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第24話 リディアの育成

 俺とリディアが冒険者生活を始めて一ヶ月が経過していた。

 依頼(クエスト)は結構受注しているので、少しづつ旅の資金は貯まってきている。

 けれど街へ旅立つには、まだまだ心もとない状況だった。

 今の貯金は金貨五枚。

 俺がアイール村からアーデルの街へ到着する迄に、倒した魔物を売った金額と同じだ。

 俺一人で狩りをしていれば、もっと多くの金が貯まっている筈だが、生憎と俺は狩りをしていなかった。

  

 実は冒険者となってから、依頼は全てリディアと二人で受けている。

 俺が付いて来るなと言っても、リディアは俺の後ろを勝手に付いてくる。

 最初は付いて来るのを止めさせる方法を考えていたが、途中で俺も考えを変えて、どうせ付いてくるなら、逆にリディアを強くしてやろうと思い直した。

 

 今は俺が身に付けて来た戦い方をリディアに教えている。


 それは幼いリディアがラフテルにたどり着くまでの間、自衛できる強さを身につけさせる為だ。

 両親を失った幼い少女が、今後も一人で生き抜く為には、やはり自分自身が強くなる事が最善の方法だろう。


 俺がその事を決意した時から、俺の役割は大きく変わった。

 ギルドでどんな依頼を受けても、リディアが魔物を倒し俺が収集や盾役などのサポート役を受け持つ。

 この辺りに出現する魔物の適正レベルはそれ程高くはなく、リディアの弓で十分倒す事が出来る。


 倒す事が出来るのなら、後は魔物の倒し方を覚えるだけだった。

 絶対的なチート能力である【先読み】の能力を有するリディアは、魔物を倒し続けドンドンとレベルを上げる。

 たった一ヶ月の間に、リディアのレベルは俺と同じレベル10となっていた。


 アーデルの周辺に出る魔物の適正はレベル20前後。

 街の周辺にあるダンジョンへ行けばもっと強い魔物が現れるのだが、リディアのレベルが20を超える迄はこの辺りで狩りを続けて行くつもりだ。




★   ★   ★




 俺とリディアが出会ってから、軽く一ヶ月を超えている。

 誰しも一緒に生活を続けて行けば、情も深くなり互いの信頼関係も築かれていく。

 当然、この一ヶ月間で俺とリディアの仲も深まっていた。

 お互いの昔話しなどを少しづつ話しながら、相手の存在を自身の中で大きく成長させて行く。

 その話の中で幼いリディアが何故弓を使えたか? その理由が判明した。

 どうやらリディアは、両親と共に何処かの寺院で暮らしていたのだが、物心がつく頃から弓や薙刀などと言った武術や文字などの習い事をしていたらしい。


 そのお陰で、狩りが出来ている。

 両親の先見の明には驚かされるばかりだ。

 それはまるでリディアが戦いに巻き込まれる事が解っていた様にも感じた。

 

 その後も俺とリディアの冒険者生活は続いていく。




★   ★   ★




「リディア、先読みの力に頼っていたら駄目だ。もし力が使えない時が在ったとしたら、咄嗟の対応が出来なくなる。俺が援護出来る今の内に、能力が無くても魔物を倒せる力を身に着けないとな!」


「うん。頑張る」


 だが先読みの力を使わないリディアにとって、魔物に矢を当てる事は難しく。

 一日に倒せる魔物の数も、休まず狩り続けたとしても二、三匹にまで落ちていた。


 効率が悪い理由としては、見つけた魔物を取り逃がしている事が大きな要因だった。

 こちらが優勢に戦っていると突然、逃げだす魔物や、元から逃げに徹する魔物も居るので、苦戦が続いている。

 

 俺がゴブリンを狩っていた時は、ゴブリン達とさえ出会えれば、ほぼ100%全てを狩り尽くす事が出来ていた。

 今思えばゴブリンの性格が凶暴で食欲の固まりだったと言うのが大きいだろう。

 弱々しい老人の獲物を見つければ、考えなしに襲って来てくれていたのかもしれない。


 当然、魔物が変われば性格も代わる。

 今、リディアが苦戦している戦闘こそが、普通の冒険者が日頃から行っている狩りなのだろう。



「大丈夫、最初は誰でもこんな物だ。気にしなくてもいい。依頼品の薬草も集まったんだから」


「でも、全然魔物を倒せなかった」


 結果を残せなかったリディアは落ち込んでいた。

 これが普通の結果なのだろう。

 魔物も矢が迫ってくれば避けもするし、逆境に陥れば逃げも選択する。

 今は魔物の癖を覚えて、瞬時に対応できる臨機応変さを磨く時だった。



★   ★   ★




 俺はリディアがレベル10になった時に、リディアのステータスを聞いた事がある。

 俺のレベルもリディアと同じレベル10で、俺とリディアの能力の差が、どの位空いているのか気になっていたからだ。


 リディアは拒む事も無く、紙に自分のステータスを書き写してくれた。


リディア・ミカサ


レベル10    必要魔物討伐数 55匹  累計魔物討伐数 495匹


職業      先読みの巫女 レベル1

     

能力


力       18

素早さ     20

魔力      35



アクティブスキル


【先読み】取得難度:5 取得条件:先読みの巫女の職業を選択する。

効果:大量の魔力を使用する事によって、近い未来をしる事ができる。

      


パッシブスキル


【神の加護】取得難度:6 取得条件:救世者 

 効果:一つのスキルに対して効果を発動。取得者が任意に設定したスキルを使用する際は魔力を必要としない。

 設定スキル:【先読み】


 

魔法




★   ★   ★




(俺とリディアは同じレベルなのに、俺の能力値の方が数値が高い!! やっぱり、レベルが上がった時に上昇する能力値に違いがあるんだ。やはり【逆転】の効果で、上昇する能力値も高レベルと同数値と言う事なのだろう。だから俺は元二級冒険者のグルじぃを圧倒出来たんだと思う)


 あのエロ親父を叩きのめした事を思い出して、小さくガッツポーズを取る。

 その後、再び考察を始めた。


 ふむリディアが覚えているスキルはたったの二つか…… まぁ、その二つが恐ろしい程に強いスキルなんだけど!! 一つ目は【先読み】は未来を見れると言う能力。

超強力なチートの能力だけに魔力の消費が大きいみたいだ。

けれど二つ目のスキルである【神の加護】。これは指定したスキルを魔力消費無しで使う事ができる能力で、このスキルがあれば【先読み】のスキルが無制限に使える事になる。

もぅチート超えているだろ!! 

 後、【神の加護】の取得条件が救世主って書いてあるけど…… うん!! 深くは考えないでおこう。


 今考えると、未来が見えるチート能力で取得難度が5と言う事は、俺の【逆転】や【武具の心得】や【魔力の真理】の取得難度10や8のスキルはもっと凄いスキルとなる。

 嬉しいような気もするが、【逆転】のスキルのせいで辛い日々を過ごして来た俺は、とても微妙な表情を浮かべていた。





★   ★   ★




 リディアは森の中を息を切らしながら走り続けている。

 背負う弓は生い茂る雑木に引っかかり、思うようにスピードが上がらない。

 リディアは今、森で見つけたホーンラビットを必死に追いかけていた。


 ホーンラビットは早い動きで襲ってくる魔物だが、いつも集団で攻めてくる。

 今回見つけたのは群れからはぐれた単体で、ホーンラビットは戦う意思も見せずにリディアの前から逃げ出していた。


「もぅ、逃げないでよ!!」


 リディアの後ろには俺が張り付く様に追走している。

 俺は口は出すが、基本的には手は出さない。

 いつも一段落ついた時に、あの時はこうした方が良かったとか、アドバイスを与えるだけだ。


「絶対に当てる!!」


 ホーンラビットが大きな岩で進路が塞がれ、立ち止まった時にリディアが弓を構えた。

 先読みの力は使っていないので、リディアは当たりやすい胴体を狙い矢を放つ。

 だがホーンラビットは90度進路を変えてスルリと矢を躱し、そのまま遠ざかってしまった。


「あっ!」


 折角追い詰めた獲物を逃したショックは大きい様で。

 息切れするほど走っていたリディアは、その場にへたり込んだ。

 きっと相当疲れているのだろう。


「今のは焦りすぎだぞ。まずは敵の動きを封じる様にしないとな」


 後ろから俺が悪い所を指摘してやる。

 だけど自分なりに頑張っていたリディアは俺の言葉が受け入れられないと言う感じに頰を膨らませていた。


「……じゃあどうすれば良かったの?」


 少し拗ねた感じでリディアが呟く。

 俺は頭を掻いて周囲を見渡した。

 すると運良く別のホーンラビットの群れを見つける。

 相手は四匹で今回は魔物も臨戦態勢を取っていた。


「丁度いい。今から俺流だけど実践するからちゃんと見ていろよ」


 そう告げると俺は、向かってくるホーンラビットを瞬時に三匹倒した後、残り一匹に対しては殺さずに後方へと下がる。

 そして一定の距離を取り直した。

 すると単騎となったホーンラビットが向きを変え、逃げ始める。


 その時、俺は腰のベルトに吊している小型ナイフを取り外し、ホーンラビットの逃走進路へと投げつけた。

 前方にいきなりナイフが現れた為にホーンラビットは急停止を行い、90度回転し別の方向へ逃げようとするが、その進路前方にもナイフを投げる。

 二回の急停止でホーンラビットのスピードは既に殺されており、動きが止まった所で三本目のナイフがホーンラビットの体に突き刺さっていた。


「まっこんな感じだな」


 俺はスキル【武具の心得】の効果で【投げナイフ】での攻撃も百発百中。

 俺は狙った所にナイフを投げる事ができる。

 その結果シナリオでもあるように、よどみ無くホーンラビットを倒した俺に対して、リディアは更にムッとした表情を見せた。

 リディアも自分より俺の方が強いのは知っている。

 だけど余りにも簡単に物事が運ばれた事に少々納得が行かない、そんな感じだった。


「おじ様はズルい……」


「えっ何でそうなるんだ?」


「でも、いいたい事は解った」


 それからリディアも手間を惜しまず、確実に魔物を倒す為の手順を踏んで行くようになっていった。

 その結果、リディアが一日に倒せる魔物の数も少しづつ増えていく。

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