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第5話 VSゴブリン

 今は村から抜け出し、村の裏側に広がる森の中を進んでいる。

 俺の見た目は老人で弱々しく見えるかもしれない。

 けれど身長の方は歳相応で成長途中だった。

 今の身長は一メートルを少し超えた位で、身体の大きさで言えばゴブリンと余り変わらない。

 

 小柄な身体を広げ短い手足を必死に動かし、草木を分けたり、急斜面地を登ったりを繰り返す。

 これだけ動き回ったのは産まれて初めてだった。

 正直に言えば体は疲れているが、不思議と体の底から力が湧き上がる感じがしている。

 きっとレベルが上がった事で能力値が上昇した事が関係しているのだろう。


 そのまま森の中を二十分程度彷徨っていると、前方の雑木林の茂みから二匹のゴブリンが現れた。


 現れたゴブリンは、小柄だが筋肉質で引き締まった緑色の体をしている。

 眼球は赤色、目尻は吊り上がっており細くて長い。

 鼻先は高く先端は尖っており、人には理解できない言語の叫び声を上げている。

 

 俺も構えを取り、見た目は一応臨戦態勢ではあるが、鎌を持つ手は小さく震えていた。

 今から命を賭して戦う相手になるゴブリンと相対して、正直に言えば俺は恐怖を感じている。


「ギゥゥーギャ!!」


 一方、二匹のゴブリンは、お互いの顔を見合い喜び合っていた。

 獲物を見つけた嬉しさから小躍りを始め、その場で小さなジャンプを何度も行い興奮状態である。


「ゴブリンだ。ふぅ…… 実際に対峙してみると怖くなってきた」


 俺とゴブリンとは因縁の間柄と言ってもいい、初めて会ったのは儀式の時で、その次は夜の森で襲撃された時だ。

 そのどちらも俺はゴブリンに敗北している。

 その為なのか分からないが、俺はゴブリンに恐怖する様になっていたようだ。

 どうにも足が前に踏み出せないでいた。


 最悪の事を考え、逃げ出す事が可能かどうかを確かめる為に、俺は一歩後退してみる。

 するとゴブリン達は一歩前進して来た。

 その動きを見て、既に俺は逃げられない状況なのだと理解した。

 ゴブリン達は様子を伺っており、いつ襲って来てもおかしくなく、周囲に強烈な殺気をまき散らしている。

 もう逃げられ無いのなら、戦うしか無いと俺は覚悟を決めた。


 そして大きく深呼吸を行った後、再び鎌を胸の前で構え直してゴブリンに視線を向け直す。


 次の瞬間、二匹のゴブリンが同時に突っ込んできた。

 俺はゴブリン達の動きに目を凝らす。


 動きはそれほど速くは感じない。


 しかし初めての戦闘の上に二匹同時と言う不利な状況下で、俺は少々混乱していた。

 俺が混乱しているとしても、それは俺の事情でゴブリンには関係がない。


 今は同時に攻めてくるゴブリンをどう対応するのかを決める必要があった。

 咄嗟に俺は自分に近い方のゴブリンから倒すしかないと判断を下す。

 相手を決め、俺が攻撃態勢に入り鎌を振り上げた瞬間、身体が自然に動き始めた。


 頭に描いた攻撃する箇所に向かって、俺の身体は戸惑うこと無くスムーズに流れていく。

 そのままシュッと息を吐きながら、片方のゴブリンに対して草刈り用の鎌を振り抜いた。

 結果、攻撃は的中しゴブリンの胸を簡単に切り裂く事に成功する。

 ゴブリンは青い液体を撒き散らしながら、地面へと倒れ込んだ。

 

 しかし倒れたのは一匹だけで、残されたゴブリンの攻撃を俺は受けてしまう。

 ドス黒い爪で引き裂く攻撃は、俺のむき出しだった腕を掠めていた。

 ゴブリンの攻撃を受けた俺の皮膚は、ゴブリンの爪によって四本の線状の傷が浮かびあがっている。

 確かに攻撃を受けてしまったが、痛みも少なくそれほど酷い傷でもない。


「やったぞ。俺は戦えるぞ! これならいける!!」


「ギェツ! ギェェェッ!!」


 仲間を倒されて、ゴブリンも怒っているのだろうか? 

 地団駄を踏み、悔しそうに大きく歯軋りをしている口からは、鋭い牙が見える。

 

 片方のゴブリンを倒せた事で、俺の方は冷静になっていた。

 既にトラウマは感じず、逆に魔物を倒した高揚感が体中を駆け巡っていた。

 無考慮で本能を全面に押し出して襲ってくるゴブリンの動きは、真っ直ぐで単調。

 先に倒したゴブリンの動きも遅く感じていた。


 それは俺の身体能力の方がゴブリンよりも高いと言う事にもなる。

 

 落ちついて対応出来れば、ゴブリンなら確実に倒せる筈だ。

 考えがまとまった所で、残るゴブリンも再度攻撃を仕掛けてきた。

 俺の一メートル手前で大きく地面を踏みつけ、首元を噛み付く為に飛びかかってくる。


 その動きに合わせ、体の軸を右回りに回転させると、紙一重の差でゴブリンの攻撃をいなす事に成功する。

 攻撃を躱されたゴブリンは、勢い余って俺の横を通り過ぎる。

 その後、ガラ空きになった背中に向けて俺は鎌を振り抜いた。


 特に力は込めてはいなかったが、これも能力値のおかげか? 

 それとも【武具の心得(マスターウェポン)】のスキルの効果のおかげなのか? 

 とにかく鎌は簡単にゴブリンの体を引き裂いてくれた。


「ギェェー!!」


 断末魔を上げながらゴブリンは倒れた。

 俺は初めての戦いで無事勝利し、気分は高まり興奮状態と化していた。

 そして体を震えさせながら、出せるだけの大声で叫んだ。


「勝てたぞぉぉぉ!」


 勝てた事が嬉しくて、俺は怪我をしている事も忘れていた。


 目の前には、動かなくなったゴブリンの死体が二体転がっている。

 この死体をどうすればいいか解らず、ただ見つめていると、死体は黒い炭に姿を変えながら、地面の中へ、ボロボロと崩れ去る様に吸い込まれていく。

 そして最後は鋭い牙だけが残されていた。


「魔物は倒されると、自然と消えるのか…… それに残った牙はドロップアイテム? 取り合えず拾っておくか! これで今の俺がゴブリンを倒す事が出来るって解った。 次は討伐数の確認だな。ゴブリン二体倒して討伐数が減っていれば成功だ…… ステータスオープン!」


 俺がそう呟くと、目の前にステータス画面が現れた。

 そしてステータス画面の討伐数の所へ視線を向ける。


「残り9,808匹…… 討伐数の数が2減っている。じゃあ後9,808匹倒せばレベルが上がる! 今の戦闘で俺でもゴブリンが倒せる事がわかった。後は時間を掛ければ何とかなるぞ。 えっと、毎日10体倒すとして、ひと月で300体。一年で3600体…… それじゃレベル3になるのに三年位掛かるって訳か!? 一日にもっと倒せればレベルアップも速くなるけど、それはもっと様子をみてからだな」


 レベルを上げれば能力値も上がる。

 そうなれば、狩りの効率も上がっていくだろう。

 道のりは長いが、毎日コツコツ頑張っていれば、結果は必ず付いてくる。

 ゴールが見えているので、後はやる気だけの問題だ。

 

 無理はせずにゴブリンだけを狩り続け、俺は必ずレベルを上げるつもりだ。




★   ★   ★




 その日の夜、家に帰った俺はすぐに体を水で洗い流して早めに休む事にする。

 全ては明日からだ。


 だがその日の夜遅く、俺は原因不明の高熱に襲われた。

 体中が暑苦しく息も荒くなっていく。

 痒みを覚え、ゴブリンに襲われた腕を見てみると、傷は酷く化膿している。


「はぁ、はぁ、クソっ! 胸が苦しいし、体中が痛い…… 一体どうしたんだよ? もしかしてこの傷のせいか?」


 熱は数日間続き、熱が引いた頃には腕の傷もほぼ完治していた。


 両親にも酷く心配を掛けてしまった。

 その事を深く反省をする。

 腕の傷はバレないようにしていたが、熱の原因はきっと傷だろうと考えた。


「体や手を洗わない魔物が綺麗な筈が無い。今後は出来る限り、怪我をしないように戦わないと駄目だ…… それと薬も手に入れたい」


 後日、父さんに教えて貰ったのだが、俺の予想はだいたい合っていた。

 多くの魔物には、土や動物の肉片などと言った腐敗菌が多く付いている。

 なので冒険者が怪我を負った場合は、ポーションで治療するのが常識だった。

 ポーションは傷を治すのと同時に殺菌もしてくれる優れたアイテムだった。

 冒険者にとってポーションは、必要不可欠のアイテムだと教えてくれた。


 しかし今の俺にはポーションを手に入れる手段がない。

 なので俺が考えれる範囲での対処法としては、魔物の攻撃を受けないで倒す! 

 ポーションを手に入れるまで狩りを中断していたら、レベルが上がるのが何年延びるのか解らない。

 ならば怪我をせずに倒すしかないと考えた。


 体調が回復してからは、俺は毎日森に向かう前に何十分も掛けて柔軟体操を行う。

 実際にゴブリンと戦う時でも、二匹以上いた場合は気づかれない様に逃げたり、また時には遠距離攻撃や罠で数を減らしたりしてから対峙する様に心がけた。


 俺はこれからも長い期間、ゴブリンを倒し続ける事が決定している。

 なのでゴブリンをよく観察し行動や性格、癖などを細かく調べ上げた。


 これが俺が考えた答えだ。

 そのおかげで俺は自分でも気づかない内に、敵を観察する力と攻撃を受けないで回避する技術を向上させていく事となる。


 それから数カ月後、俺は初めての繁殖期を迎える。

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