第28話 ダンジョン攻略
飛び込んだダンジョンの中は広く、通路幅も目測だが五メートルは軽く超えているだろう。
その広く真っ直ぐな通路が奥へと続き、壁から発光しているの光鉱石のおかげで視界は良好。
「取り敢えず、進めるだけ奥に進むぞ。時間は限られている。少しでも速く、最深部のボスの部屋にたどり着かないと!」
しかし俺が走り出した途端に魔物と遭遇する事となる。
「あれは本に載っていた…… ジャイアントスパイダー!? 父さんから貰った本によれば、確か適正レベル35クラスの魔物じゃないか! それに魔物が現れるのも早い。このダンジョンはジャイアントスパイダーの巣って訳か! シルビア達、よくこんな危険なダンジョンに入ったよな」
前方には人間と同じ位の体格を持つ、巨大な蜘蛛がダンジョンの側壁に張り付き蠢いていた。
口には白い牙が何本も見え、あの口で噛まれれば一瞬でミンチにされるだろう。
六本の腕には鉤状の爪が何本も付いており、その爪を壁に引っ掛けながら重力を無視した動きをしている。
「おいおい。壁を動くって…… 中々戦い辛そうだ」
やり辛いと弱音を吐き、手をこまねいていては幾ら時間が経過しても奥には到達しない。
覚悟を決めると、俺はジャイアントスパイダーに全速力で近づいていく。
先手必勝、相手に攻撃される前に一撃を入れる作戦だ。
ジャイアントスパイダーは俺が四メートル位の距離まで近づいた瞬間、口から白く粘り気のある糸をはきだしてきた。
蜘蛛特有の攻撃を予め予想していた俺は、その糸を掻い潜るとまずは腕の付け根部分に向けて、剣を振り抜いてみる。
ズドン!!
俺に引き裂かれた腕は、身体との接触部分から綺麗に落ち、斬られた場所からは緑色の体液が流れ出していた。
シャーッ!!
声にならない雄叫びをあげ、目の前にいるジャイアントスパイダーは俺の頭部に向けて噛み付いてくる。
今度は真正面から相手取り、下段からすくい上げる様に頭を切り落とした。
「おし、この程度だったら何とかなるな。急がないと」
俺は動かなくなったジャイアントスパイダーに背を向け、最深部に向けて加速していく。。
奥に進んでいくと一本道であった通路が分岐を始める。
間違った方を進むと行き止まりのその先にも新たな分岐が現れる。
この巨大な迷宮の中を進みながらも、俺は出会うジャイアントスパイダーを最短時間で倒しながら、休まず走り続けた。
「クソっ!! このダンジョンはゴブリンダンジョンより複雑で広い…… これは大変だぞ」
しかし、幾ら進んでも最深部には辿り着かない。
俺は自分の体力と相談しながら、焦る気持ちを抑え込み時には休憩を取る。
無理をして最深部に辿り着いたとしても、俺が動けなければ意味はない。
「クソッ!! また出てきやがった。一体どれだけ沸いてくるつもりなんだよ」
しかし少しの休憩だけしか取れずに、俺は重い腰を再び上げて剣を握り直す。
魔物を倒しきった後に俺が進んできた道を見返すと、見える範囲だけでも魔物の死体が幾つも転がっていた。
体感で言えば、この場所に辿り着く迄に百匹以上は倒している筈だ。
「繁殖期程じゃ無いけど、やはりダンジョン内は外より魔物の数が多い…… このままじゃ捜索速度が全然上がらないぞ」
ダンジョンに入ってから既に一時間は経過している。
ダンジョンの最深部付近まで近づいている筈なのだが、時間の経過と共にシルビア達の命の危険度も増しているのは間違いない。
密かに俺は焦っていた。
「おいっ待てよ!? この場所はさっき通った場所だよな……? しまった迷ったのか!?」
壁に印をつけて迷わない様に進んで来たつもりであったが、印がつけてある路地に舞い戻っている。
苛立ちを隠せず俺は壁を思いっきり殴りつけた。
「クソっ! このダンジョンはどうなっていやがるんだ」
「おじ様……この場所の近くに別の通路が在るみたい……」
苛つく俺の後方から突然、リディアの声が聞こえた。
焦りすぎて周りが見えていなかった俺がハッと振り返ると、視線の先にはリディアが立っている。
「何故、リディアが此処にいる? 気絶して街に帰ってる筈じゃあ? それにどうやってこんなダンジョンの奥まで来れたんだ? 道中の魔物も今のリディアが倒せる魔物じゃなかった筈だぞ」
「おじ様が私を気絶させる事は、【先読み】のスキルで分かっていたの。だから気絶したフリをして、おじ様がダンジョンに入った後から私も入った…… こめんなさい。それに此処に来れたのもおじ様のおかげ…… おじ様が魔物を全て倒してくれていたから、私は安全な道を選んでここ迄来れたの」
「リディアっ! 危険だと言っただろ!!」
俺が大声で叱咤すると、リディアはビクンと身体を震わせて身構えた。
だが次の瞬間に強い眼差しで俺を見つめ返していた。
「危険なのは解っている。だけど私は大切な人を守りたいの。何も出来ないままで失うのはもう嫌っ!」
一方、俺の方はリディアの母親が亡くなった時の事を思い出していた。
(はぁ、リディアは自分が何も出来ないのが嫌なのだろうが…… ダンジョンの奥まで来てしまったリディアを今更帰れとも言えないし、まぁ、今回はリディアの方が俺より一枚上手だったと言うことか)
俺はリディアを連れて戻る事を諦めると、リディアと共にシルビアを救い出すしかないと考えた。
「リディア、この先は俺もお前を守れるか解らない。だから自身の安全を考えて行動してくれ。それと別の通路の事は助かったよ…… どうやら俺も焦っていたみたいだ」
そう言うと自然と笑みが浮かんでいる。
「おじ様…… ありがとう」
リディアの目には涙が溢れている。
リディアの言葉を受けて、俺は照れを隠す様に頭を掻いていた。
「それでこの辺に通路があるのか?」
「……ん。幾つかの未来の1つに私達が違う通路に入る姿が見えるの」
「そうか、それなら通路があるんだろうな。早速探してみよう」
俺は壁を隈なく視線を泳がせ、何か取っ掛かりが無いか調べていくと、大きな岩の裏側に穴が見つかる。
そして穴の前の地面には、何か重い物を引きずった様な痕跡も残っていた。
この穴が通路で間違いないだろう。
どうやらずっと走りながら移動していたので、見落としていた様である。
リディアのスキル能力は、起こりうる可能性のある未来を見せてくれると言うもの、だとしたら見えた未来は必ず実現する可能性がある未来。
なら今回の場合は違う通路は必ず存在すると言う事になる。
後はそれを見つけ出すだけだった。
「この穴で間違いないだろう…… 俺が先に入るから、リディアは後から来てくれ」
そう言うと薄暗い穴の中へ俺は突入して行く。
★ ★ ★
隠し通路は三十メートル程度続いていた。
通路を抜けると広い半球状の空間が姿を表わす。
その空間の最奥には他の場所よりも輝きを増した所があった。
空間に漂う空気は澄み切っており、魔物が産まれるダンジョンと言う概念が無ければ神秘に満ちあふれた場所に俺は感動していただろう。
だが神秘とは似てつかない物体がその空間の中心に存在していた。
ゆうに三メートルを超える巨大な身体に無数の爪が付いた八本の足。
その全身ハリネズミの様な太く鋭い針の毛で覆われた巨大な蜘蛛。
更に周囲にはジャイアントスパイダーが群れを組んで蠢いていた。
「おじ様、あれを見て! シルビア姉様達が捕まっている」
リディアが指を指した先には、蜘蛛の糸で体中を縛られて吊るされている三人の冒険者の姿があった。
まだ殺された様子は無く、保存食にするつもりなのだろうか?
「良かった。シルビア達はまだ生きているみたいだぞ。俺は突っ込むがリディアは無理をせずに後方支援に徹してくれ」
その一声だけ掛けると、俺はジャンアントスパイダーの群れに向かって突撃を開始する。
そして群れと接触する瞬間に大きくジャンプを行う。
そして一匹のジャイアントスパイダーの脳天に剣を突き刺し、大声で叫んだ。
「俺が全員相手をしてやるからかかって来い! 【変身】!!」
瞬時に現れた仮面が俺の顔を覆う。
その後、全てのジャイアントスパイダーが、俺だけに群がって襲うと言う恐ろしい状況が一瞬で出来上がる。
「こいつはヤベーな。だけど丁度いい、最近は狩りが出来てなくて全然レベルが上がる気がしなかったんだ。俺が全部食い散らかしてやる」
俺は咽が枯れるほどの大声で叫んだ。
その時の俺の顔は、きっと繁殖期のゴブリンの大群を前にした時と同じ様な笑みを浮かべているんだろう。




