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第29話 ダンジョンマスター

 ジャイアントスパイダーは鋭い爪が付いた手足で襲いかかって来る。

 俺はその攻撃をギリギリのタイミングで避けながら、手に持つ剣を振り抜くと蜘蛛の手足は切断されバサッと地面に落ちる。


 別のジャイアントスパイダーは離れた場所から、俺の背中に向かって白い糸を吐き掛けてくるのを転がりながら避け、そのまま別の方向から覆いかぶさろうとしてくる蜘蛛の腹には剣を突き刺す。

 絶えず周囲を把握し、絶えず動き続ける。

 この動きは俺がゴブリンと戦い続けた結果会得した戦法。

 最小の動きで最大の効果を発揮する為に、時には敵の力も利用する。

 この戦い方が出来るのも俺のスキル【集団戦闘】があるからだった。


 そんな激闘の最中で俺を援護する青の破魔矢がジャイアントスパイダーを襲う。

 レベルの低いリディアの弓攻撃では、適正レベル30越えのジャイアントスパイダーは倒れてはくれないが、魔物の動きを阻害し攻撃の動きを大きく鈍らせる事には成功している。

 俺が意識をリディアの方へ向けると、リディアは必死に弓を構え矢を放ち続けている。

 リディアの装備、青の破魔矢は神の加護を受けていた。

 リディアの説明によれば、弓とセットで渡された矢筒に細長い木を入れれば加護の力によって破魔矢へと生まれ変わるとの事で、リディアは料理で使う木串を大量にストックして、いつも持ち歩いていた。

 なので一日中、矢を放ったとしてもリディアの矢が尽きる心配はないだろう。


 更に今は俺のヘイトスキルがこの部屋全体に効いているので、リディアが襲われる事はない。

 射撃と言う強力な援護を受けた俺は、更に殲滅の速度を上げて行く。


 俺に群がってくるジャイアントスパイダーが大量に細切れにされて行く中、それに怯むこと無く、生き残っているジャイアントスパイダーも果敢に襲い続ける。

 一瞬の間が出来れば、腰のポーチからポーションを取り出し瞬時に飲み干す。

 フルフェイスの仮面は俺が意識を向ければ口の部分だけ開口する便利な機能がついていた。

 ポーションを飲む事を忘れると、気づいた時には身体が悲鳴を上げ、突然動きが鈍ったりする。

 そうなってしまえば、俺は一瞬で殺されてしまうだろう。

 休む事が出来ない、そんな地獄の様な状況が長い時間続く。

 だがそんな地獄も時間の経過と共に、少しづつ変化してくるのが見て取れた。


「ジャイアントスパイダーの数が減っているぞ! 俺にはまだ余力が残っている、これなら行けるか!?」


 俺がそう考えた瞬間、希望を絶望へと変わる事態が起こる。


「ん? なんだ壁が盛り上がってきた…… おい、まさか新しいジャイアントスパイダーが産まれるのかよ!?」


「ギァーーーッ!!」


 壁からボトボトと生まれ落ちたジャイアントスパイダーは、高らかに産声を上げた。

 産まれた数は二十匹を越えており、一瞬にして振り出しに戻された感じだ。

 また今産まれたジャイアントスパイダーには【変身】のスキル効果は掛かっていない。

 リディアを守る為に、俺は再び雄叫びをあげる。


「最後まで付き合ってやる。変身!!」


 ヘイトスキルの上書きである。

 スキルを受けて先ほど産まれたジャイアントスパイダーも俺に襲い掛かって来た。


「弱音を吐いている暇はなさそうだ!! リディアに無様な所は見せられないからな。最後まで足掻いてやる」


 俺は愚痴をこぼしながらも剣を振り続けていた。

 この戦闘が永遠に続くとしても俺は倒れるまで戦う。

 その意思だけは貫こうと心に誓った。


 その後も【変身】の上書きを行いジャイアントスパイダーを倒して行く、既に広場には数え切れない程の素材が散乱している。

 ジャイアントスパイダーをどの位倒しただろうか? 百匹? いやもっと多い…… 二百匹を越えているかもしれない。

 そう思いながら戦っていると俺の頭の中にレベルアップの音が鳴り響く。


(レベルが上がった? だけど何だが音がいつもと違う気もするが……? まぁいい、体が軽くなったぞ一気にケリをつけてやる)


 俺はエンジンをフル回転させると、今まで以上の速度で魔物を葬り去る。

 その結果、再びジャイアントスパイダーの数が減って行き、遂にダンジョンマスター以外の魔物を殲滅する事に成功する。


「ふぅ…… 残りはお前だけだ。覚悟はいいか?」


 

 ダンジョンマスターの姿は先ほどまで戦っていたジャイアントスパイダーを巨大にした感じで、三メートルを超す巨体を持っている。

 無数の黒い毛で黒光りしている皮膚と、鋭く尖った八本の手足。

 一本一本が巨大な杭の様に地面に突き刺さっている。


 ダンジョンマスターはジッと俺とジャイアントスパイダーの戦いを観察していたようだ。

 俺はその事を恐ろしく感じていた。

 だけど、ここで引く訳には行かない。

 

 俺とダンジョンマスターの決戦は開始された。

 ダンジョンマスターを見据え、フッと息を短く吐くと思いっきり地面を蹴り付ける。

 その反動で一瞬にしてトップスピードを得ると三メートルを越す体格を持つダンジョンマスターの首元に全力で剣を叩き付けた。

 だがハリネズミの様な針に邪魔され、剣が弾き飛ばされる。

 それならばと今度は足の関接部分を狙って攻撃を仕掛けた。

 その攻撃を、ダンジョンマスターはギュッと身をかがめて関節を隠して防ぐ。


「ギャァァーーー! ギュゥゥー!」


 俺の攻撃に怒りを露わにしたダンジョンマスターは、八本ある足の前四本を空中高くまで持ち上げ、俺を串刺しにしようと雨の様に叩き付けて来た。

 その攻撃は今まで体験した事が無いほど速かった。

 何とかギリギリで避けるが、ギリギリに避けた攻撃の衝撃で俺は体ごと吹っ飛ばされてしまう。

 

 地面を転がりながら、俺はポーションを手にして一気に飲み干した。


「流石はダンジョンマスター、手強い!」


 関節が駄目ならばとヒットアンドウェイ戦法を試し、同じ場所を何度も斬りつけては引いてみる。

 だが効果は薄くダメージは無さそうだ。

 今度は魔物の真下にスライディングで滑り込み、腹へ剣を突き刺してみた。

 だが予想とは裏腹に腹側にも針の鎧で守られており、俺の刺突は失敗に終わる。


(しまったヤバイ!!)


 ダンジョンマスターは、自身の真下に滑り込んだ俺を押し潰す為に地面へと体を落とした。

 それをギリギリで掻い潜ると一旦距離を取る。


「困ったな。どこを攻めても攻撃が届かない。それじゃどうすれば良い? どの攻撃が通用する? 考えろ、思考を止めたら俺がやられる! 目か? 口か?」


 考えても埒が明かないと、目と口と言う弱点がある顔に向かって飛び上がる。

 けれど、空中戦は分が悪く飛び上がった所を二本の前足で叩き落とされた。


「ぐわぁぁっ」


 俺は地面に強く叩きつけられて、口から大量の血を吐いた。

 肺が圧迫され、身体が思うように動かない。

 ダンジョンマスターはチャンスと感じたのだろう。

 一瞬にして間合いを詰めると、止めを刺す為に数本の腕を空中に持ち上げる。


「おじ様!!! 危ない!!」


 その瞬間、リディアが大きな声を出し、すかさず数本の矢をダンジョンマスターの顔に放つ。

 矢はダンジョンマスターの顔に命中するが、突き刺さる事は無く、そのまま弾かれていた。


 けれど攻撃は一瞬止まり、俺はその瞬間に最後のポーションを飲み干すと、回転しながら距離をとった。


「今のはヤバかった!! リディアの援護がなけりゃ、どうなっていたか? くそ。この化け物とどうやって戦えば?」


 俺はその時ある違和感を思い出す。

 それはレベルアップの音が頭の中で鳴り響いた瞬間、別の音も聞こえた気がした事だ。

 すぐさまステータス画面を開き真意を確かめる。


(レベルだけじゃなかった。職業レベルも一緒に上がっていたのか!? しかも新しいスキルを覚えているぞ! 試してみるか!)


「行くぞフォトンソード!!」


 スキルを発動させると、俺の剣が細かな振動を伴い光り出した。

 剣からは物凄い熱量を感じる。

 どうやら新しいスキルは俺が持つ武器の攻撃力を上げる付与の力があるようだ。



(剣を強化するスキル? これなら攻撃が通るか?)


 全力でダンジョンマスターに向って駆け出すと、迫り来る無数の足に対して、光る剣を叩き付けた。


「ギィィェェェー!!!」


 俺の攻撃を受けたダンジョンマスターの足は溶ける様に切断される。

 好機と判断した俺はそのまま高く飛び上がり、魔物の頭上から光剣で斬りつける。

 俺の攻撃を受けダンジョンマスターの頭が二つに切り裂かれ、そのままズドンと地面に倒れ込んだ。


 しばらく俺が見ていると、ダンジョンマスターの体が少しづつ風化し始める。


 それは俺が勝利した事を意味する。


「何とか勝ったが今回はやばかった。職業レベルが上がって、光る剣のスキルを覚えていなかったら勝てたかどうか?」


 俺は尻餅をつき一旦休憩をとる。

 戦闘の熾烈さで体力の消費が激しく物凄い疲労感が体を襲って来ていた。

 だがダンジョンマスターを倒したのだ。

 このダンジョンで魔物が産まれる事は二度と無い。

 座り込んで肩で息をしていると俺の背後から暖かい手が包み込んできた。

 

 振り返らなくても、誰の手かは解る。


「リディアか? 大丈夫だったか?」


「……ん。大丈夫。でもおじ様が負けるんじゃないかと思って心配だった……」


「おいおい、俺の事は信じてくれなかったのか? それとも予知で俺が負ける所でも見えていたのか?」


「ううん…… 予知はしていない。だって私…… 信じてたから」


「そうか……」


 リディアの温もりを感じながら俺はそっと目を閉じた。

 張り詰めた緊張が途切れた瞬間である。

 全身に感じる疲労は達成感から心地よく感じる。

 レベルが上がった事、職業レベルが上がった事、新しいスキルを覚えた事、嬉しい事は多くあるが、一番嬉しいと思う事はリディアの期待に応える事が出来た事であった。


「さぁ早く、シルビアさん達を助けてあげよう」


「うん!!」


 俺はそう告げると、重い体に鞭を打って再び立ち上がった。

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