第4話 情報収集
朝起きると俺は椅子に座り、昨日まとめた考えをを整理する事にした。
まずは現時点で分かっている事を紙に書いていく。
「以前より身体が軽いのも、たぶんレベルが上がったからだろう。そう考えるのが自然だ」
腕を組んだまま、据わっていた椅子をシーソーの要領で揺らす。
「俺が老人の姿で産まれた理由は、やっぱり俺のスキル【逆転】のせいだろうな。ステータス画面に書かれている説明を見れば一目瞭然だ」
再びステータス画面を開き、項目に再度めを通していく。
「次に気になる項目は【次回必要魔物討伐数 9,810匹】と言う数字と【累計討伐数10,000匹】。この二つはどう考えても数字の桁がおかしいんじゃないか? レベルはマイナスが付いているけど、一応初心者のレベル2。物語にも書いてあったけど、低レベルの時ってレベルアップをする為に倒さなければいけない魔物の数は、もっと少ないと思うんだけど。もしかして俺のステータス画面は壊れてるのかもしれないな? とにかく魔物討伐数の事も、父さんから話を聞いてみて、一度検証する必要があるぞ」
まず一つ調べる項目を確認し、休憩がてら大きく背伸びをした。
「全ては【逆転】のスキルが影響している。もしスキルの説明文にも書いていた通り、俺の成長が逆転しているとすれば、この魔物討伐数9,810匹と言うのも説明がつく。仮にだ、レベル100が上限だと仮定すれば、上限から一つ手前のレベル99からレベル100に上がるのに必要な魔物討伐数が10,000匹と言う事になる。しかし俺の場合はレベルが上がるのでは無く、マイナスが付いているから下がっていく感じか? その証拠にレベル99で覚えるスキルを二つ手に入れているからな。そう考えるとレベルを下げるのに必要な討伐数はレベルを上げるのに必要な討伐数と同じ……」
朧げだが答えを導き出せそうな気がする。
「でもそれってどうなんだ? レベルが一つだけしか上がっていない俺に、一万匹の魔物を倒せって事自体が不可能なんじゃないのか? 今の俺の能力値は父さんの半分程度だ。一応、使えそうなスキルもあるが…… えぇぇいっ!! 何処までやれるか分からないが、やれる所までやるしかない」
一つの結論を導き出した俺は、大きなため息をつく。
その理由は、現状を理解し、レベルを上げる為には膨大な数の魔物を倒す必要が在る事が理解できたからだ。
しかし今までと違って諦めた表情はしていない。
「確かに俺の推測が合っているなら、レベルを上げるには時間はかかるかもしれない。だけど不可能じゃない筈だ。辛かった今日までの日々に比べたら、どんな事だって乗り越えられる。毎日少しづつでも討伐を続けたら、いつの日か必ずレベルは上がるんだ。そしてレベルが上がれば俺は若返るかもしれない。可能性を捨てたら人生は終わりだもんな!」
俺は気分を切り替え、父さんが帰ってくるのを待った。
★ ★ ★
その日の夜、俺は仕事から帰ってきた父さんの元へ駆け寄り、昨日に続き冒険者の事を色々と聞き出していた。
父さんはレベル28で、冒険者としてはルーキーを卒業して一人前になった所位らしい。
そして次にレベルアップする為に必要な討伐数は、現状で250匹だと教えてくれた。
記憶を遡り思い出して貰うと、最初は800匹だったとわかった。
この情報で魔物の討伐数問題は解決に向かう。
「レベル28で必要討伐数が800匹…… やはりそうか、間違いないと思う。俺の仮説は合っている」
その後、俺は父さんに酒をお酌しながら、幾つか質問を投げかけた。
結果、色々な事が解った。
まずは魔物を倒すと魔物討伐数が減るのだが、魔物によって適正レベルがある。
例えばレベル5の人がゴブリンを倒すと討伐数が一減少する。
しかしレベル15の人が同じゴブリンを倒しても討伐数は減少しない。
レベルを上げる為には、自分のレベルに適合した魔物を倒す必要があると言う事だ。
逆に低レベルの者が適正以上の強い魔物を倒した場合は、減少する数値が多くなるらしい。
そうなると強い人が弱い魔物を狩らなくなる。
だからギルドは強制クエストを発注し、定期的に魔物を冒険者達に狩らせている。
適性外だと言えども、金品が発生するなら冒険者は適正外の魔物でも倒してくれる。
(何とも弱者に厳しい世界だな)
「討伐数の検証は実際にゴブリンを倒してから調べてみよう。それで解るはずだ」
父さんの話では、村の周辺に出没するゴブリンの適正は、レベル10までだと言っていた。
俺のレベルは-2。マイナスが付いているけど、ゴブリンは俺の適正となるかもしれない。
もし最悪な事に俺の適正がスキル【逆転】の効果でレベル99と解釈されて、高レベルの魔物が適正だった場合は、もうお手上げである。
レベルを上げる事自体を諦めるしかないだろう。
明日にでも俺の適正モンスターにゴブリンが入るのか、調べておかなければならない。
問題点が一つハッキリした所で俺は意識を変え、次は魔法やスキルについて聞いておく。
ステータス欄を見ているとスキルは二種類あった。
それはアクティブスキルとパッシブスキルの二つだ。
父さんの説明よるとアクティブスキルは、スキルを発動させる事によって初めて効果が発揮されるスキル。
パッシブスキルは常時発動されているスキルだと教えてくれた。
どのスキルにも取得難度があり、難度が高いほど取得条件は厳しくなるとの事だ。
取得方法には幾つかの種類があるらしく、丁寧に教えてくれた。
★ ★ ★
一、レベル系スキル。
これは一定のレベルに達する事によって取得できるスキルとの事で、高レベルになれば効果が高いスキルを会得できるらしい。
二、カウント系スキル。
このスキルは一定数の行動や魔物を倒した場合に取得できるスキル。
効果の範囲は限定的となりがちだが、特化スキルなどが多い。
三、ギフト系スキル。
生まれた時から持っているスキル。
特殊なスキルが多く、持っている人は少ないらしい。
★ ★ ★
俺の【逆転】は間違いなくギフト系スキルだと思う。
その他にしているスキルは全てパッシブスキルでレベル系が二つで、カウント系が一つ。
しかもレベル系は取得難度も高そうだ。
【逆転】と言うくそ迷惑なスキルのせいで、とんだ目に遭ってはいるが、スキル効果の影響で、取得難度が高く、普通なら取得するのが難しいスキルを最初から得られた事が唯一の救いだろう。
父さんの職業は剣士だったので、魔法は使えないらしい。
だけど魔法も剣技スキルも原理は同じだと教えてくれた。
要するに覚えたスキルや魔法を使用する為には、魔力が必要だという事だった。
(ステータス画面の項目には魔力の数値もあったな。あの数値が上がれば多くの魔法やスキルが使えるって訳か。俺が覚えている魔法【女神召喚】外で使用してみたけど、その時は使えなかった)
最後は職業について簡単に教えてくれた。
職業を得る方法は各種ギルドや専門機関に行けば、誰でも手に入るようだ。
自分自身が持っている才能と、それまで自分が培ってきた経験を元に入手出来る職業が決まる。
なので希望の職業が簡単に手に入る訳ではない。
例えば、何もしてこなかった村人の少年が行き成り冒険者になると言っても、剣士の職業を取得できる訳ではなく。
取得するには、事前に厳しい訓練を行い、一定レベル以上の剣の技能を習得しておく必要がある。
そして職業にもレベルが存在する。
職業レベルが上がる事で職業専用スキルを覚える。
また職業によって能力値に職業補正が掛かるらしく、剣士なら力に補正が掛かったり、魔法使いならば魔力や素早さに補正が掛かる。
レベルに比例して補正率も高くなる様で、冒険者は生涯一つの職業を極めている者が多いとの事だ。
だけどその職業を辞めて別の職業に就いた場合、新職業は当然レベル1に戻り、その後再び元の職業に戻っても再びレベル1からのやり直しになってしまう。
ここまで話してくれた所で、父さんは酔い潰れて眠ってしまった。
俺は母さんに父さんが酔い潰れた事を伝え、後は自分の部屋へと移動した。
そして明日、俺はゴブリンを狩ってみる事を心に決めた。
「大丈夫。ゴブリンは村人でも追い払う事ができる程度の魔物。俺はきっとゴブリンだって倒せる」
★ ★ ★
翌日、俺は母さんの目を盗んで家を抜け出す事に成功した。
今から村の外でゴブリンと戦って見るつもりだ。
武器としては、農作業で使う草刈り用の鎌を納屋から持ち出している。
俺の家は村のすみに建てられているので、誰にも見付からずに出て行けると考えていたが、運悪く、悪ガキの少年達と出会ってしまう。
「あれ、コジキじゃねーか?」
一人の子供が俺を指差し、ケラケラと笑っている。
その笑い声に続いて他の子供達も俺を指差し笑い出す。
折角、ゴブリンと戦うつもりなのに、つまらない事で時間を取られたくない。
今は早くゴブリンの検証を行いたいと言う想いが強く、少年達の事を少々鬱陶しく思ってしまう。
「勇者様に捨てられたコジキが、鎌を持って何処へ行くんだよ? 畑の仕事でもするのか? 爺さんが畑に行ったって、邪魔になるだけだから、家に帰って寝ていろよ!」
そう言いながら子供達は、俺の周囲を取り囲み笑っている。
以前なら、怖いと感じたり気後れしていたのだが、今は特に怖いとは感じない。
ゴブリンに襲われて、死にかけたから肝が据わったのだろうか?
そのまま最初は無視しておこうと思っていたが、文句を言われ、道を塞がれる事によって、少しづつ苛立ちが募る。
その理由は、一秒でも速くゴブリンを狩りに行きたかったからだ。
俺はリーダーの少年に言葉をかけた。
「俺は村の外に出る用事があるんだ。遊んでいるなら邪魔しないでくれ」
俺の言葉を受けて、少年が目尻をつり上げ、フンっと鼻を鳴らした。
「用事だって? 老人のコジキが何をしたって邪魔にしかならないぞ。だから大人しく家へ帰れ! 勇者様はもう二度と助けてくれないからな」
その後、他の子供達もリーダーに続き帰れコールが始まる。
文句にちょこちょこと勇者のワードを入れてくる辺りが癪に障る。
流石に苛立ちが募り、俺はつい手に持っていた鎌をチラリと見せてしまう。
けれど少年達は腹を抱えて大笑いを始める。
「何だよ。やる気なのか? 儀式の時も見ていたけど、あんな程度の装備を着けた位で動けなくなる程度なら、俺には勝てないぜ。悔しかったら俺と勝負するか!?」
リーダーの少年は怯む所か、逆に馬鹿にしながら挑発を始める。
「どうなっても知らないからな!!」
「ふんっ!! コジキなんかには一生負けねぇぇよ」
流石にぶち切れた俺は、軽く脅すつもりで少年達の後方に立ち並ぶ木々に向かって、鎌を投げつけた。
軽く投げ付けたつもりなのだが、結果は俺を含む全員が唖然となってしまう。
鎌は高速回転しながら物凄いスピードで、少年の数センチ横を通り過ぎる。
そしてそのまま、後方の大木に深々と刃が食い込んで止まる。
余りの恐怖にリーダーの少年も尻もちをつき、腰を抜かして泣き出してしまった。
そして失禁でズボンには濡れた模様が浮かび上がる。
「うぁぁぁ~」
他の子供達もその様子を目の当たりにし、散りじりとなって逃げて行く。
「凄いな…… これがレベルアップの力か……」
鎌を投げた俺自身も、その力の凄さに暫し放心状態となる。
後で知った事だが、俺と同程度の能力値を持つ者が同じ様に鎌を投げたとしても同じ結果にはなっていない。
俺の強さの秘密は、俺が持つスキル【武具の心得】の効果があったから。
【武具の心得】の効果は、職業に関係なく全ての武器、防具をマスターレベルと同等に扱う事が出来る。
鎌も武器として見なされていたようで、今の俺は鎌使いの達人と言う訳だ。
その後リーダーの少年も泣きながら逃げ去り、俺は村からたった一人で抜け出した。