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第22話 リディアの職業

 俺が職業を得た次はリディアの順番だ。

 しかしリディアは首を左右に振り、冒険者ギルドでは職業を得ないと言う。

 俺がその理由を聞くと、母親から職業を得る場合は寺院に行きなさいとキツく言われているみたいだった。


「それなら仕方ないな。この街に寺院があるかわからないけど、また探してみるか」


「……うん。ごめんなさい」


「君の事も興味があったのだが、寺院で職を得るのか…… 実に残念だ。寺院で職業を得た後は、ぜひ私にも報告してくれると嬉しいぞ」


 ハンナさんも口惜しいのだろう。

 リディアの両肩に手を置いて、結果を教えて欲しいと熱く語っていた。


 まぁ、これで冒険者ギルドでの目的は、一応果たせたと言えるだろう。


 本当ならリディアの為に、今から寺院へ向かいたいのだが、土地勘のない俺には寺院の場所が解らない。

 そこで俺はマリアさんに、寺院の事を尋ねてみる事にする。


 俺の予想通り、マリアさんは快く寺院の場所を教えてくれた。

 

 この街にも寺院は在るようで、これから向うと言ってみると、地図を作ってくれるらしい。

 

 天使の様な優しさを持つマリアさんに、俺は世話になりっぱなしである。

 これは何かでお返ししないといけないだろう。




★   ★   ★




「これが地図です。私、絵は余り自信がないんですけど、どうでしょう解りますか?」


 地図を俺に手渡しながら、不安そうに自分の書いた地図へ顔を近づけ、下から俺の顔を上目遣いで覗き込むマリアさんの表情に、俺はドキっとしてしまう。

 もしかすると顔が赤くなっているかもしれない。


「だっ大丈夫! ここが今、俺達が居る冒険者ギルドですね。うんうん。意外と寺院は近いんだな」


 誤魔化す様に地図に視線を移すと、解りやすく書かれた地図だった。

 マリアさんも、近づけた顔を自分が書いた地図へと再び移す。

 マリアさんの顔は下を向いた状態で、俺が胸元で持っていた地図の上を人差し指でなぞり、最短で簡単なルートを教えてくれている。


 マリアさんの身長は160センチメートル位、そして俺は175センチメートル位。

 当然ながら、俺がマリアさんを見下ろす形になっているのだが、その時にマリアさんが着ている上着の開口部から、豊満な胸元が見えている事に俺は気づいてしまった。

 地図を見ようとすると同時に、柔らかく高い山脈の谷間が見える。

 かと言って視線を逸らすと、折角丁寧に説明してくれているマリアさんに対して失礼だ。

 そう結論づけた俺は、勇気を出してマリアさんの谷間に視線を向けた。


「おじ様はどうして、マリアお姉さんの胸を見ようとしているの?」


 何とリディアが更に下から見上げる形で、ずっと俺の行動を見ていた。

 俺は驚き、焦りから額には大量の汗が瞬時に浮かび上がり、何とも言えない恐怖感から三歩後ずさる。


「リディアさん……君はなんて事を言うのかな? 俺はそんなつもりは無かったんだけど……」


 さり気なくマリアさんの方を見てみると、自分の胸を両手で隠し、疑いの目で俺を見つめていた。


 居た堪れなくなった俺は、更にもう三歩後ずさった後、ゆっくりと回れ右を行い、リディアの手を掴むと瞬時に抱きかかえ、マリアさんの前から走り出し、全速力で冒険者ギルドを飛び出していく。


「マリアさん、誤解ですから~っ!!」


 遠ざかりながら叫ぶ俺の言い訳は、負け犬の遠吠えの様に木霊する。




★   ★   ★




「えーっと…… 次の十字路を左に曲がった先に寺院があるのか」


 冒険者ギルドから逃げ出した俺は、目的地である寺院を目指す。

 地図によるとそろそろ到着する筈だが。


「在った。此処が寺院か、意外とデカイな」


 寺院の周囲は木製の大きな塀が広大な敷地を包み、外敵からの侵入を拒んでいる。

 東西に一つづ作られた大きな入口には、僧兵が二名づつ警護をしていた。

 参拝者も会釈だけしており、普通に出入りしているので、俺達も何事もなく敷地内に入る事は出来そうだ。

 

 早速、リディアの手を引き敷地の中へ入ってみると、入る前は周囲を塀で囲まれていて敷地内は見えなかったので気づかなかったが、広く手入れが行き届いている中庭があり、更にその奥には大きな建物が建てられていた。

 

 きっとあれが本堂なのだろう。

 

 初めて入る寺院に興味を覚え、周囲を見渡していると、境内には袴姿の男性や巫女服を着た女性が掃除をしたり、寺院で作っている品を売っていたりしている。

 

 この世界には教会や寺院があり、それぞれ異なる神が信仰されている。

 そう言う事は複数の神が認識されていると言う事にもなる。


 本堂に入ると一人の男性に出会う。

 他の者より衣装が豪華なのが気になった。

 取り敢えず俺は、その男性にリディアに職業を与えて欲しいと声を掛けてみる。


「職業を得たいという事ですね! それなら私で大丈夫です。どうぞ奥へお入り下さい」


「すみません。よろしくお願いします」


 大きな仏像が祀られた広い部屋に案内されると、部屋の中央に置かれていた座布団に座るように促される。

 俺とリディアは並んで座布団に座った。


「それでは職業について説明させて頂きます。此処で得られる職業は神職となります。神職になったからと言って、寺院で働く必要はございませんので、安心してください。

 神職は誰でも得れる訳ではございません。神に認められた者だけが得る事ができます。


 それと儀式を始める前に、お布施を頂戴しております。このお布施が我々の活動資金の一部となるので、ご協力お願いします。ちなみに神職を得る事が出来なくても、お布施をお返しする事は出来ませんのでご理解をおねがいします。」


 そう言って頭を下げる男性に対して、俺も頭を下げ返した。


「お布施は、お幾らお支払いすればいいのですか?」


「お布施は銀貨で五枚頂いております」


 その言葉を受け、俺は冒険者ギルドで支払ったお金も銀貨五枚だったのを思い出す。

 たぶん、不満が出ないように、何処で職業を得たとしても一律の金額にしているのかもしれない。


「有難うございます。では早速、儀式を始めます。儀式は神聖なものなので関係者以外は立ち入り禁止とさせて頂きます」


 男性は俺に部屋から出るよう声を掛けてきた。


「リディア、今から一人なるけど大丈夫か?」


 俺がリディアに聞いてみると、リディアはコクンと頷いた。

 先程の話を聞いて、リディアも理解していたのだろう。

 まぁ、部屋を出ると言っても、部屋の前で待っていていいみたいだし、それなら危険も少ないだろう。

 俺はリディアの意思を確認すると、立ち上がり部屋を出る。

 そして部屋の戸を静かに閉め、廊下でリディアが出てくるのを待つ。

 部屋の中からは、男性が何やら叫んでいるのが聴こえる。

 歌を歌っている様にも呪文の様にも聞こえた。

 その後、男性の声が聞こえなくなり、暫くすると男性とリディアが戸を開けて出てくる。

 男性は額から、大量の汗を流していた。


「終わりました。おめでとうございます。彼女は無事、神職を得る事が出来ました」


 その言葉を聞き、俺はホッと胸を撫で下ろす。


「失礼ですが、一つ聞かせて下さい」


 男性は俺に何か聞きたい様だ。


「何ですか? 答えれる事ならお答えしますが?」


「彼女はどのようなお人なのですか? 家柄は? お住いは?」


 一体何が在ったのか? 

 よく見ると、男性は少し興奮している様子だった。

 けれど生憎と俺は、リディアの素性を深くは知らない。

 分からない事に答える事も出来ずに黙っていると、男性が何故か納得した様子で頷いた。


「なるほど、そうですね。お忍びと言うことですか!? それなら深くは聞くことが出来ませんね」


「まぁ、はい。そんな感じです」


 意味が分からず相槌を打つと、話は勝手に進んでいく。


「これからどちらに向かわれるのですか? 差し当たりがなければ、教えてくれますか?」


 この言葉は渡りに船である。

 俺は目的地であるラフテルの行き方を知らなかった。

 勘違いしてくれているなら、この男性に教えて貰おう。

 俺はそう思った。


「ラフテルへ向かおうと思います。どう行けばいいか知っていますか?」


 俺の言葉を受け、男性の顔には納得の表情が浮かんでいる。


「やはりラフテルですか。ラフテルは、この街より遥か東にあります。知っているとは思いますが、私達の三大聖地の一つです。私も数える程しか行った事はありませんが、この街からですと、まだまだ距離はあります。お二人で向かわれるので在ればしっかりと準備をなさった方がいいでしょう。丁度、彼女も神職を得ていますので、この寺院で装備を整えれば、その力も発揮しやすいと思います」


 どうやら寺院には、神職の装備も置いているみたいで、彼の言う通りなら装備を整えて置く方がいいだろう。

 俺はリディアの装備をこの寺院で揃える事を決める。




★   ★   ★




 俺とリディアが座っている前に並べられているのは、神職が使う装備の数々。


「我が持院にある最高級の神具でございます。どれでもお手を取って確かめて下さい」


「最高級って……」


 俺が絶句していると、男性は話を進めていく。


「彼女ならどの装備でも十分使いこなせると思っています。ラフテルへ向かうなら、これらの神具でも心許ないと思いますよ」


「それは解りましたが、お値段はどの位でしょうか? 無い袖は振れないと言うか……」


「そうですね。強いて言うなら…… 彼女はまだ幼いので、今はまだ、重い刃物の扱いは難しいかもしれません。それなら弓はどうでしょうか?」


「弓ですか?」


「そうです。神具は全ての装備が揃って、初めて加護が発揮されます。弓に合う装備と言えば、赤の巫女服、青の破魔矢、白の草履です。どれも神の加護が強く掛かっていますよ。今なら全部で金貨5枚です。お買い得ですよ」


 その金額ならギリギリ持ち金で足りる。

 何故、この男は俺の持ち金ピッタリの装備を勧めてくるのだろうか?

 

 こいつは神職者じゃなくて、商人じゃないのだろうか?


 つまらない事を考えてしまったが、リディアの装備は前から欲しかったので、ここでケチっても仕方ない。 


 ここは寺院だし、考え方を変えれば神の施しとも言える。

 今回の金貨も道中で倒した敵から得た物だ。

 あの位なら何時でも稼げると考え、俺は男性に神具の購入を告げた。




★   ★   ★




 今は右手に残った銀貨5枚を握り締めて、リディアと共に歩いている。

 リディアは巫女服に身を包み、テクテクと俺の横を歩いていた。

 銀色の髪に赤と白の巫女服が良く似合っており、高い買い物だが、まぁいいかという気持ちに不思議と思えてくる。

 これから昨日泊まった宿屋に一度戻り、荷物を持って引き払う予定をしていた。

 いつまでもザイルさんに甘える訳にも行かない。


「リディア、実は手持ちのお金が少なくなって来てるんだ」


 俺は正直にリディアにそう告げる。

 こんな小さな子供に言う事では無いと解っていたが、これからも先は長い、隠さずに伝えた方がいいと俺は考えた。


「今晩からは安い宿屋になるけど構わないか?」


「ん!」


 コクンと頷くリディアに俺は言葉を繋ぐ。


「本当は少しでも早く、ラフテルの寺院へリディアを連れて行ってあげたいけど、それには食事や泊まる所にお金が必要になる。だからこの街でギルドの依頼を受けて、俺達はお金を貯めないといけない。リディアもそれでいいかい?」


「私も一緒に頑張る……」


 やる気に満ちたリディアは、両手の拳をギュッと胸の前で握りしめ、やる気をみせた。


「それにしてもリディアはどんな職業についたんだ? 良かったら冒険者プレート見せてくれない?」


 俺の言葉を素直に受け止め、リディアは躊躇する事なくプレートを見せる。


「先読みの巫女?」


 リディアはウンウンと首を縦に振っている。

 何だか凄そうな職業である。

 先読みと言えば未来が見えるって事だろ?

 もし予想が在っていた場合、かなり強い職業と言う事になる。


 こんな凄い職業を得るって事は、やはりリディアには何か在るのかもしれない。


 こうしてアーデルの街で俺とリディアの冒険者人生が幕を開けた。

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