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第40話 悲運のスキル

 翌朝、俺は神官に呼ばれ部屋へと赴くと、その部屋には神官やそれに連なる者達が大勢集まっていた。


「クラウス殿。早朝からすみません。昨日は良く眠れましたか?」


 神官の言葉で話は始まる。

 部屋にはリディアの姿は見当たらない。

 俺はどんな話になるのやらと考える。


「あぁ、よく眠れたよ。部屋を提供して貰い感謝している。それでこれ程の人を集めて何を話し合ってんだ?」


「クラウス殿もリディアの使命は知っていると思いますが…… 今すぐの話では無いのですが、リディアは今後、この寺院で修行を行い。八年後に魔物討伐に向けての旅を出る事が決まっています」


(リディアは確か今は十歳の筈だ)


「八年後? それじゃリディアはまだ十八歳だぞ。若すぎないか?」


「それが星読の未来なのです。そうしなければ、この世界が滅びます。今はその旅に同行する者達を選考しようと話していた所です」


「あんた達の都合をリディアに押し付けるのは気にいらないが、そんな大事な事を俺に話してもいいのか?」


「構いませんクラウス殿にも関係がある事なので……」


 俺はそこで頭を傾げて考えてみた。

 その魔物との決戦に自分も連れて行こうと考えているのだろうか?


「それで、クラウス殿にお願いしたい事があります。ムサシから話を聞いた所、驚きましたが貴方は武神と呼ばれるムサシよりも強いとの事。その貴方に今から八年の間リディアや同行する者達を鍛えて貰えないでしょうか? 勿論、タダとはいいません。十分な金銭とその後の暮らしも寺院が保証致します。最後の弟子を取るつもりで何とかお願いします」


(なるほど、そういう事か!)


 他人から見れば俺の姿は老い先短い老人だろう。

 確かに八年後は更に老いてもう戦う事が出来ないと考えるのが普通だ。

 そして現時点の俺は寺院最強と言われているムサシよりも強い。

 だから講師として協力して貰おうと答えを出した訳か。


(俺が講師をすればその間俺は寺院にいれる事になるが…… 確かにリディアとは一緒に居る事は出来る……)


 どの位の時間考えただろう。

 数分だろうか? 体感では数十分にも感じる時間を経て出した答えは【受ける事が出来ない】であった。


「それは出来ない。俺にも訳があってな。急ぎたい用があるんだ申し訳ない」


 自分勝手な話だが、俺はレベルを上げて強くなりたかった。

 自分自身、レベルを上げて若さを取り戻したいと心底願っている。

 リディアの側にも居てやりたいが、自分の願望とリディアの側にいる事を天秤に掛けた時に傾いたのはレベルを上げる事だった。


 断りの言葉を言いながら、リディアに対して懺悔するかの様に深く頭を下げる。


 神官達はその後も粘り強く頼んで来たが、俺は首を縦に振る事は無かった。

 残念そうに諦めたドロアはリディアをラフテルに連れてきた謝礼の金貨を手渡してくれた。


「この後俺は此処を出て行くが、最後にリディアに会っても大丈夫か?」


「是非、声をかけて上げてください。もし黙って貴方が出て行けばリディアが悲しむでしょうから」


 それだけ告げると俺は部屋から出て行く。

 その足でリディアの部屋へ行こうと考えたが、場所を聞くのを忘れていたのを思い出す。

 しかし丁度、通路で出会ったムサシを捕まえて場所を聞くと部屋に案内してくれる事となる。


 案内の間に先ほどの提案を断った事を伝えた。

 ムサシは残念そうにしていたが、こればかりは仕方ない。

 そうしている間にリディアの部屋に辿り着いた。


「ムサシは此処で待っててくれるか?」


「勿論です。無粋な真似は致しません」


 俺はドアを開きリディアの部屋へと入っていく。

 リディアは部屋の中で勉強をしていた。

 机に座り寺院で手に入れた書物を写している。

 昨日寺院に着いたばかりなのに真面目な子だと再確認をしてしまう。


「おじ様。来てくれたの?」


「あぁ、勉強中だったか? 邪魔して悪いな」


「……ううん。大丈夫」


 心臓の鼓動がドンドン早くなる。

 次に言わないと行けない言葉を言う勇気が出てこない。


「……ん?」


 何も言わない俺をリディアは不思議そうに見つめていた。

 そのキョトンとした表情は愛くるしく胸が締め付けられる気がしていた。


「実は…… お別れを…… 言いに来た。俺は今からこの寺院を去る。お前ともここでお別れだ」


「えっ? おじ様は此処にいて先生になってくれるって…… おじ様が」


 どうやら神官から俺に話をした内容を事前にリディアに話していたみたいだ。


(あのバカ神官! 結果が出る前からリディアに言うんじゃねーよ)


 だが一度吐いた言葉は戻らない。

 水路が洪水で決壊した後の様に後は勢いに任せて突き進むしかない。


「その話は断った。俺には別の用があってな…… 今度はその用件を片付けるつもりだ」


 リディアの瞳には大粒の涙が溜まっている。


「じゃあ、じゃあ、その用事が終わったらおじ様は帰って来るの?」


(成る程リディアの言う通りだ。ある程度レベルを上げたらリディアの元へ帰ればいいじゃないか……!!)


 俺はその時初めて自分に掛けられた呪いを知る。


(嫌、会える訳がない! レベルが上がれば俺は若返る…… スキルの秘密に気づいて、最初は勇者マリアを騙せると喜んだりもしたが、間違いだった。こんな爺さんが若返って現れたらリディアも周囲の者達もきっと気味が悪いと思う筈だ。共にいる人が老いて行く間、俺だけが若返っていく。そうか…… 今やっと理解した俺は大事な人達と一緒に過ごせないのか……)


 気づいてしまった自分自身の呪い。

 俺はその場で倒れそうな程のショックを受けていた。


「おじ様、どうなの? 答えて!!」


 放心状態になっていた間に、リディが俺の服を掴み激しく揺すっていた。

 俺は絶望的な顔をしていたが、覚悟を決めてリディアの両肩に手を置いた。


「俺は此処には帰って来ない。リディアとはここでさよならだ。リディア、後は自分の力で頑張るんだ」


「えっ? おじ様、どう言う事なの? ねぇ? おじ様、どうして戻って来ないの? 私の事はどうでもいいの?」


 俺の腹を両手で叩きながら、泣きじゃくりながらリディアは何度も何度も残って欲しいと訴えてくる。

 その言葉一つ一つが俺の心に突き刺さる。


「リディアと過ごした時間は忘れない。リディアも頑張って生きるんだ。お前は賢くて真面目な子だ俺が居なくても大丈夫」


「おじ様、何でそんな事を言うの? 解らない。 私解らないよ」


 このままでは埒が明かない。

 俺は振り向きドアを開けた。

 リディアは後ろで泣きじゃくっている。

 二人の会話をドア越しで聴いていたムサシも、またやり切れない表情をしていた。


「ムサシ悪いが後の事は頼めるか? 俺が此処にいたらリディアも辛いだろう……」


「解りました。後は私が……」


 その時リディアが俺の背中に抱きついてくる。

 物凄い力で絶対に離さないと言わんばかりだ。


「私もおじ様と一緒に行く。私もおじ様のお手伝いをさせて!!」


「駄目だ。お前は此処で強くならないといけないんだ」


「嫌。もう私、大切な人とお別れしたくないの!!」


 俺が振り解こうとするが必死でリディアは抵抗していた。

 手荒な事もしたくないので、俺はムサシにリディアを引き離す様に頼む。

 その結果必死でしがみつくリディアもついに俺の体から手を離してしまう。

 そのまま俺は一歩ずつリディアから遠ざかって行く。

 だがその時リディアの様子がおかしくなる。


「嫌ぁぁぁぁぁ~!!」


 リディアが突然絶叫するとリディアの体が薄っすらと光だす。

 その声は空間を響かせ周囲の者達の体を貫く、その後も光を強めながら興奮状態で痙攣を始めたリディアは終に気を失っていた。


「リディアの身体が光った!? 一体…… 今のは何だったのだ?」

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