り難い話しですが、どの様な品をご希望で? 金貨二十枚と言えば中々の装備やアイテムが用意できますが?」


 その答えが返ってくるとは思ってもいなかった。

 装備の事を聞かれても鎌以外使った事の無い俺にとって、どう答えたら解らない。

 今度は俺が考え込むが悩んでも答えは出ない。

 解らないのなら、見栄を張る必要もない。

 俺は希望する装備を語りだす。


「俺が希望する武器は長く使える剣が欲しい。装備は動き回るので軽装が良いです。出来れば魔物の攻撃を受けれる様両手の部分には篭手があれば助かります。後は冒険者が一般的に持っているアイテムなどあれば……」


「ふむ。耐久力の高い武器と軽装ですか…… 装備に比重を置いて、アイテムは金貨三枚分程度用意しておきましょうか? それに武器と装備を整備が出来る様に魔法石も付けた方がいいですね。解りました。お客様のお話をお受け致しましょう。貴方様のお名前を伺っても?」


 ザイルは手を出して握手を求めてきた。俺も手を差し出して握手を交わす。


「クラウス・ブラウンです。素材は用意して置きますので宜しくお願いします」


 その後、俺とザイルは即席で作られた契約書に名前を刻んだ。



 

★   ★   ★




 それから二ヶ月後、俺はザイルさんが再び村を訪れた最終日、彼のテントへと訪れる。

 事前の約束で取引は最終日の一番最後に決めていた。

 今の俺は大きな袋を背負い、その中にドロップアイテムを詰め込んでいる。


 契約を交わした日から毎日、夜眠る前に部屋で素材を少しづつ小分けにしてまとめていた。

 十個を纏めて紐で縛り、それを十束でまた縛る。

 これで百個の素材が一つになる。

 毎晩百個の素材を五束づつ作り、それを二十日間続けて一万個の素材をまとめ上げる。


 テントを訪れた俺をザイルさんは笑顔で迎える。

 俺は自分の身体半分にもなる大きな布製の袋をテーブルに優しく置いた。


「この中に素材が入っています。ご確認をお願いします」


 ザイルさんの横には若い男の子が二名立っており、俺の事を見つめていた。

 彼等が【ゴブリンの牙】の数を数えるのだろうか?


「それでは確認させて頂きます」


 ザイルさんは袋口を開き中の素材をテーブルの上に出す。

 紐で縛られた素材がゴロゴロと音を建てて出て来る。


「おぉ~ これは凄い…… これはクラウス様が?」


 ザイルさんは驚き顔で聞いてきた。


「ゴブリンの素材ですか? まぁそうですけど」


「いえ素材の事ではありません。私が言っているのは数を揃えて数え易い様にまとめている事です」


 そっちの事か! と俺は頷いた。

 俺は少しでも早く武器が欲しかったので、早く取引を終える為に数え易い様にしただけ。

 それに後で数が足らないと言われる事が嫌だったのもある。


「ふむ、これは数え易いですね。十個の素材が十個でまとめられている。ならばこの大きな束を百個数えれば良いのですね。クラウス様は計算も出来る様で私としても安心して取引が出来ます」


 たった百束数える時間はあっという間で直ぐに数え終える。


「確かに一万個、では次に私の方ですが…… ご希望に添える品をいくつか持ってきましたので見て下さい。もし気に入らない様ですと次の行商の時になりますが」


 そう言うと最初に三本の剣と装備を見せてくる。

 どの剣も格好良くて俺のテンションも上がっていく。


 手に取り重さを確かめたり、軽く振って使い心地を調べてみる。

 ザイルさんの説明によると一本目の剣は耐久力もあり切れ味も鋭い剣で、有名な鍛冶士が作り上げた物らしい。

 二本目の剣は赤い剣で魔法石が混ぜられており、攻撃力は三本の内一番だと言われた。

 ただ耐久の面で言えば三本で一番劣るとの事。

 最後の一本は黒い剣で切れ味は3本の中で一番低い。

 だが様々な金属を混ぜて作られており、耐久力は他の二本を圧倒しているとの事だった。


「タイプの違う三本の剣…… どれにするか?」


 欲を言えば全部欲しいがそれは難しい。

 しばらく考えた結果、俺は最後に耐久力の高い黒い剣に決めた。

 今までも農作業用の鎌で戦ってきたんだ。

 それ以上の切れ味なら問題はない。

 そう考えるなら、後は耐久がある方がいいに決まっている。


 次に装備は一点だけだったが、要望通りの品を用意してくれていた。

 装備はフルプレートではなく各部位に付ける軽装で、ベルトでサイズを調整出来るタイプとなっている。

 もし俺が今後、成長して身体が大きくなっても装着出来そうだ。

 薄い鉄板の内側には魔物の革が貼り付けられている。

 この強度ならゴブリンの攻撃にも十分耐えられるのは、手にとった瞬間に直ぐに解った。


 その後、冒険者必須のアイテムが詰め込まれた、大きめのバックと腰につけるウェストポーチを手渡されて取引は終了する。

 

 大満足の取引内容で俺も大喜びとなっていた。

 無事取引を終了し、店を出る時に俺がザイルさんに告げる。


「えっと、俺はこれからもゴブリンを狩り続けると思うから、今後も取引をお願いしてもいいですか?」


「是非お待ちしております」


 ザイルさんは笑顔で返す。

 俺に取ってザイルさんとの出会いは天運と言えるかもしれない。

 今回の取引でザイルさんにどの位の利益が出ているのかは解らないが、ドロップアイテムは俺にとって無価値に等しかった。

 それが武器やアイテムに変わったのは大きな意味を持つ。


 新しい装備を手にいれた俺は、今まで以上の数を同時に相手する事が可能となった。

 その後の狩りの速度が大きく上がったのは言うまでもない。 

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