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第27話 ダンジョン

 砂漠の風が解散して更に三ヶ月間が経過していた。

 リディアのレベルもようやく20に達し、普通の冒険者の場合では、この辺りからレベルが上がり辛くなってくる。

 その理由としてレベルを上げる為の魔物討伐数の増加と、適正となる魔物の強さが上がる為で、一言で言えば効率が悪くなるからだ。


 それは能力が高いリディアも同様で最近は以前の様に軽々とレベルが上がる様な事はない。


 ある日、俺とリディアはいつもと同じ様に冒険者ギルドで受けた依頼をこなしていた。

 今回は午前中に目標の素材も集まり、いつもよりかは早く帰れそうだと、俺はリディアに伝える。


「早く帰れるのなら、久し振りに外食でも行ってみるか?」


「本当!? じゃあ、以前シルビア姉様が教えてくれた店に行ってみたい」


 リディアはその場でクルリと回転し、嬉しそうな笑みを浮かべる。

 こんな仕草を見ると、普段はしっかりしているが、まだまだ子供なんだと思う。


 その時リディアが突然、後方の茂み方へ体を向けた。


「おじ様、誰かこっちに走ってくる」


 俺もリディアが指差す方角に注意を向け、襲撃者の可能性を考え剣を抜きさり待ち構える。

 すると現れたのは、全身から血を流した一人の冒険者であった。

 冒険者は俺達に気づくと、必死の形相で助けを求めてきた。


「助けてくれ! 仲間が魔物に攫われた。魔物が強くて俺一人では、どうする事も出来ないんだ!!!」


 傷だらけの冒険者の姿はボロボロで、必死に走り続けて着たのだろう。

 表情は疲れ果て、呼吸も荒い。

 必死に俺の肩を掴み、ただ一心に懇願してくる。

 俺はその冒険者に見覚えがあった。

 俺の記憶が正しければ、彼はよくリディアの周りにいる冒険者の一人だった筈だ。


「まずはポーションを飲め。飲んで落ち着いたらもう一度詳しく説明しろ!!」


 俺はウエストポーチからポーションを取り出すと冒険者飲ませる。

 一気にポーションを飲み干した冒険者は、自分達が魔物に襲われた状況を話し出す。


「俺達のパーティメンバーのレベルも上がってきて、森の中には適正の魔物が居なくなったんだ。だから今日初めて野良ダンジョンに入ろうと言う事になった。最初は順調に魔物を狩っていたんだ…… だけど奥に進むにつれ敵が強くなっていって。戻ろうと思った時には周囲を魔物に囲まれてしまってしまい…… 他の仲間は俺を逃がす為に盾になって捕まってしまった。魔物は蜘蛛の魔物で仲間を糸で縛って何処かへ連れて行こうとしていたのを見たんだ。きっとまだ仲間は生きている筈なんだ。お願いだ……助けてくれ……」


「……もしかして、攫われた人の中にシルビア姉様もいるの?」


 話を横で聞いていたリディアは焦った様子で、男の冒険者に問いかける。

 リディアはこの男性の事を知っているみたいだ。


 そして男はリディアの質問を肯定する様に縦に首をふる。


「俺はシルビア達が入っているパーティーの一人だ。シルビアを含めて三人の仲間が捕まっている……」


「おじ様、お願い! シルビア姉さま達を助けてあげて!!」


 リディアは瞳に大粒の涙を貯めながら、俺の体を何度も揺すり助けを懇願して来た。

 俺はリディアの頭に手を置き、笑みを浮かべ大きく頷く。


「悪いがその野良ダンジョンに案内してくれ。その後、アンタは冒険者ギルドに戻り、すぐに応援を呼ぶんだ!!」


「いや…… それって、まさかじいさん一人でダンジョンに潜るのか!? そりゃ無茶過ぎる」


 助けを求めて来たのだが、俺が一人で向かうと告げると、俺の身を案じて止めてくる。


「大丈夫だ。決して無理はしない。俺もこの歳だ。これでもそれなりの経験はつんでいる。魔物に気づかれない様に、お前の仲間達を救い出す位は出来るだろう。だけど絶対ではない。だから冒険者ギルドに行って、大勢の冒険者を応援に連れてきて欲しいんだ」


「……わかった。無理はしないでくれ。俺も出来る限り急いで戻る!!」


「あぁ、任せてくれ」




★   ★   ★




 この世界の魔物は全てダンジョンから産まれる。

 強い魔物はダンジョンに住み着き、弱い魔物はダンジョン内で捕食される。

 捕食を恐れダンジョンから逃げ出した魔物達は、森などに住みつき動物や人を襲う。


 ダンジョンから産まれる魔物はそのダンジョンによって変わる。

 一種類の魔物だけを生み続けるダンジョンから、多種の魔物を生むダンジョンとその形態は様々だ。

 ダンジョンには国がランクをつけているとの事で、危険度によってランクが違うらしい。

 ランク付けされたダンジョンは国の管理下に置かれる。


 だがこの世界にダンジョンの数は多い。

 全てのダンジョンを管理する事は難しく、比較的危険度の少ないダンジョンは放置されているのが現状である。

 その放置されたダンジョンの事を、野良ダンジョンと人々は呼んでいた。


 ダンジョンの中は迷宮の様に入り組んでおり、最奥には必ずダンジョンマスターが存在している。

 そのマスターを倒す事ができればダンジョンは魔物を産まなくなるのだが、管理されていない野良ダンジョンでも数十名に及ぶレイドが結成されて攻略するのが普通だ。


 俺が産まれたアイール村の近くに在ったダンジョンは、村を旅立つ前に俺が攻略している。

 ゴブリンしか産まれないダンジョンの最奥に居たボスは、装備に身を包んだホブゴブリンと言う魔物であった。

 他のゴブリン達よりも数倍強かったのを思い出す。




★   ★   ★




 冒険者に教えられた場所は、森を抜けた奥にあり岩場が多く点在している。

 ダンジョンについてみると、その岩を重ね合わせて作った様な大きな入口がポッカリと口を開いていた。


「ここです。それでは俺は冒険者ギルドへ戻り助けを呼んで来ます」


「あぁ、それでいい。それとリディアも連れて行ってくれ。此処に居たんじゃ危険だからな」


「嫌…… おじ様、私も一緒にいく」


「駄目だ。ダンジョンの中は危険なんだ。油断していると足元をすくわれかねない。今日の所は彼と冒険者ギルドで待っているんだ」


「……絶対に付いて行くから!」


 仕方ない諦めた俺は、言う事を聞かないリディアの肩に手を置く。

 その瞬間にリディアの目が見開いた。

 どうやら先読みの巫女の力で気づいた様だが、もう遅い。

 可哀想とは思いつつも、リディアの首元に手刀を当て気絶させた。


「おじ様……」


「すまない…… リディア」


 それだけ呟きリディアは気を失った。

 これがリディアの弱点である。

 未来が見える力はチートではあるが、実力差が大きい者に対しては効果は薄い。

 今回の様に力づくで押さえられてしまうからだ。


「リディアを連れて、早くギルド会館へ」


「解りました。すみません。仲間をお願いします」


 冒険者の男はリディアを抱きかかえると、街がある方角へ向かって走って行く。

 俺は気を失っているリディアに向け【ごめんな】と言う思いで見送った後、気合を入れ直しダンジョンの方へ体を翻す。


「急いだ方がいいだろう。間に合えばいいが…… 多分、連れて行かれた冒険者達はダンジョンマスターの所だ」


 俺は躊躇する事無くダンジョンの入口に飛び込むと、全速力で最深部を目指した。

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