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第6話 初めての繁殖期

 森の中を小走りに駆け抜ける。

 毎日、念入りな柔軟を行っているので、最近は身体もスムーズに動く様になっていた。

 狩り場には毎日来ている。

 今では細かな地形まで全て把握済みで、俺は森の中を走り回り今日もゴブリンを探す。


「やばっ! 時間がない」


 腰に下げた砂時計に目を向け、焦り出す。


 俺はゴブリンを狩る為のルールを幾つか作っていた。 

 そのルールの中で「一回の狩りは三時間でやめる」と言うものがある。

 理由としては六歳の俺が家を出て夜まで帰って来なければ、流石に母さんが心配して俺を探し出すかもしれないからだ。

 その結果、俺が村から出て、毎日森に来ている事がバレてしまうかもしれない。

 一度バレてしまったら、その後は狩りに出る事が難しくなってしまう。


 だから朝に遊びに行くと出て行き、三時間程度で家に戻り顔を見せ、親を安心させる。

 昼食を食べた後に再び森へと向かう。

 実際に村の子供達も結構自由に遊び回っているので、きっと大丈夫だろう。

 しかし、どの子供達も森の中には入っては駄目だとキツく教えられていた。


 もし両親にゴブリンを狩っている事がバレた場合、大問題となり絶対に止められてしまう。

 俺にとってはそうなる事が何よりも辛い、それだけは避ける必要があった。

 

 今の狩猟スタイルでも、ギリギリではあるが目標として掲げた、一日に十体のゴブリンを倒せている。

 最初の戦闘の時にゴブリンの攻撃を受けて高熱を出しているので、戦闘では保険を掛け、不利な状況を作らず、安全確保に余念がない。

 俺はゴブリンと言えども、決して油断はしない。

 欲を出しすぎて危険な目に合うのは二度と御免だ。


 初めての戦闘で、傷を受けて高熱に悩まされた事が無ければ、もう少し調子に乗っていたかもしれない。


 しかしゴブリンを狩りだして数カ月が経過しているが、俺の装備は変わっていない。

 片手に草刈り用の鎌を持ち防具は私服で、防御力なんて皆無だ。

 俺も本当は剣や盾など使いたいのだが、お金が無いのでどうする事も出来ないのが現状だった。


 変わっていない事ばかりだが、変わった事もある。


 それは新しいスキルを手に入れた事だ。

 ある日、いつもの様に狩りをしていると、突然頭の中に音が響き、ステータス画面で確認したら、俺は新しいスキルを覚えていたのだ。




★   ★   ★


 クラウス・ブラウン

  

レベル-2    必要魔物討伐数 8,800匹  累計魔物討伐数11,000匹


職業      無職     


能力


力       13

素早さ     15

魔力      16



アクティブスキル



      


パッシブスキル


【逆転】取得難度:10 取得条件:不運

 効果:取得者の成長が逆転する。


武具の心得(マスターウェポン)】取得難度:8 取得条件:レベル99

 効果:職業に関係なく全ての武器、防具をマスターレベルと同等に扱う事が出来る。


魔力の真理(マジックマスター)】取得難度:8 取得条件:レベル99

 効果:全てのスキル及び魔法使用時の必要魔力量を99%減少させる


魔物を狩る中級者(ベテランハンター)】取得難度:2 取得条件:累計魔物討伐数 10,000匹

 効果:戦闘時に能力値が1.2倍となる


ゴブリンと戦う者(ゴブリンスレイヤー)】取得難度:1 取得条件:ゴブリン撃破数1,000匹

 効果:対ゴブリンとの戦闘において、全ての能力値が+10。ゴブリン発見率の上昇

 

魔法


【女神召喚】取得難度:9 取得条件:レベル100

 効果:創造主を召喚する事が出来る最上位魔法





★   ★   ★



 新しく会得したスキルは【ゴブリンと戦う者(ゴブリンスレイヤー)

 なんか格好いいスキル名だった。


 どうやらカウント系スキルのようで、取得難度:1 と言うのは取得しやすいスキルなのだろうか。

 ちなみに取得条件はゴブリン撃破数1,000匹となっている。


「へぇ~。知らない間に取得条件をクリアしていたみたいだ。取得条件さえクリア出来れば、自動的にスキルが取得できるって訳か。それなら狩りを続けていけば新しいスキルも手に入るかもしれない」


 これを契機に俺はますます狩りに精を出す事となる。




★   ★   ★

 



 勇者マリアと両親はこの村にはもういない。

 マリアが勇者として認められた後、儀式の日より一カ月後にはマリアの家は空き家となっていた。

 噂によれば、マリアは王宮で勇者になる為の英才教育を受けているとの事だ。

 そして成人した暁には、魔物討伐の冒険が待っているのだろう。

 それは正に俺が何度も夢を見て、憧れていた英雄譚のストーリーと同じであった。

 醜い俺には絶対に不可能な夢物語を最も憎むべき少女が歩んでいる。

 その事実を思い描き憎しみを増大させるだけで、俺は更に強くなって行ける気がしていた。


 ちなみにマリアの家は新しい村長家族が使っている。


 俺にとっては、マリアと村で出会わなくなるので好都合だった。



 それから数カ月後、季節は冬を迎え、人々の会話に繁殖期と言う単語が少しづつ含まれはじめた。

 俺も父さんから繁殖期の間は、絶対に村の外へは出るなと釘を刺されていた。

 だけど俺は繁殖期の怖さも考慮せずに、「魔物がいつもより多く発生する季節」と簡単に考えてしまう。


 その解釈のまま俺は繁殖期を迎える事となる。




★   ★   ★




「クソ! 冒険者が警戒しているから村の外に出にくいじゃないか……」


 俺はいつも村を抜け出す時に利用している、秘密の抜け道付近を警護していた冒険者を木の陰から見つめる。

 繁殖期に入ってから、村は父さんを含め八名の冒険者を雇い村の警護を任せている。

 二十四時間、交代制で村の四方をずっと警戒しているので、俺も狩りに行く事が出来ずにいた。


 何度か隙を伺って出ていこうと試みたが、カンの良い冒険者は俺を見付けては「村から出るな!」と注意する。

 何度も見つかると、流石に両親の耳に入るかもしれないので、俺は大人しく家へと戻る事を決めた。

 ただ部屋に戻るだけではなく、冒険者の目を盗んで村を出て行く方法を考える。

 繁殖期は一ヶ月間続く、一日や二日なら狩りを止めてもいいが、流石に一ヶ月にもなると狩りに支障をきたしてしまう。

 仕方なく今日は早目に眠り、日が登る前の早朝に抜け出す作戦を考え出した。


 チュン、チュン


 小鳥のさえずりが始まった頃、一晩中、村を警戒していた冒険者達も集中力が衰えていた。

 後1時間もすれば交代の時間がやってくるのて、今が一番油断している筈だ。

 案の定、気付かれ無いように冒険者を観察すると、眠そうに目を擦る冒険者の姿が見えた。

 そのままチャンスを狙って俺は茂みに身を隠す。

 そして隙を見つけて抜け出し、遂に村の外へ出る事に成功する。


「よし、後はゴブリンを出来るだけ速く狩って気づかれない様に村へ戻らないとな」


 普段より速度を上げて森を進むと、森に入ってすぐゴブリンの集団を発見する。

 普段はもっと奥へ行かなければ出会う事が無いのだが、繁殖期の為に村の近くまでゴブリンが押し寄せてきているみたいだった。


「敵は四体…… どうする!?」

 

 瞬時に考えをまとめて、今回はゴブリンと戦う事を決める。

 今の時間なら四体を倒して村に帰れば、冒険者の交代前に戻る事が出来る。

 それが戦闘を決めた大きな理由だ。


 俺は近くにある拳大の石を掴むと思いっきりゴブリンへと投げつけた。

 四匹のゴブリンは集まって大きな叫び声で騒いでいたので、俺が投げた石には気づいていない。

 そのまま一番近いゴブリンの頭部に投げた石が命中する。

 投擲した石も投擲武器と認識されているので、百発百中の上、威力も高い。

 先頭のゴブリンは頭蓋骨を割られ、ズドンとその場に倒れ込む。


「残り三匹!!」


「ギ、ギャギャ!!」


 残ったゴブリンも俺の存在に気付き、茂み目掛けて突っ込んでくる。

 その動きは猪の様に猪突猛進といった感じだ。

 すかさず鎌を体の前面に構えて姿勢を整え、反撃に備えた。

 ゴブリンの片方は直前で飛び上がり、上空から鋭い爪を振り下ろす。

 それと同時に正面のゴブリンは、鋭い牙を光らせ大きく口を開き俺へと食らいつく。


「先に対処するのは…… 正面!!」


 俺は瞬時に判断すると正面のゴブリンに向かって走り出した。

 ジャンプしているゴブリンの下を潜り、正面のゴブリンとすれ違いながら、鎌でその首と頭を切り離す。

 その後すかさず振り返ると、ジャンプしたもう一方のゴブリンが振り向く前に、背後から斬りつける。

 残り一匹は様子を伺っており、分が悪いと判断したのか?

 一目散に逃げていった。


 一瞬の内に三匹のゴブリンを倒せた。

 俺は大満足でドロップアイテムを拾う。


「時間はまだ残っているけど、今回はこれで一度帰るか、早く帰らないとバレるかも知れないしな。それにしてもこんな村の近くでゴブリンが四匹もいるなんて…… これが繁殖期って事なのか?」


 その後、俺が村の方へ振り返り歩き出した瞬間、近くの茂みから草木がすり合う音が聴こえてきた。


「ん?」


 次の瞬間、茂みから新しく二匹のゴブリンが姿を見せる。


「また、出たのか!? 今度は二匹!」


(二匹なら何とかなるか?)

 

 総判断した俺は再び構えを取る。


 ガサガサ


 その瞬間。

 背後から草木を踏み倒す音が聴こえたと思うと、更に背後の茂みから三匹のゴブリンが現れた。


「嘘だろ!? 後ろからも出てきたぞ!! 今まではこんな事は無かったのに」


 どうすればいいか? 前面に二匹、背後に三匹のゴブリンに囲まれた中で一瞬で判断を下す。


「ここは逃げるしか無い!」


 いざ戦って見れば勝てる相手かもしれないが、無傷で切り抜ける自信は今の所ない。

 ならば逃げるしか無かった。

 俺はゴブリンが居ない側面へ体を向けると、一目散に走り出した。

 俺が逃げ出した途端、二匹が俺を追いかけてきた。

 残りの三匹はなんと、ついさっき俺が倒したゴブリンの死体へと群がっている。

 その状況を目にし、ゴブリンが共食いをしているのはすぐに理解できた。

 逃げながらだが、共食いの光景を見た途端に胃の中の物が逆流してくる。

 だが今足を止めれば、追いかけてきたゴブリンに追いつかれてしまう。

 俺は必死で走り続けた。


「クソっ! こっちにもゴブリンがいやがる!!」


 ゴブリンの動きより、俺の方が速いのでゴブリンとの距離は開いて行ったが、進行方向の先に新たなゴブリンを見つけた。

 気づかれない様に近くの茂みに身を隠す。


「何処もかしこもゴブリンだらけじゃないか! これが繁殖期……」


 初めて体験した繁殖期、軽く考えていた為に結果は逃げ帰る羽目となってしまう。

 舐めていたので準備も全く足りていない。

 今回は負けだと判断し、今年の繁殖期は大人しく村の中で過ごす事にする。

 

 だけど何もしない訳じゃない。


 俺は毎日、警護に雇われた冒険者を遠くから観察し、どんな風にゴブリンを倒しているか? 連携はどのように行っているのか? など冒険者の戦い方の勉強をはじめた。


 気安そうな冒険者には、自身の見た目など気にせずに声を掛け直接話を聞く。

 こうして俺は少しずつ彼等の技や知識を手に入れて行く。

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