第3話 ステータス
ゴブリンの襲撃から無事生還して、数日が経過している。
その間、俺はずっと考えていた。
ゴブリンから逃げる為に崖から飛び降りた時に聞こえた音。
これはどう考えてもレベルが上った事が原因だと思うが、レベルが上がった事をハッキリと確証させたい。
もし間違っていれば、ぬか喜びで終わってしまうからだ。
しかし俺にはレベルについての知識が乏しい。
夜になれば仕事から父さんが帰ってくるから、レベルについて教えて貰おう。
★ ★ ★
「父さん……お帰りなさい」
「ただいまクラウス。ドアの前にいたって事は、もしかして父さんが帰ってくるのを待っていてくれたのかい? ありがとう。父さんも嬉しいよ。」
頭を撫でながら父さんは、そう声をかけてきた。
父さんは昔冒険者をしていたと聞いている。
護衛でこの村にやって来た時に母と出会い、そして二人は恋に落ちた。
二人で結婚を決意した後、危険な冒険者家業を辞めてこの村の住人になったと以前話してくれた。
「父さん……ステータスってどうやれば見えるの?」
「ん? ステータスが気になるのか? クラウスはやはり父さんの子供だな。将来は冒険者にでもなりたいのかな?」
ニコニコしながらそう言う父さんであったが、ニコニコしているだけでは話が前に進まない。
「父さん、早く教えてよ」
椅子に座る父さんの膝を両手で揺すり急かしてみる。
父さんも頭を撫でるのをやめると教えてくれた。
「ステータスを見る事自体は簡単だ。誰だってステータスを持っているからね。見る方法は一流の冒険者、村の村人、全員同じさ。ただ心の中でステータスを見たいと願えばいい。口に出しても考えるだけでもいいんだ。言い方も人それぞれだから気にする必要もない。そうすれば自分の目の前にステータスが書かれた文字が見える筈だよ。クラウスもやってみなさい」
話を聞くと簡単な事だった。
言い方も人それぞれで良いならステータスと叫んでみる。
俺は心の中でステータスと叫んだ。
すると目の前に絵本程度の大きさをした、ガラス板が現れる。
そのガラス板には様々な情報が書き込まれていた。
「父さん、何か出た」
「おお、見えたか!? 良くやった偉いぞ。自分のステータスは他人には見えないんだよ。クラウスにはまだ解らないかもしれないが、ステータスには自分の名前やレベル・職業、自分の能力値、そして手に入れたスキルが表示されている筈だ」
その説明を受けてステータス画面に再び視線を向けた。
毎日、必死で勉強を続けていた俺は、ステータス画面に書かれている文字も理解し、その内容を全て理解する事が出来ていた。
★ ★ ★
クラウス・ブラウン
レベル-2 必要魔物討伐数 9,810匹 累計魔物討伐数10,000匹
職業 無職
能力
力 13
素早さ 15
魔力 16
アクティブスキル
パッシブスキル
【逆転】取得難度:10 取得条件:不運
効果:取得者の成長が逆転する。
【武具の心得】取得難度:8 取得条件:レベル99
効果:職業に関係なく全ての武器、防具をマスターレベルと同等に扱う事が出来る。
【魔力の真理】取得難度:8 取得条件:レベル99
効果:全てのスキル及び魔法使用時の必要魔力量を99%減少させる
【魔物を狩る中級者】取得難度:2 取得条件:累計魔物討伐数 10,000匹
効果:戦闘時に能力値が1.2倍となる
魔法
【女神召喚】取得難度:9 取得条件:レベル100
効果:創造主を召喚する事が出来る最上位階魔法
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(これが俺の能力…… んんん!?????? レベルは2…… だよな? なんかマイナスが付いているんだけど…… これってどういう事なんだ? しかも知らなかったけどスキルや魔法も覚えていたとは…… スキルは【逆転】に【武具の心得】、【魔力の真理】…… 俺は幾つスキルを持っているんだよ。それに最上位魔法っておい!? レベル2で最上位魔法って覚えれるものなのか? 駄目だ、知識が足りな過ぎて理解が追いつかない、ここは一旦落ち着こう)
自分のステータスを見ていると、理解不能なスキルの数々に、頭がおかしくなりそうだったので、一度大きく深呼吸をする。
俺は何度か深呼吸をしていると落ち着いてきた。
その後、再びステータス画面に視線を移す。
(う~ん、何処まで父さんに聞くべきか? たぶん、見たままの事を普通に話しても、きっと信じて貰えないだろうしな。それなら逆に父さんのステータスを聞いて、俺のステータスと比べて見るのはどうだ? スキルはさて置き、レベルと能力値から大体の平均能力値が見えて来るかもしれない)
「ねぇ、父さんの能力ってどの位なの?」
「父さんのステータス能力かい? 普通は他人に能力を教えたら駄目なんだが、クラウスは特別だから教えてあげるよ。けれど絶対に内緒にしておいてくれよ」
「わかった。誰にも言わない」
「じゃあチョット待ってくれ。えっと…… レベルは28。力28、素早さが25って所だな! 父さんは昔、冒険者をやっていたからな、たぶん村では一番強いはずだよ。母さんとクラウスの二人位なら父さんが守ってやれるから大丈夫だ。もちろん有名な冒険者は父さんの何倍も強いけどな」
「村で一番なの? 流石父さんは凄いね! レベルは28なんだ。所でレベル28って数字の前にマイナスとかついていないよね?」
「マイナスだって? 普通そんなもの付いていない筈なんだが? あっそうか!? クラウスはまだちゃんと文字が読めないんだな。それじゃ少し教えてやろう」
父さんは紙を用意し、自分のステータスを丸写しにした後、項目ごとの説明をしてくれた。
俺は文字も読めるし計算も出来るけど、ここは黙っておく。
父さんのレベル表示はレベル28と書かれており、やはりマイナス表示はなかった。
能力値は俺の倍はあるが、俺とのレベルの差が大きいので、俺の能力値は高い方だと予想をたてる。
「父さんありがとう。よく分かったよ。魔法とかは使えないの?」
「魔法かぁ、お父さんは剣士だったからな。申し訳無いけど魔法は使えないんだよ。少ないけど、アクティブスキルの剣技なら持っているから、今度見せてあげるよ」
「本当!? やった絶対に見せてよね。えっと父さん、話しは変わるんだけど魔法って階位ってあるのかな?」
「おっよく知っているな。父さんは剣士だから魔法の事は詳しくは説明出来ないが、魔法には階位があってな、階位が高くなるに連れて、取得難易度や威力が変わるんだ。最も弱いのは第一階位だ。有名な魔法師とかなら第四階位の高位魔法を使えるらしいぞ。父さんはそんな大魔法見たことも無いけどな」
「へぇ~ 第四階位魔法……」
(俺、既に最上位階魔法覚えてるんだけど? やばい気がするから今は黙っていよう)
これ以上、色々と聞く訳にも行かないと考え、俺は一度部屋に戻りベットに飛び込んだ。
「色々聞けたけど、後は小出しに質問しながら自分で検証していくしかないだろう。でもどう考えても俺のステータスって色々とおかしいよな? レベル-2ってなによ? レベル2で父さんの能力値の半分って言うのも変だ。それに有名な人でさえ会得していない最上位魔法とか…… 一体どうなっているんだ?」
それとは別に気になる事が一つある。
それはレベルが上がった時に少し若返った気がした事だ。
それを確かめる為に鏡をみて見ると、目シワが減っている事に気付いた。
まだ確証は無いが次のレベルが上がった時に、再度確認するつもりである。
興奮し過ぎて、いくら目を瞑って見ても寝付けなかったので、俺は寝るのを諦め、再びステータスを開いてみた。
「う~ん。見れば見る程ツッコミ所が多い…… それにしても俺はどうやってレベルを上げたんだろ?」
俺は今まで魔物など倒した事は一度もない。
生まれてからずっとこのアイール村で生活を続けてきた。
「いや…… 一匹だけ倒したのか? あの銀色の魔物を倒しただけで、俺のレベルが上がったという事か!? そんな事ってあり得るのか? だけど俺はこの村の事以外は何も知らない。レベルアップの方法や魔物の事、もっと父さんから情報を得る方がいい」
短時間で多くの事を考えてしまい、考えが纏まらず無意識に両手で頭をクシャクシャにかいていた。
「もう少し父さんから情報を得るのは勿論だけど、俺がゴブリンを一度倒して、レベルを上げていけるのかと言う事も調べておかないと駄目だ。もう俺には助けてくれる人はいない。なら自分の力で戦うしか生きる道は無いんだから」
俺はベッドから身体を起こし、机の上に置いていた魔物のドロップアイテムである銀の布を見つめる。
そしてベッドから降りて、部屋の壁に取り付けら得ている窓を開いた。
今日は雲一つ無く、今は星々が美しく輝きを放っている。
「ゴブリンに襲われて、崖から落ちている途中。偶然に銀色の魔物とぶつかって命が助かった上にレベルまで上がった。こんな幸運はきっと神様が力を貸してくれたに違いない。一度失った命だと思えば、ゴブリンの一匹や二匹倒す事だって出来る筈だ。俺は強くならなくちゃ駄目なんだ。今まで必死に苛めに耐えてきたし、勉強も続けてきた。信頼していた勇者のマリアに裏切られた事は確かに辛いが、その程度で挫折して全てを諦めたら、俺は後できっと後悔する。少しでも俺に可能性があるのなら俺は挑戦し続けたい」
俺は神様が住んでいると言われている星空に向かって頭を下げる。
その時、一つの流れ星が流れた。
流れ星に気付いた俺は、もう一度心の中で感謝の言葉を述べた。
(気にはなっていたが、もしレベルを上げる事で俺が若返えるのなら、俺はどんなに大変であろうともレベルを上げ続けてやる。大丈夫だ。辛かった今までの日々に比べればどんな事だって耐えられる)
しかし後日、俺はレベルアップに必要な魔物の討伐数を知り驚愕する事となる。