表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

39/45

第39話 ラフテル

 リディアの説明を聞いて自分の勘違いを理解したムサシは、すぐに神主を拘束し身柄を取り押さえた。

 これによって今回の事件が収束する。

 実はムサシは各寺院を調査、拘束できる隠密の様な存在だった。

 こうなってしまっては神主の未来は終わっただろう。


 ムサシとリディアはムサシが武神と呼ばれだした頃に知り合い、それ以降はリディアの事を可愛がっていたようだ。


 タックス寺院が魔物の襲撃を受けた後、ムサシ達も救出部隊を結成しリディアを必死で捜索したが、見つける事が出来なかったと言っていた。

 混乱の中、母親はリディアを連れて寺院から逃げ出した後、偶然俺と出会いリディアを託したと言う事だろう。

 俺も当時の事をよく思い出したら、護衛の男達もボロボロだったのを思い出す。

 相当激しい戦いから命からがら逃げてきたのだ。


 ラフテルまではムサシが案内してくれる事となった。

 詳しく聞くとフムフムで大体1週間程度で着くとの事だ。


 


★   ★   ★




「申し訳有りませんでした。リディア様の恩人に対して私は何て事を……」


 ムサシは俺の目の前で美しい土下座している。


「もう、いいって。謝罪はあの時受けただろ。俺は気にしていないから」


「いえ、そう言う訳には行きません。腹を切れと言うので有れば……」


 そう言いながら正座をしている自分自身の前にナイフを置く。


「あわわっ おい! やめろ宿の中で自殺なんかすんじゃねー!」


「ムサシ兄様。おじ様は優しいから、大丈夫。怒って無い」


「それならば、何かお手伝い出来る事があれば言って下さい。全寺院の総力を上げてお助け致しましょう」


(寺院の総力って…… 話を大きくする男だな。最初見た時こんな熱い男とは思わなかったんだが……)


「解ったよ。その時は頼むとするよ。それでラフテルの出発はいつだ?」


「今日はゆっくりと体を休めて、明後日の朝出発しようと思います。クラウス様はそれで大丈夫ですか?」


「あぁ、大丈夫だ。今日、明日の内に旅で必要になりそうな物は買い揃えて置くよ」


 そう言ってムサシと別れる。

 別れの際にリディアにムサシと一緒に行動しないのかと俺が聞いてみる。


 知り合いと出会えたんだし、無理に俺と一緒にいる必要もないと思っての事だ。


 けれどリディアは俺と居たいと言う。

 その答えを聞いて、俺は素直に嬉しくおもった。


 俺達はそれから商店街へ買い物に出かけ、途中で美味しい料理を食べた。

 リディアは久しぶりにゆっくりできて楽しそうだ。

 その後も色々な所を回りながら、すぐに去る事になる大都市フラクジールの思い出として俺達は楽しい時間を過ごした。




★   ★   ★




「それじゃ出発だ。ムサシには悪いが案内を頼むよ」


「はい。任せて下さい」


 フムフムの手綱を持つ俺は隣で座るムサシが指差す方向へと進み始めた。

 ムサシが指す方向には目的地のラフテルが存在する。

 フラクジールに到着するまでに一カ月以上旅を続けてきた俺とリディアにとって、一週間位なら遠くの場所とは感じない。

 今は通行人が通る事によって自然に出来たあぜ道を進みながら、周囲の風景を楽しむ。

 途中で現れた魔物達はリディアとムサシが全て倒していた。


「リディア様は本当に頼もしくなられましたな。これもクラウス様のご指導の賜物ですな」


「……エッヘン。 おじ様は凄い!」


 魔物を倒す度に、そんな会話が聞こえてくるが全てスルーしておく。

 旅の途中に稽古を付けてくれとムサシに頼まれ、暇だった事もあり何度か手合わせもした。

 ムサシは武神と言われるだけあって、殆ど負けた事が無いみたいだった。

 なので寺院で俺に倒された時に衝撃を受けたらしい。

 この男が暑苦しくなければもっと稽古もつけてやるのだが、中途半端にすると逃がしてくれなさそうなので、老人の身体で体力が少ないからと時間制限を付けた。


「ではクラウス様は独学でその技を習得されたと…… 成る程、私の精進もまだまだですね」


「俺の事はいいから、道に迷うなよ!」


「それは心配には及びません。この道を進めば自然とラフテルへたどり着けます。あと少しで着きますよ」


 そうかと思いまた周囲の風景に目を移す。

 周囲は森を抜けて、岩場の道を進んでもいた。

 進行方向左側にずっと続いている山裾の一部に、大きな穴を見つける。

 独特の雰囲気を持つその穴を見て、俺はゴブリンダンジョンを思い出した。


(また野良ダンジョンか。やけに多いなこれで三箇所目だ)


「ムサシ、この辺りはやけにダンジョンが多いな。こんな危険な場所に建てて寺院は大丈夫なのか?」


「確かに野良ダンジョンは多いですが、寺院にいる者達はそれなりに腕の立つ者が揃っています。なので心配いりません」


「でも繁殖期の時なんて移動できないんじゃないのか?」


「ラフテルは大きな寺院です。繁殖期を越すだけの食料の備蓄はあります。それに一定以上の実力を持つ者達ならば繁殖期であっても、連隊を組めば通行する事位はできますから」


(寺院…… 中々、強者達が多そうだぞ)


 そんな話をしながら野宿を繰り返す。

 そしてフラルジークを出発して丁度一週間後、前方に大きな寺院が見えてくる。

 街の中に立てられた木造建築の寺院とは違い、ラフテルの外壁は石を積み上げられて造られていた。

 その姿はまるで大きな城の様に見えた。

 当然中で働く者も多いとの事だ。


「あれがラフテル…… やっと辿り着いたぞ」


 俺はフムフムのピッチを上げラストスパートを掛ける。




★   ★   ★




「ムサシ様だぁ!!おーい、みんなぁぁムサシ様が帰ってこられたぞぉぉ」


 入口に立つ門番がムサシを見つけて歓喜している。

 ムサシが手を上げて応えると興奮している様だった。

 どうやらこの男、意外と人気があるようだ。


「神官様に会いに来た中へ入らせて頂きたい。門を開けて貰えるか?」


「早速、扉を開かせます。開門! かいもーん!」


 門番の言葉を受けて扉は音を立てながら少しづつ開いていく。

 大きくて重量感がある門は外敵から身を守るために作られたらしい。


(これがラフテルの寺院…… これで俺とリディアの旅も終わりだな……)


 俺の心に寂しさが募っていく。


(ここにはリディアの身内もいると言っていた。リディアにとってもこの場所で生活するのが一番良いだろうな)


 最後まで扉が開いた後、フムフムと共に境内へと入っていく。

 この寺院は広い為に厩舎が境内に作られていた。

 ムサシに案内され俺達は舎人にフムフムを預け本殿を目指した。


「本当に綺麗な所だな。それに訓練? 此処には兵も常駐しているのか?」


 日本庭園の様な風流な境内の一部では、ムサシと同じ系統の服装を着た男達が薙刀や弓を構え訓練をしている。

 中で働く者達の服装も今まで見てきた寺院よりも数段良い物に思える。


「このラフテルは数多く存在する寺院の中で、三大寺院の一つに数えられています。

 有事の事を考えてそれなりの備えはいつもしています」


 ムサシの説明を受けながら広大な敷地内を進んで行き、およそ十五分程度歩くと本殿にたどり着いた。

 本殿が寺院の中心と考えれば本当に広い場所だ。

 その間にすれ違う者達の全てがムサシを見て深々と頭を下げていた。


(もしかして俺はもっとこいつを敬うべきなのだろうか?)


 本殿の入り口には数名の者達が俺等を出迎えるために待っていた。

 その中心に立つ男は他よりも豪華な服を着ている。

 俺が男の表情を確認出来る程近づいた時、隣を歩くリディアが駆け足で男性に抱きついた。


「おじ様、おじ様~」


「リディア…… よく無事で、タックス寺院で起こった事は知っている。辛かっただろう。今日までよく頑張った」


「お母様が魔物に…… お父様も居なくて……」


「あぁ、二人ともリディアを助けるために頑張ったんだ」


 わんわんと泣きながら、その男性にしがみつくリディアを見ながら、俺はこれでリディアとの旅が終わった事を理解した。


 先ほど感じた寂しさが痛みに変わり、胸の奥でチクチクと響きだした。




★   ★   ★




「クラウス様、話は伺いました。私は神官のドロアといいます。この度はリディアを助けて頂き本当に感謝します。お礼は後ほどさせて頂きますが食事を用意しています。まずは旅の疲れを癒やして下さい」


 この寺院のトップは神官と言うようだ。

 他は神主だがやはり三大寺院の一つと言われるだけ何か違いがあるのだろう。

 通された部屋でそう告げられた俺は、付き添いの女性に案内された部屋に入りベッドに腰を下ろした。


「ふぅ静かだな…… いつもなら隣にはリディアが居たのに……」


(何か……寂しいな)


 正直な気持ちが心を抉る様に痛かった。

 けれど今後はリディアも安心した生活を遅れる筈だ。

 後は俺が去れば良いだけだ。

 しばらくして食事の用意が出来たと知らせが入る。

 案内された部屋には神官やムサシ、関係者と思われる人物が大勢集まっていた。

 テーブルの上には豪華な食事が並べられている。

 今まで街で食べたどんな料理よりも美味しそうだった。


 ラフテルではこんなに良い物が食べれるのか?


(良かったなリディア……)


 その食事を見て自然とそう思える。


「いつもはもっと質素ですが、今日はリディアが帰って来た記念する日です。皆大いに祝いましょう」


 リディアを抱きしめた男がそう宣言し、祝宴が開催された。

 神官の隣に座るリディアは綺麗な服を着ており、見違えるように可愛くなっている。


 誰もが騒ぎ笑顔で喜びを分かち合っていた。

 誰もがリディアが戻った事が本当に嬉しいのだろう。

 人気に当てられた俺は風に当たりたくなり、一人誰にも気づかれない様に部屋から出ていく。

 そして境内を散歩しながら見て回っていた。

 時刻は夜だが夜空には月が輝いている。

 通路沿いに設置されている魔法石の光が境内の中を優しく照らす。

 俺が当ても無く彷徨っていると突然声を掛けられた。


「クラウス様、こんな所にいましたか! 探しましたよ」


「あぁ、ムサシか…… 少し風に当たりたくなってな」


「そうでしたか、神官様もクラウス様の姿が消えて心配しておりました」


「それは迷惑を掛けたな。それにしても皆嬉しそうにしているな。とても良い祝宴だよ」


「それはもう、リディア様が見つかったのです。誰もが心から喜んでいます」


「これで俺の仕事も終わりだ。ムサシ…… 後はリディアの事を頼めるか?」


 俺が問いかけると、ムサシは俺の正面で片膝を付け頭を下げる。


「命に代えても守りぬく事を誓います」


「そっか。お前がそう言うなら安心だ。今日はもう休むと神官殿には伝えてくれ」


 俺は少しだけ笑みを浮かべた後、ムサシの肩に手を置き、自分の部屋へと戻っていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ