第45話 別れと約束
ムサシ達は急ぎ足で駆け寄り、俺の数メートル手前で片膝を落として頭を垂れた。
「現人神様、我々をお救い頂き感謝致します」
ムサシの一声で付き添っていた者達も声を合わせて礼を述べる。
「現人神? 何だよそれは? 俺はただの冒険者だ」
「あのような次元の違う戦い…… いえ…… 貴方様が仰るならそうなんでしょう」
ムサシは勝手に脳内変換して納得してくれた。
熱い男は放っとくのが一番だと判断して、俺は深く突っ込まずに取り敢えずはスルーで行く。
「さぁ、寺院へお戻り下さい。寺院に居る全ての者達が、感謝を伝えたくて待っています」
(寺院か……)
「俺は寺院へは戻らないよ。悪いが誰か俺の荷物を部屋から取ってきてくれ。大きな袋が1つだけだからすぐに判るはずだ」
「もしかして、このまま旅立たれるのですか!? そんな…… 何故?」
「寺院にはリディアがいるだろ? 別れが辛くなる……」
リディアの事を考えると、やはり俺の表情は暗くなってしまう。
俺の悲しそうな眼を見たムサシは、何も言わずに一人の僧に荷物を取ってくる様に指示を出す。
その間に俺は周囲を歩き、三つのダンジョンコアだけ拾い集めた。
「俺はこの素材だけ持っていくが、他の素材は全てお前達が回収してくれ」
「何を言っておられるのですか? 全て貴方様が倒した魔物の素材ばかり、私どもが手に入れるのは筋違いです」
「これからリディアにも金が掛かるだろう。これは俺からの贈り物だ。この素材を売ってリディアに良い装備でも与えてやってくれ。それとフムフムの事だが、あいつはリディアに懐いでいる。良ければ寺院で面倒みてやってくれないか?」
「分かりました。仰る通りに致しますが、本当にリディア様と会わなくても宜しいので?」
俺の言葉にムサシは従ってくれているが、リディアの事を想ってくれている気持ちが嬉しい。
そうしている内に俺の荷物を持った僧が戻ってくる。
俺は革袋の中から紙と筆を取り出し、近くの岩の上に腰を下ろすとリディア向けて手紙を書きはじめる。
書き上がった手紙をリディアに渡す様にムサシに託した。
「必ずリディアに渡して欲しい」
「命に代えましても!」
手紙を渡すだけなのだが、相変わらずの熱さに笑みが漏れる。
「それじゃ行ってくるわ。ムサシ、リディアの事は頼んだからな! またな!!」
革袋を担ぎ直すと、フラルジークの方角へと俺は歩いて行く。
ムサシ達は俺の姿が見えなくなるまで頭を下げて見送っていた。
★ ★ ★
あの日から四年が経過していた。
魔物の襲撃の事件は世間を脅かせて、様々な憶測を生んだ。
だがそれ以降は特に問題も起きる事も無く、次第に人々の中で忘れ去られていく。
俺は今、フラルジークよりも南にある地域で冒険者を続けている。
もっぱらソロ活動だが冒険者生活は結構楽しい。
色々な場所を巡りながら、余り目立たない様に野良ダンジョン攻略をメインに行う毎日だ。
おかげでレベルも少しは上がっている。
今も野良ダンジョンを攻略中で、目の前にはネズミに似た大型の魔物が俺を待ち構えている。
最奥の一番でかい魔物がダンジョンのマスターだ。
少しでも油断すれば殺されてしまうこの状況の中で、俺はフォトンソードを構えて笑みを浮かべていた。
その理由は、今朝ギルドで依頼を眺めていた時に耳にした、冒険者の話しを思い出したからだ。
★ ★ ★
「お前知っているか? 結成されたばかりの新しいクランが凄いらしいぜ!」
「あぁ、噂は聴いたことがある。確か、寺院の僧達で結成されたクランだよな? メンバーは大人二人と子供二人の四人だったか?」
「そうだ。そのクランにいる白銀の亜人の巫女とデカい僧の男がヤバイ位に強いらしいぞ。噂によるとたった四人で野良ダンジョンを攻略したって話だぜ!」
「本当かよ? たった四人で!? ありえねぇよ。だが本当なら恐ろしい奴らだな! そのクランの名前は何て言うんだ?」
「確か…… 仮面のひーろー? だったか? よく解らんがそんな感じの名前だ」
「仮面のひーろー? なんだその変な名前は……」
俺はその話を近くで聞きながら手紙の事を思い返していた。
リディアは今年十六歳になる。
神官の話を思い出してみると、確かリディアが十八歳になる年に大きな戦いが起こる筈だから。
今は修行の一環として、ダンジョン攻略をしているのだろうか?
それにしても、たった四人でダンジョン攻略するとは、リディアもかなり成長しているらしい。
どうやらリディアは俺との約束を守ってくれているみたいだ。
ならば俺の方も頑張らねばならない。
あの時書いた手紙の内容は実にシンプルだ。
★ ★ ★
リディア、強くなれ。
俺はお前と出会えて強くなれた。
俺には目的がある、借りがある人物に会って借りを返さないといけない。
最初は姑息な事を考えた事もあったが、今は正面切って一言文句を言ってやるつもりだ。
それだけで充分だ。
俺がこんな風に考えれる様になったのも、リディアと旅をしたからだろう。
だから、お互い強くなって再び出逢う事が出来るのなら、俺はリディアに全てを伝えたい。
また何処かで会おう。
お前の成長を心より願っている。
クラウス・ブラウン
★ ★ ★
リディアも俺との約束を守って、頑張っているようだし俺も負けてはいられない。
あの時、寺院に戻りリディアに真実を告げる事も出来たが、リディアはまだ子供で俺の呪いがどんな物か理解出来ない。
だが大人になったリディアなら自分できちんと考えて答えを出してくれるだろう。
「俺の今の表情はどんな感じだ? ニヤけているのか? 笑っているのか?」
そんな事自分では解らないが、ただリディアにまた会える日が楽しみで仕方ない。
俺がそんな思い出に浸っている間にも、ダンジョンマスターは同種の魔物を大量に引き連れて俺に向かって突撃してくる。
俺は気持ちを切り替えて、魔物達に向けて叫ぶ。
「さぁ来やがれ! 俺がお前達を喰って更に強くなってやる。変身!!」
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