第41話 リディアの力の秘密と俺の覚悟
気を失ったリディアに俺とムサシが駆け寄る。
リディアは気を失っているみたいだが、身体から発せられる光は止まっていない。
「リディア大丈夫か!?」
俺もムサシも何が起こったのか理解出来ない。
その後気絶したリディアをベッドに寝かせた時、俺達の元へ神官のドロアが走って来た。
「今の叫び声は何だ? もしかしてリディアだったのか? どんな状況だ? もしかしてリディアの体が光だしたりしていないだろうな?」
(どういう事だ? なぜ神官は見ても居ないのに状況を知っている?)
俺はその事が引っかかる。
ドロアの問にはムサシが頷き答えていた。
「もしかして聴こえたのですか? リディア様はクラウス様との別れの際に興奮した後、体が光を帯びて痙攣して気を失いました。ですが今は光も収まっており、身体も大丈夫かと思います」
「あぁぁ。何てことだ」
ドロアは顔に手をやり天を仰ぐ。
俺とムサシには一体何が起こっているのか分からない。
暫く項垂れていたドロアは突然大声を発し、近くの僧に向かって指示を飛ばした。
「寺院にいる全員に伝えろ! この後、大量の魔物が攻めて来る可能性があると!」
「何だって!? どういう事だ。説明してくれ」
突然何を言い出すんだと、俺は目を大きく開いた。
俺はドロアに問いただす。ドロアはリディアの力の事を教えてくれた。
「前例があるのだよ。リディアが救世主と言う事はクラウス殿も知っているだろう」
「あぁ、フラルジークの寺院で聞いた。予言とは言え、少女に魔物を討伐しろと言う酷な話しだと思う」
「先読みの占いで、リディアには魔物との戦いを終わらせる力が秘められている事は解っている。しかしその力は強大で今はまだ幼く完全に制御できていないんだ」
(制御出来ていない?)
俺はドロアの話に嫌な気配を感じた。
「タックス寺院が魔物に襲われた後、その近くの寺院が救援部隊をタックス寺院に派遣していた。その時にリディアを世話していた侍女を救助している。侍女の話によれば、リディアの体が光り出し絶叫を上げた後に大量の魔物が襲ってきたと…… 侍女はその後息を引き取った為に詳しくは解らないが、この寺院全体に響き渡った声とムサシが言ったリディアの光。侍女が話した時と状況が瓜二つだ。考え過ぎかも知れないが用心に越したことは無い」
(確かにリディアの力はチートじみている。未来が見える職業なんて、ラスボスか主人公のクラスの強者が手に入れる能力。そんな力を持つリディアは魔物を呼び寄せる力も有していた訳か…… と言うことは自分の力で両親を…… 何て事だよ。それが事実ならリディアが可哀相すぎるじゃないか)
リディアの辛い生い立ちを知り。
俺は歯を食いしばり、拳を強く強く握りしめた。
その時、別の僧が息を切らしながらドロアの元へ走ってきた。
「神官様大変です。まだ薄っすらとですが、寺院に向かって黒い波が近づいて来ています!!」
「門を閉めろ! 戦える者は全員武器を持ち塀に移動しろ。魔物を寺院に入れる訳には行かん」
ドロア達は黒い波の正体を見極める為に外に出る。
俺とムサシもその後に続いた。
塀に上り周囲を見渡すと、確かに黒い影が少しづつ増えてきている。
「あれは多分魔物だ。物凄い数の魔物が集まっている。繁殖期でも無いのにどう言う事だ!?」
繁殖期に何度も見た黒い影が広がっていく。
ただ普通の繁殖期と規模が違う。
おびただしい数の魔物は時間の経過と共に数を増え続ける。
大海練と化した魔物の影は、この寺院を飲み込もうと勢いをましていく。
「ありったけの矢を用意しろ。遠距離攻撃が出来る者は出し惜しみするな! 準備を急げ」
ドロアの指示で僧達は忙しく動き回る。
余り時間の猶予はない。
だが誰の目にも、この状況を凌げる未来は見えて居ないだろう。
武神と呼ばれるムサシも大粒の汗を滲ませている。
それ程までに状況は深刻だ。
周囲からは【もう駄目だ】【俺達は此処で死ぬんだ】と絶望的な声が聞こえてくる。
(余りにも数が多すぎるぞ! このままじゃ寺院は完全に魔物に潰される。それじゃリディアも此処で…… 死んでしまうのか? 嫌だ!! そんな事は俺がさせない)
先程見せたリディアの涙。
胸が締め付けられる様に痛かった。
それ以上にリディアを失いたくないと言う想いが俺の胸の中で大きくなる。
(やるしかない!! 例え死んでしまうとしても、足を前に出せ。ここで逃げれば俺はきっと後悔する)
「ムサシに頼みがある。今すぐに、剣を数本とこの革袋一杯にポーションを詰めてくれ。マインドポーションも在れば頼む」
「クラウス様は何をする気ですか?」
「あぁ、外に出て少しでも魔物の数を減らす。そうすれば寺院も持ち堪えれるかもしれない」
「無茶です。魔物は見えるだけでも軽く千は超えているんですよ。一人で出て何が出来ると言うのですか!?」
「こういう状況は慣れている。まぁ、いつもより数はかなり多いがな…… だがリディアを守る為にもやらせて欲しい。それが俺に出来る唯一の報いだ」
「それでは私も一緒に!」
「それじゃ昨日、俺と交わした約束は守れないだろ? リディアを守るっていう約束の事だよ。ムサシ、お前は寺院に残って侵入してくる魔物を防げ。そして必ずリディアを守ってくれ」
俺はムサシの両肩に手を当て目を見つめながら力強く握りしめた。
ほんの数秒程の時間の付き合いだが、ムサシも俺の想いを解ってくれた。
「解りました。ご指示の装備はすぐに用意させます」
その後、数分でポーションの詰まった革袋と四本の剣を受け取る。
父さんの剣と自分が買った剣を合わせると六本だ。
剣は両腰に二本づつ吊るし、両手に一本づつ持ち革袋はリュックの様に背負った。
少々動きづらいが仕方ない。
この装備で足掻けるだけ足掻いてみるつもりだ。
魔物の影は寺院の二百メートル前方まで迫っていた。
その数は時間の経過と共に増えており、すでに二千匹は超えているかもしれない。
もう時間もあまり無い。
俺は塀から外へ飛び降りると魔物に向けて駆け出していく。
「うぉぉぉ、覚悟しろよ魔物共!! リディアも寺院も全部俺が守ってやる。 変身!!」