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第21話 俺の職業

 俺達はマリアさんに案内され、豪華な装飾が施されたドアの前で立ち止まる。

 そしてマリアさんがドアをノックするのだが、何度やっても返事はなかった。


「返事がないな。残念だけど間が悪かったようだな」


 俺は肩を落としてがっかりしていた。


「クラウスさん大丈夫ですよ。中に居るのはわかっているんですから!! さぁ、勝手に入りますよ。クラウスさん、私についてきて下さい!!」


 慣れた感じで、マリアさんは了承も得ずにドアを開き、ズカズカと中へ入って行く。

 

 室内では書類や資料が山の様に積まれた机があり、その机で一人の女性が必死にペンを動かしていた。


「姉さん…… 姉さんってば」

 

 マリアは女性の元へと近づくと、女性の肩に手を置き、大きく揺らしながら声を掛けていた。

 仕事に没頭している女性も、俺達の存在にやっと気付く。


「ん、何だ、マリアじゃないか!? 一体どうしたんだ?」


「もう、「何だ、マリアじゃないか?」 ではないですよ。さっきから何度もノックしてたんですよ。姉さんはいつも研究に没頭すると周りの事が見えなくなるんだから」


 どうやら二人は姉妹の様で、会話の流れで察するとマリアさんが妹で部屋にいるのが姉の様だ。

 マリアさんは清楚でスタイルも良く、誰が見ても美しい人だと答える。

 一方、姉の方は化粧っけが無く、髪も伸ばし放題のボサボサ。

 けれど目は大きく二重で鼻筋は通っており、よく見ると肌も美しい。

 素材で言えばマリアさん以上の素質を持っているかもしれない。

 ただ…… 彼女からは女性らしさが全く感じられず、今も頭をポリポリと掻きながら、俺の前で自身のズボラ加減を恥ずかしげもなく、露呈させながら姉妹トークを続けていた。


「それでマリアは何の用で私の部屋に来たの?」


「あっ、そうだった。新しい職業を得たい人を連れてきたの。姉さんお願いします」


 マリアさんも話しに夢中になっていたみたいで、俺とリディアの事を忘れていたようだ。

 その証拠に、少し慌てた感じで、俺に向かって申し訳なさそうに舌をペロリと出す。

 その仕草はとても可愛らしかった。

 マリアさんの視線に誘導され、姉の方も俺とリディアを見つめた。


「その御仁と幼女の二人が職業を得たいって言う人物なのかい?」


 姉の問いにマリアさんもコクコクと頷く。


「ふーん。此処まで高齢で新しい職を得ようってのは、二次…… いや三次職業を得る為かな? ならばまだ見た事も無い職業に出会える可能性があるねぇ。そして幼女も冒険者になるには少し早い気がする。訳ありって事だね。ウフフ…… 今日のお客は興味をそそる人ばかりだ」


 彼女は上機嫌でそう言葉を発した。


「じゃあ、姉さんお願いしますね」


 マリアさんの言葉に彼女は了解したと片手を上げる。

 そして俺に近づき声を掛けてきた。


「まずは御仁の方からだ。私の前に座って貰えないか?」


 俺は指示通り、彼女と対面する形になる感じで、テーブルの前に設置された椅子にすわる。

 真正面から、興味深く俺に熱い視線を向けてくる彼女を、俺も再び観察してみる。

 サバサバとした性格をしているようで、悪い人には見えない。

 

「私はギルドで事務長を任されているハンナと言う。事務長と言っても殆どの時間を自分の研究に使っているから、ギルドのお荷物と言われているがね」


 ハンナは勝手に自身の境遇を暴露して自分だけ笑っていた。

 俺はこういう裏表の無い人は嫌いではない。

 ギルドの事務長と言う事なので、最初は敬語で接してみる。


「俺はクラウス、先程冒険者になった者です。よろしくお願いします」


「ふむ、御仁の名前はクラウス殿か、若輩者だが此方も頑張らせて頂こう。それじゃ早速この紙に血を垂らして貰えないか?」


 そう言ってハンナは、何も書かれていない真っ白な紙の用紙を俺に手渡す。


(確か紙に血を垂らすって言っていたな…… 方法がグルじぃの水晶と似ているよな?)


「もしかして、垂らす物は血じゃなくても良いって訳じゃ、ないですよね?」


「ん? 基本は血でやってもらっているのだが、別の物でもいけるのかい? それは初耳だな。もし良かったら詳しく教えてくれないか?」


 ハンナさんは好奇心旺盛の様で、気になった事には首を突っ込みたいタイプだった。

 いちいち反応していれば時間が幾らあっても足りない。

 そう感じた俺は、彼女が用意してくれたナイフで自分の指に傷をつけ、浮かび上がってきた血を用紙に垂らしてみた。

 すると白紙の用紙に薄っすらと文字が浮かんでくる。

 その様子をワクワクしながら見ていると、文字は時間が経つに連れ、少しづつ濃くなっていく。


「凄い。文字が浮かび上がって来たぞ」


「ふっふっふ。そこに書かれてある職業が、クラウス殿が現時点で会得できる職業になっている。血を垂らす事によって、紙がクラウス殿の蓄積された経験から得られる職業を映し出す仕組みだ。後は候補の中から職業を選んで欲しい」


「候補ですか……」


 そう言って俺は紙を凝視する。

 だが紙に書かれている職業は、一つしか無かった。


(これってヒーローって書いているよな…… ヒーローってなんなんだ?)


「出ましたけど、職業は一つしか出ませんでした」


「一つだけか~それは残念だね。クラウス殿位の年齢になると幾つも現れるのが普通なんだけど。良かったら見せて貰えないか?」


 言われるまま、俺はハンナさんに紙を渡す。

 ハンナさんは紙を手にとり目を通した瞬間、動きがピタリと止まる。

 そして紙を持つ手に力が入りプルプルと震えていく。


「これは…… ヒーロー? 聞いた事が無い職業だ。もしかして未知の職業? ふふふ ふぁ ハッハハー 凄い。凄いぞ。これだからこの職業は辞められない。私は今、新しい未知と遭遇したーーー!」


 盛り上がっているハンナさんを横目に俺は困惑していた。


 聞いた事も無いヒーローと言う職業を喜べばいいのかどうか分からないからだ。

 

 するとハンナさんは突然、椅子から飛び上がり、壁一面に作られている本棚から本を手に取った。


「あ~っ!! これでもない。 これでもない。どの本だったかな?」


 手に取った本のタイトルに目を通しながら、次々と放り投げる。


「姉さん。本を幾つも放り投げて、一体何をやっているのよ?」


 マリアさんが問いかける。


「いやぁね。ヒーローって言葉が引っ掛かってね。何処かで見た記憶があるのだよ」


「それにしたって、本を放り投げる事もないじゃない。こんなに散らかして、誰が片付けると思っているのよ」


「だって、違っていた本を本棚に戻したら、どの本をチェックしたか解らなくなるだろ? それは非効率だ。それにマリアにはいつも感謝している。これからも私を助けてくれ」


「もぅ。これだから姉さんは……」


 マリアさんは頭痛がしだしたのか? 額に指を当てている。


「あっ!! あった。これだ、この本だ」


 そう言うとハンナさんは一冊の分厚いを手にしていた。


「私の記憶が正しければ、確かこの本にヒーローって言う言葉が出てきたはずだ」


 その本のタイトルはかすれて殆ど読めなかった、けれど一目で物凄い古い書物だと解る。

 ハンナさんはペラペラとページをめくり、あるページを俺に見せてきた。


「これは遺跡から発掘された古代の本で、私が持っているのは、画家によって複製されたレプリカなんだけど、ほら見てくれ、ここにヒーローって文字があるだろ?」


 その【○○辞典】と言うタイトルの本で、最初の部分は擦れて読めなくなっている。

 開かれたページに目を通してみると、色んな言葉の説明が書かれている本であった。

 そしてハンナさんの指の先には紙に浮かび上がってきたのと同じ、【ヒーロー】と言う文字があった。



★   ★   ★



ヒーロー


1 敬慕の的となる人物。英雄。「国民的ヒーロー」


2 劇・英雄譚などの、男の主人公。⇔ヒロイン。



類語

英雄(えいゆう)



★   ★   ★



「確かに描かれている。だけどこれは……」


 物凄い恥ずかしい事が書かれていた。

 

(敬慕の的となる人物。英雄。っておい! そして極めつけが英雄譚などの主人公だ。これじゃ、俺が英雄譚の主人公になりたいみたいじゃないか! 確かに小さい時からそんな物語ばかり読んでたけど、まさかそれが影響したんじゃ!?)


 今まで夢見て、必死に頑張ってきたのに、得れる職業は聞いたこともない未知の職業。

 魔法使いが放つ大魔法や剣士の剣技スキルが使えるのかさえ、分からない。


「さぁ、職業は一つしか無いのだ。さっそく職業を得ようではないか! 職業が書いてある横に血で拇印をすれば完了だ」


 ハンナさんは未知の職業の全貌を知りたくて、急かしてくる。


「おじ様…… 凄い。英雄になるんだ」


 また、隣に居たリディアは、羨望の熱い眼差しを送ってきていた。


 確かに少々恥ずかしいが、どんな職業でも無いよりはマシかと考え直し、俺は再度、紙を受け取り職業が書かれている後ろに拇印を押した。

 すると紙が薄っすらと光り出す。


「登録が完了したようだね。じゃあ早速ステータスと冒険者プレートを確認してくれないか? 職業の所にヒーローと記載されている筈だ。ステータス画面には詳しく明記されていると思うから出来れば内容を私にも教えてくれないか?」


 ハンナはジュルリと涎を垂らしながら、興奮気味に俺へと迫る。

 俺も多少は気になるので、ステータス画面を表示し目を通した。




★   ★   ★




クラウス・ブラウン

  

レベル-10    必要魔物討伐数 7,998匹  累計魔物討伐数91,552匹


職業      ヒーロー レベル1     


能力


力       41+3

素早さ     46+3

魔力      50+3



アクティブスキル


【変身】取得難度:3 取得条件:職業選択でヒーローを選択 

効果:ヒーローに変身する。能力補正+効果範囲の敵の注意を一身に受ける

      


パッシブスキル      


【逆転】取得難度:10 取得条件:不運

 効果:取得者の成長が逆転する。


武具の心得(マスターウェポン)】取得難度:8 取得条件:レベル99

 効果:職業に関係なく全ての武器、防具をマスターレベルと同等に扱う事が出来る。


魔力の真理(マジックマスター)】取得難度:8 取得条件:レベル99

 効果:全てのスキル及び魔法使用時の必要魔力量を99%減少させる。



魔物を狩る中級者(ベテランハンター)】取得難度:2 取得条件:累計魔物討伐数 10,000匹


 効果:戦闘時に能力値が1.2倍となる


ゴブリンと戦う者(ゴブリンスレイヤー)】取得難度:1 取得条件:ゴブリン撃破数1,000匹

 効果:対ゴブリンとの戦闘において、全ての能力値が+10。ゴブリン発見率の上昇

 

【観察者】取得難度:3 取得条件:魔物の観察時間10,000時間

 効果:戦った事がある魔物の特長や弱点、行動パターンを把握できる。


【集団戦闘】取得難度:4 取得条件:一対三倍以上の集団戦闘における勝利回数20,000回 

 効果:自分を中心に半径四メートル範囲内の絶対空間認識能力。


罠の達人(トラップマスター)】取得難度:3 取得条件:罠による魔物討伐数20,000匹

効果:自身が設置した罠の認識阻害効果(大)、罠の威力向上(大)。設置された罠を必ず発見する。任意の者に対してのみ罠を発動させる事が可能。


【研ぎ】取得難度:1 取得条件:刃物の研ぎ回数10,000回

効果:砥石でなく、普通の石であっても刃物を研ぐ事ができる。研ぎ作業の砥石の摩耗率減少。刃物の攻撃力の上昇(小)



【ピンチ】取得難度:3 取得条件:職業選択でヒーローを選択

 効果:危険度に合わせて能力値が上昇・守る者の数だけ+能力値補正。


魔法


【女神召喚】取得難度:9 取得条件:レベル100

 効果:創造主を召喚する事が出来る最上位魔法




★   ★   ★




 ステータスを見て、俺の動きが固まった。


(う~ん、突っ込み所が多すぎる…… 初めて得たアクティブスキルが【変身】って…… それに敵の注意を一身に受けるって、使えば俺に敵が群がってくるって事じゃないのか? 死亡フラグ過ぎるスキルだぞ!!

 【ピンチ】の方はパッシブスキルで、危険度に合わせて能力値が上昇って…… 危険にならないと能力は上昇しないって事だよな? どんだけ俺を危険な目に合わせたいんだ!!!)

 

 取り敢えず俺は、グイグイと詰め寄るハンナから自分の身を守る為に、黙秘を決め込む事を決意する。


 ヒーローって言う職業も色々と試さないと解らない。

 取り敢えずは実践で少しづつ試して行こう。

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