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第25話 スキル【変身】の検証

 草木には朝靄が掛かり、清らかな清涼感が森の中には漂っている。

 夜行性の動物は眠りに入り、昼行性の動物が目覚める前。

 俺は一人森に入り、大きく空気を吸い込んだ。

 今はまだ太陽が昇り始めた所で、周囲の気温は低い。

 喉を通り、体中に冷たい空気が入ってくる。

 その後、息を潜めて木陰に身を隠し、俺は魔物が来るのを待っていた。


「よし、来た来た! 魔物はスカイバットが二匹…… 実験には丁度いいな」


 空中を優雅に飛行しながら近づいて来るのは、コウモリを大きくしたスカイバットと呼ばれる魔物だった。


 このスカイバットのは自在に空を飛び回り、空中と言う、剣の攻撃範囲外から隙を突いて冒険者を襲う。

 基本的に剣を扱う職業を選んだ者達は、空中から襲ってくる魔物に弱い。

 

 なので、冒険者がパーティーを組む時は、一人は遠距離攻撃が出来る魔法使いや狩人を入れるのが一般的だ。

 タイミングを見計らって、俺がスカイバットの進路上に飛び出す。

 スカイバットは瞬時に急上昇を行い、俺の頭上高くへと急上昇を始めた。

 そして俺の頭上、十五メートル程の距離を取り余裕しゃくしゃくと旋回をしている。

 この状況となってしまったら、もう剣では攻撃が当たらず、持久戦を耐えながら魔物の隙を伺い、一瞬の勝機を掴み取るか、今回の戦闘は諦め退却するしかない。


「それじゃいくぞ。変身!!」


 俺はヒーローの職業を得た時に覚えた【変身】のスキルを発動する。

 すると白地に黒い線で模様が描かれている仮面が、突然空中に現れると俺の顔に覆いかぶさり素顔を隠す。


 するとスカイバットは優雅に旋回を繰り返していたのだが、その行動に変化が現れた。

 その変化を説明するなら、ずっと俺の見える場所に居ることだった。

 俺が移動すると、スカイバットも付いてきた。

 俺が木陰に身を隠してみると、

 なんと急降下を始め、森の中を探し始める。

 剣が届く程の低空飛行で木々の間をすり抜けながら、俺を捜索していた。

 相手から近づいてくれれば勝負は速い。

 俺は難なく二匹のスカイバットを切り伏せると変身のスキルを解いてみる。


「う~ん。これが敵の注意を引きつけるって事か…… 要するに範囲内にいる魔物が俺に攻撃を仕掛けて来るって事だよな? レベルを上げたい時には有効かもしれないけど、それ以外に使い道ってあるのか? 取り敢えずは、スキルの効果範囲とか、効果がどの程度持続するのか? などもう少し検証しておいた方がいいだろう」


 俺は再び森の中に身を潜ませ、数匹の魔物達に様々な条件で【変身】のスキルを試して行く。


 実験の結果、色々な事がわかった。


 一、効果範囲は約三十メートル。その範囲内で俺の事を認識している敵にのみ効果が掛かる。


 二、スキルの連続使用が可能。一度スキルを使用し、少し移動して再びスキルを使用すると、一度目の敵と二度目の両方に効果がある。


 三、スキルが掛かっている状況で【変身】のスキルを解除した場合。その場合はスキル効果が、解除される。【変身】を解かない限り、どんな衝撃を受けてもスキル効果は持続する。


 それから俺は日中はギルドで依頼を受けてリディアと二人で行動し、早朝のリディアが起きるまでの間スキル検証の為に一人で森に入る日々を続けた。




★   ★   ★




 森の中で俺の叱咤が響き渡る。


「リディア気を抜いてはダメだ。同じ魔物と戦うにしても条件はいつも違っているだろ? その条件に合った効率のいい戦い方を考えるんだ」


 最近はリディアも考えながら魔物を倒せる様になってきており、順調に実力を伸ばしていた。

 けれど毎日同じ魔物を倒しているので、リディアも少々飽きてきている様に見える。

 だが俺から見てみれば、たった数ヶ月の狩りなど全然大した事とは思えない。

 ずっとゴブリンだけを十年以上倒し続けて来た俺は、同じ敵と戦うにしてもどうすれば効率が上がり、一日に一匹でも多くのゴブリンを倒す様になれるのか? 

 その事ばかりを考えて過ごしてきた。


 今のリディアも頑張ってはいるのだが、工夫しなければ行けない所は多いと思う。


 魔物を倒せるだけで満足している内は、いずれ足元をすくわれる時が来るだろう。


 俺に怒られたリディアは両肩を落として反省している。

 俺も可愛らしいリディアを怒りたくは無いが、これもリディアの為だと自分に言い聞かせて厳しく叱咤する。


「次は…… がんばる」


 リディアは矢筒に入っている青の破魔矢を抜き取り、見つけた魔物に対して向けて放ち続けた。


 夕方、受けた依頼を完了して冒険者ギルドへ戻ると、一人の女性冒険者がリディアに近づき話しかけてきた。


「リディア。今日は遅かったね。魔物が見つからなかったのかい?」


「ううん。魔物は居たけど考えて戦っていたの……」


「考えて戦う? 何だよそれ? それより今日の依頼中にアポの果実を取って来たんだ。今が食べ頃だよ食べるかい?」


「……うん、食べる。シルビア姉様、ありがとう」


 最近、俺がカウンターで受付をしている間、リディアは据え置きの椅子に座り、手続きが終わるのを待ってくれていたのだが、そんな日々が数日続いた位からリディアの周囲に人溜まりが出来る様になっていた。

 後で知ったのだが、リディアはアーデルの冒険者ギルドのマスコットの地位を手に入れている。

 見た目も可愛く素直な性格で人気があるようだ。

 俺の知らない冒険者とも顔見知りの様で、知らない男性に突然、街で声を掛けられる事も多々発生している。

 その中でもシルビアと言う女性冒険者とリディアは仲が良いみたいだった。

 シルビアは黒髪の短髪をトレードマークにした体格の良い女性だ。

 一目見ただけで、リディアの事を本当の妹の様に可愛がってくれているがわかる。


「リディア、終わったから宿に帰ろうか」


 赤いアポの実を頬張っているリディアに俺は近づき声をかける。

 ニコニコとアポの実を頬張るリディアを見つめていたシルビアも、俺を見た瞬間に別れの時が来た事を知り、悲しそうな表情を浮かべていた。


「……ん。解った。シルビア姉様、アポの果実ありがとう。美味しかった」


「そうかい。気に入ったなら明日も取って来てあげるよ」


 シルビアは冒険者ギルドから去って行く俺達を見送る為に、わざわざ自分も外まで出てきて手を振って見送っている。


「シルビアさんだったか? あの人と仲がいいな」


 俺は話題のネタとしてリディアに問いかけた。


「うん。いつも優しくしてくれるの」


「そうか良かったな。お前もシルビアさんの事好きか?」


「うん。私、姉様の事大好きだよ。強くて、優しくて……」


 もしかするとリディアもシルビアと言う冒険者の事を、実の姉の様に慕っているのだろうか。

 シルビアの話をするリディはとても楽しそうにしていた。

 そんな事を話しながら二人並んで宿へと歩いて帰って行く。

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