第43話 絶体絶命
「ギャァァァー」
雄叫びを上げるのは蜥蜴の姿をしたダンジョンマスター。
全身が赤い鱗で覆われ、長い尾を振り回しながら周囲の魔物を吹き飛ばしている。
大きな口から息を吐くように炎が絶えず漏れ出しており、炎に触れた魔物達は一瞬に灰と化していた。
俺は蜥蜴と一定の距離を保ち、無闇に飛び込む様な事はしない。
相手の動きを知る為にまずは様子を伺う。
時折吐き出される火炎は注意していれば十分回避する事が出来るだろう。
その後、スキル【モンスターハンター】の効果によってダンジョンマスターの行動パターンを掴んだ俺は、大きく息を吸い込み動き始めた。
初動はゆっくりと、そして一歩足が前に出ていくに比例し速度を上げていく。
最高速度でダンジョンマスターが吐き出す炎を掻い潜り、俺は無防備となっていた首に全力の一撃を叩き込んだ。
しかし表面の皮膚を軽く傷つけただけで効果は薄い様だった。
「クッソったれめ。ダンジョンマスターは本当にどいつも硬い奴らばかりだ。こんな化け物相手を一度に三匹も相手にできるかってんだ! 他の二匹が此処に辿り着く前に、何としてもお前は倒してやるからな!」
ヒットアンドアウェイで再び距離を取った俺は、一度だけ視線を外し蛇と狼のダンジョンマスターの位置を確認する。
他の二匹はまだ百メートル以上後方の場所で、通行の邪魔だと言わんばかりに自分達の近くにいた魔物を蹴散らしていた。
百メートル以上離れていると言っても時間に猶予は無く、もたついていると他のダンジョンマスター達もここに来てしまう。
そうなれば俺に勝機は無い。
俺は焦りを覚え額には大量の汗が浮かんだ。
ゴクリと唾を飲み込み、急ぐ様に再度蜥蜴に向かって突進を開始する。
まずは近くに倒れている魔物の死体を数匹空中に放り投げる。
それらを足場にし、三角飛びの要領で空中へ躍り出た。
ダンジョンマスターを初めて上空からみたが、巨体は横に長く、棘の付いた長い尻尾が特徴的だった。
尻尾の攻撃を一度でも受ければ骨は砕かれ、俺は動く事はできなくなるだろう。
空中を飛ぶ俺を追うように、蜥蜴のダンジョンマスターは顔を俺の動きに合わせながら、大きな眼球がギロリと動く。
瞳孔は縦長で黒く、俺を追う顔は空中を三次元に飛び回る複雑な俺の動きに遅れていない。
三匹目の魔物を足場にし、大きく進路を変えて変則的な動きで空中から斬り掛かった俺の動きに合わせて、ダンジョンマスターの口からは豪炎が吐き出された。
空中では地上の様に自由自在に進路を変える様な事は出来ない。
俺は襲い掛かる炎を回避する為、瞬時に体をボールの様に丸めた。
空気抵抗で何とか軌道を変え、炎を回避する事に成功すると着地後にそのまま魔物の側面側へと走り込む。
「フォトンソード!」
スキルを唱え、光り輝く剣をダンジョンマスターの脇腹下部へと突き刺す。
「ギャァァァー」
光剣は蜥蜴の硬い鱗を貫通し、深く突き刺さっていた。
「これならやれる!! 覚悟しろよ」
ダンジョンマスターは絶叫を上げながら暴れ回り、深いダメージを与えられた事を自ら教えてくれていた。
俺は剣にしがみつき、暴れるダンジョンマスターに振り飛ばされない様、全力で踏ん張り、身体が飛ばされない様に身体を低くしずめた。
そして一瞬のスキを付き、水平に光剣を振り抜いた。
「ギィィィェェェ!!」
ダンジョンマスターの引き裂かれた脇腹から炎が吹き出す。
大きなダメージを与える事には成功したが、ダンジョンマスターは当然倒れてくれない。
だが動きは見るからに悪くなってきている。
「次の一撃で仕留める!」
再度、俺が気合を入れて光剣を構え直した。
その時俺の横を何か巨大な物が突風の様に駆け抜ける。
瞬時に振り返り確認すると、それは雑魚処理を終えて目的のラフテル寺院に向かい突進して行く狼のダンジョンマスターの姿だった。
「やばい、このままじゃ寺院がダンジョンマスターに襲われる!」
咄嗟の出来事に対して、本能的に俺は後先何も考えずに叫んでいた。
「変身!!!」
それは自ら窮地に飛び込む所業で、自殺志願者が樹海に入るような行為だ。
唯一の救いは各ダンジョンマスターが雑魚を蹴散らしたお陰で、ダンジョンマスター以外はヘイトスキルの範囲に居なかったと言う事位だろう。
後方で狼、正面は蜥蜴、そして側面では蛇のダンジョンマスターがクラウスに向かって大きな咆哮を上げた。
★ ★ ★
瀕死の蜥蜴のダンジョンマスターが渾身の豪炎を吐く。
猛スピードで迫り来る炎を避けると、その先には大口を開けて蛇のダンジョンマスターが待っていた。
その牙は大きく長い。
もし噛まれれば一噛みで、俺の人生は終わってしまうだろう。
体を無理やり方向転換し、事前に使用していたフォトンソードを水平になぎ払う。
口の一部を大きく切られたのダンジョンマスターは大きく跳ね上がり、怒りで辺りを破壊し始めた。
俺が着地した瞬間に背後から二本の爪が襲いかかる。
三匹目のダンジョンマスターだ。
全身が白銀の毛で覆われ、身体は大きかった。
そして蛇のダンジョンマスターに無理な体制で攻撃を繰り出したツケがクラウスを襲う。
着地時にバランスを崩し、狼の攻撃の一撃をモロに喰ってしまう。
意識が飛びそうになる程の衝撃と背中に感じる熱い痛みが体中をかけ巡る。
ボールの様に転がりながら、岩にぶつかり俺は口から大量の血を吐き出した。
背中には痛みよりも熱い熱を感じる。
背中から服を伝い脇まで赤い血が滲んできていた。
(直ぐに立たないと……)
気力を振り絞り立ち上がろうと膝に力を込めたが、足が言うことをきかない。
その間に俺を追いかけて来た三匹のダンジョンマスター達は自分の獲物だと主張している様に、俺を取り囲んでいた。
「あはは…… 流石にこれは無理だな」
初めて発する諦めの言葉。
だがそれも無理はない、満足に動かない体とマインドポーションを何本も飲み続け、何とか繋いでいた精神力も先程の一撃で粉々に砕かれていた。
そんな身体の動かない俺に対して、我先にと攻撃を仕掛けたのは一番動きの速い狼のダンジョンマスターだ。
鋭い牙を見せながら、俺を喰らい尽くそうと大きな口を開いて飛び掛かってきた。
俺はただ狼の事を見ている事しか出来なかった。
「ギャゥゥゥーーーーーン」
そして喰われる事を覚悟した俺が見たのは、光の矢に足を貫かれた狼の姿だった。
その光はその後も降り注ぎ、ダンジョンマスター達を襲い続ける。
魔物達は矢を避けるように散り散りに離れた。
すると今度は俺の側に転がっていた岩に一本の矢が突き刺さった。
「何だこの矢は……」
光の矢は岩に突き刺さった後にゆっくりと光が消えていく。
「これはリディアの矢か!? それに何か付いている」
何とか矢に付いている布袋を掴み取り中を開ける。
「この薬は…… 俺は見た事がある…… 確かエロじじぃが飲んでいた高級ポーション」
そして矢が飛んで来た寺院の方に目をやると、塀の上で金色の光を確認することが出来た。
その光を見て俺が笑みをこぼす。
その時、俺の耳に聴こえる筈がない声が聴こえてくる。
それはリディアの声だった。
俺が居る場所と寺院は距離は百五十メートル以上離れている。
そんな状況で何故リディアの声が聴こえるか解らない俺は周囲をキョロキョロと見渡わたしていた。
「おじ様、死なないで。おじ様…… 私信じてるから…… 私……」
それだけ言うとリディアの言葉は聴こえなくなる。
だが今度は神官の声がクラウスに届く。
「神官のドロアです私のスキルでリディアの声を貴方に届けました。リディアがどうしても貴方を助けたいと。慣れない力を無理に使った為に今は気絶しています。私達がそちらに向かっても足手まといにしかならない。どうか…… どうか生き抜いて下さい」
「やはりリディアか…… 情けないな。いよいよ俺もリディアに助けられる様になっちまったか…… だがまだだ。まだ俺はやれる」
そう呟くと、俺は高級ポーションを一気に飲み干し立ち上がる。
先程とは違い俺の目には闘志がみなぎっていた。
体の傷も高級ポーションのお陰で全快に近い。
「やれる事全てやりきってやる。俺はまだ全力を出し切っていない。ステータスオープン!」
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クラウス・ブラウン
レベル-15 必要魔物討伐数 4,080匹 累計魔物討伐数140,500匹
職業 ヒーロー レベル6
能力
力 72+285
素早さ 88+285
魔力 83+280
アクティブスキル
【変身】取得難度:3 取得条件:職業選択でヒーローを選択
効果:ヒーローに変身する。能力補正+効果範囲の敵の注意を一身に受ける
【フォトンソード】取得難度:1 取得条件:ヒーロー レベル2
効果:自身の武器に光属性付与による攻撃力上昇。超振動属性の付与による切断力の上昇。スキル使用中は継続的に魔力を消費
【プロテクター】取得難度:1 取得条件:ヒーロー レベル3
効果:防御力の上昇。耐熱・耐寒補正。全ての防具を装備すれば+セットボーナス
【ブーツ】取得難度:1 取得条件:ヒーロー レベル4
効果:素早さの補正(大) 脚力・ジャンプ力の強化。全ての防具を装備すれば+セットボーナス
【グローブ】取得難度:1 取得条件:ヒーロー レベル5
効果:力の補正(大) 炎などの実態が無い物を掴む事が出来る。全ての防具を装備すれば+セットボーナス
パッシブスキル
【逆転】取得難度:10 取得条件:不運
効果:取得者の成長が逆転する。
【武具の心得】取得難度:8 取得条件:レベル99
効果:職業に関係なく全ての武器、防具をマスターレベルと同等に扱う事が出来る。
【魔力の真理】取得難度:8 取得条件:レベル99
効果:全てのスキル及び魔法使用時の必要魔力量を99%減少させる。
【ゴブリンと戦う者】取得難度:1 取得条件:ゴブリン撃破数1,000匹
効果:対ゴブリンとの戦闘において、全ての能力値が+10。ゴブリン発見率の上昇
【集団戦闘】取得難度:4 取得条件:一対三倍以上の集団戦闘における勝利回数20,000回
効果:自分を中心に半径四メートル範囲内の絶対空間認識能力。
【罠の達人】取得難度:3 取得条件:罠による魔物討伐数20,000匹
効果:自身が設置した罠の認識阻害効果(大)、罠の威力向上(大)。設置された罠を必ず発見する。任意の者に対してのみ罠を発動させる事が可能。
【研ぎ】取得難度:1 取得条件:刃物の研ぎ回数10,000回
効果:砥石でなく、普通の石であっても刃物を研ぐ事ができる。研ぎ作業の砥石の摩耗率減少。刃物の攻撃力の上昇(小)
【ピンチ】取得難度:3 取得条件:職業選択でヒーローを選択
効果:危険度に合わせて能力値が上昇・守る者の数だけ+能力値補正。
【魔物討伐者】取得難易度:5 取得条件:【魔物を狩る中級者】+【観察者】+【看破】
効果:魔物の特長や弱点、動きを瞬時に把握し魔物の行動を予測できる。戦闘時に能力値が1.5倍となる
モンスタースキル
【ゴブリン】取得難度:3 取得条件:ゴブリンダンジョンを攻略する。
効果:毒耐性。どんなに腐った物を食べたとしても、身体に影響がでない。
【大蜘蛛】取得難度:4 取得条件:スパイダーダンジョンを攻略する。
効果:身体が接していれば、壁や天井などを重力関係なく移動する事ができる。
魔法
【女神召喚】取得難度:9 取得条件:レベル100
効果:創造主を召喚する事が出来る最上位魔法
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俺は自分のステータス画面を見て驚いていた。
必死に戦っていたので気づかなかったが、俺は信じられない程に強化されていたようだった。
「もう出し惜しみは無しだ。覚悟しろ!!」
俺は大声を張り上げ、新しいスキルを叫んだ。