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第32話 フラルジークに向けて

 フムフムを購入してから一週間後、俺とリディアは街の入り口でフムフムに乗り込み、数人の冒険者に見送られていた。

 後で聞いた話しではフムフムの種族はザイと呼ばれているみたいだ。

 その体格は二メートルを超えており、大きな体と硬い皮膚が特徴だ。

 草食動物で従順な性格をしているが速度が遅いのが難点であった。



 次の目的地は東の大都市フラルジークの街。

 アーデルにある寺院で得た情報によると、ラフテルは東に在るとの事だったので、そこに拠点を構えて、ラフテルの情報を探そうと考えている。

 アーデルからフラルジークまでは徒歩なら約二ヶ月位はかかるらしい。

 ユニコーンの姿をした移動獣ならば十五日程度、そして今回購入したサイに似た移動獣の場合は徒歩と同じ二ヶ月位は掛かるとの事である。

 だけどザイは大型で力が強く、大量の荷物を運ぶのに適している。

 更にもし移動中に魔物に襲われた場合、その場にただ座らせておくだけで、自身が持つ硬い皮膚が魔物からの攻撃を守ってくれるので、殺される可能性は少ないのが良い。

 俺達としては、その間に襲ってきた魔物を倒せばいい訳だ。


 蜘蛛のダンジョンで得た報酬は金貨三十枚、フムフムの購入費用で金貨十枚、食料やポーションなどの薬や衣服などで金貨四枚を使った。残り金貨十六枚が俺達の軍資金となる。


 フムフムの背中には木で製作された長椅子が取り付けられていた。

 その椅子に俺が座り手綱を手に取るとフムフムはゆっくりと立ち上がった。

 俺は購入してからずっと、移動獣を操縦する訓練を続けていた。

 既に操作方法は完全に習得済みである。

 そして見送りに来てくれている冒険者達に俺達は声を掛けた。


「じゃあ、みんな行ってきます」


「アンタの事は忘れないよ! 命を助けて貰った恩は必ず返すから。アーデルに戻って来た時は、一番に声を掛けておくれ」

 

シルビアとその仲間の冒険者達は、先頭で俺達を見送ってくれた。

 リディアはシルビアに向かって大きく手を振り続ける。

 

「シルビア姉様、また帰ってくるから!!」


「あぁ、私も待っているよ」


 リディアとシルビアは互いの姿が見えなくなるまで手を振り続けていた。

 フムフムの移動速度は速くはないが、時間の経過と共にアーデルの街が少しづつ小さくなって行く。

 これから幾つもの村や街を越えながら、俺達は東の大都市フラルジークへ向かう。




★   ★   ★




 温かい日差しと少し冷たい風が交差し皮膚がこそばゆく感じる。

 ポカポカと照りつける太陽は俺とリディアの旅を応援してくれている様にも感じた。

 

 現在、俺達の旅は概ね順調だといえるだろう。

 魔物との遭遇は何度も在るが、この辺りの街道で出会う魔物の適正は20を超えた位で、正直に言えば俺達の敵ではなかった。

 リディアも蜘蛛ダンジョン攻略後にレベル23になっていた。

 一気にレベルを3つ上げられた事は少々悔しいが、リディアが悪い訳でもない。

 俺はいつもの事だと、すぐに諦めてマイペースで頑張ると気持を切り替えた。


 フムフムで移動中は俺が手綱を握り、リディアが現れる敵を倒していた。

 狩りの時と同様に、魔物が出てくる前からリディアが何も無い空間に向かって矢を放っている。

 魔物も出て来た瞬間に倒されてしまうので、多少は同情もするが襲う相手が悪かったとしか言いようがない。


 一日目は街道の脇で野宿をする事となった。

 フムフムを地面に座らせ、背中から大きなシートを貼り地面に固定するだけで、簡易のテントがすぐに出来上がる。

 

 テントが出来上がると次に食事の用意を始める。

 リディアがフムフムの荷物箱から食材を降ろして、俺の元に駆け寄ってきた。


「今日の……ご飯は私が作る」


「へぇ~ リディアがご飯を作ってくれるのか? それなら一緒に作ろうか?」


「ううん…… 違う。一人で作るから、おじ様はゆっくり休んで……」


 どうやらリディア一人で食事を作りたいみたいだ。

 この世界には義務教育など存在しない。

 子供と言えども、小さい頃から親の仕事や家事の手伝いをするのが普通だった。

 だからリディアが食事を作れる事も不思議では無い。


 リディアの優しさを無碍にも出来ず。

 今回の食事はリディアに任せる事にしてみる。


「それなら、リディアにお願いするよ。俺は魔物の警戒をしているから出来たら呼んでくれ」


「……ん。解った任せて」


 俺はフムフムの背中の上に座り周囲の警戒を開始する。

 やはり高い所からの方が視界も良く、遠くまで見渡せていた。

 又、周囲に障害物の少ない地形で、魔物が隠れる場所も少ないので警戒も楽である。


「魔物の姿は無し! 流石の魔物達もこの地形じゃ襲い辛いだろう」


 心に余裕が出来た為、俺は視線をリディアの方へ向けてみる。

 するとリディアは一生懸命、料理を作っている。

 思い通りに行っていないのか? 何度も味見をしては調味料を足していた。

 その後やっと思い通りの味に成ったのだろう、尻尾がピンと立つ姿に思わず笑みがこぼれてしまう。

 リディアの味覚は悪くない。

 きっと料理の方は大丈夫だろう。


 そう判断した俺はリディアの母に頼まれたラフテルに付いて考える。


「ラフテルか…… 一体何処に在るのだろうな?」


 何処に在るのか解らない最終目的地をつい口ずさむ。


 だが今の目的地はフラルジークの街。

 情報も少ないラフテルの事を考えるのはまだ早い。


 その時リディアが食事が出来たと声を掛けてくる。

 俺は片手を上げて了解したと合図を送り、フムフムから飛び降りた。

 俺達の食事の前にリディアはフムフムの所へ、お皿いっぱいに草を載せて持っていく。


「……フムフム、食事だよ」


 地面に頭を下ろし半分眠っている様に見えるフムフムの頭を撫でながら、リディアはそう声を掛けた。

 リディアの声に気付き、顔を上げたフムフムが草を食べ始める。

 それを確認したリディはスタスタと俺の元に戻り、俺達の料理を即席のテーブルの上に並べた。

 テーブルの上には温かいスープと干し肉の炒め物、そしてパンが置かれていた。

 美味しそうな匂いが鼻をくすぐり、お腹が急激に減ってくる。


「……おじ様。食べてみて」


 自分からは箸を付けずに俺が先に食べるのを待っている。

 それならばと先ずはスープを飲んでみた。

 持ってきた香辛料をバランスよく使ったスープで、後味を引く美味しさだ。

 俺もここまで上手だとは思っていなかったので、驚きを隠せない。

 次に干し肉の炒め物を食べてみた。

 干し肉には最初から濃い目の味が付いている為、合わせる食材に気をつけたようだ。

 丁度良い味の濃さになっており、この料理もおいしく食べる事が出来た。


「うん、美味しいよ!」


 俺の満足気な表情と言葉でホッと胸を撫で下ろすリディアは、自分の気持ちを初めて吐露してくる。


「……おじ様は私の為に頑張ってくれているのに、私は何も返せていないの。ラフテルが何処に在るのか解らないのに…… おじ様は旅の途中で私を偶然助けてくれただけなのに、どうしてそこまでしてくれるの?」


 リディアの瞳には涙が浮かんでいた。

 リディアの涙ながらの問に答える為に俺は一度箸を置く。


 一人ぼっちの辛さを一番よく知っている俺が、身寄りのない少女を放り出す事なんて出来なかった。

 他に理由などは無い。ただ偶然助けたから、頼まれた成り行き…… 同情…… 無理やり理由を付けるならそんな所だ。 

 だがそれをそのまま言っただけじゃ、リディアも納得しない。

 俺はそんな気がしていた。


 思春期をたった一人で過ごしてきたので社交性が全く発達していない俺は、この後とんでもない間違いを起こしてしまう。

 自分的には良い回答だと思っていたが、後で考えるとバカな言葉だ。


「えっと、リディアが可愛いからだな!」


 俺の言葉を受けてリディアの尻尾が猛烈に反応し直立不動になる。


「おじ様って…… やっぱり……子供好きなの?」


「えっ?」


「子供が好きな。大人の人もいるって昔聞いた事があるの、おじ様はやさしくて強い人だけど……」


 俺は何故そんな事をリディアが言うのか? 

 その意味が分からず目がテンとなる。

 俺的にはリディアは真面目で素直な子だから、そんな子供を放っていけない。

 そんな感じで言おうと思っていたのだが、猛烈に略して可愛いからと言ってしまっていた事に気づく。


 その後ジト目で俺を見つめるリディアに俺は必死で弁解を続ける事になる。

 誤解が解けたリディアは笑顔でこう告げた。


「おじ様に返せる物は私には何もない、だから今後の食事は私が作るの」


 誤解が解けた事に安堵した俺はリディアがそれを望むならばと…… それを了承する。

 俺達の旅はまだ始まったばかりだが、リディアとなら上手くやっていけるだろう。

 仲間がいる旅も悪くない。

 俺はそう思えた。

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