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第20話 冒険者

 グルじぃが部屋から消えてしまい、俺はどうすればいいかわからずに、困った表情を浮かべマリアさんの方へ振り向く。

 しかし彼女も彼女で、何故か俺を見つめ、引きつった表情を浮かべたまま固まっていた。


 どうすればいいのかと、俺が途方にくれているとドアが開き、グルじぃが再び現れた。

 彼は小瓶に入った液体をガブガブと飲んでいる。

 

 それを見たマリアさんが正気を取り戻し、声を荒げる。


「あぁっ!! それって高級ポーション。グルじぃさん、ギルドの許可も取らずに、ポーションを飲んじゃ駄目じゃないですか!」


「うるせぇぇ、この部屋の物は全部俺の物だぁ。許可なんて必要無いわい」


 そのままカウンターの前まで来ると、左手に持っていた虹色の水晶玉をカウンターの上にゴロンと置いた。

 水晶玉の大きさは拳より二周り位大きい位だ。


「おい、じいさん、さっさと手を出せ。約束じゃから、今から登録を始めるぞ」


 ぶっきら棒にそう言い放ち、そのまま腰に吊るしていたナイフを取り出した。


「手を出せばいいのか? ん? ナイフを出してどうするつもりだ? まさかさっきの復讐とかじゃ……」


「何を下らん事をブツブツ言っている? ナイフ如きでビビるタマじゃないだろうが? まさかあれ程の力を持っていたとは…… お主、本当は一体何者じゃ?」


 どうやら本当に冒険者登録をしてくれるようだ。

 俺がマリアさんの方へ視線を向けると、彼女もコクンと頷いてくれた。

 いよいよ冒険者登録が始まる。


「さっさと腕を出さんか。出さなければ、いつまでたっても登録が出来んぞ!」


 グルじぃの怒声を受けた俺は、覚悟を決めて小窓の開口部に右腕を差し込んだ。


 グサリ!


「ギャー! いってぇぇぇ。何すんだよ。ナイフが指に刺さってるぞ」


 グルじぃは差し込まれた腕を掴むと、俺の手に向けてナイフを躊躇なく突き刺していた。

 ナイフを指から外すと、俺の指から血が滴り落ちている。

 次にそのまま、虹色の水晶玉を滴り落ちる血の元へ持っていく。俺の血を受けて、水晶玉は赤く染まり、その後光りだした。


「登録完了じゃ。今から冒険者プレートを作るから待っておれ。後、これでもポーションかけておれ」


 何が起こったのか理解できずにいた。

 俺はマリアさんに説明を求めた。


「冒険者登録は水晶玉に自身の血を注ぐ事によって完了します。あの水晶玉に血を解して貴方の情報が刻まれるのです。刻まれる情報はレベルや基本情報のみなので安心してください。刻まれた情報を元に冒険者プレートを発行し、それが貴方の身分を保証してくれる物となります。


 先ほどの水晶玉は各ギルドにあり、どのギルドで登録しても全てのギルドで情報の共有が可能です。

 もしプレートを紛失しても、金銭を支払えば何処のギルドでも再発行が可能となっています。


 因みに冒険者はどの街でもプレートを提示すれば入場可能になりますが、そこで問題を起こした場合も直ぐに見つかりますので注意してください。その場合は重い罰則が発生しますよ」


(言っている事は大体しか判らないが、血を登録したから俺の場所はギルド側に把握されているって事かな)


 マリアさんの説明である程度の事を理解した俺は、興奮気味にグルじぃが戻ってくるのを待っていた。




★   ★   ★




「なんじゃと~っ!!」


 俺が椅子に座り、その膝の上にリディアが座って待っていると、隣の部屋からグルじぃの大きな声が響き渡る。

 その声に俺もリディアもビクンっと反応し驚く。

 その後ドアをけたたましく開き、グルじぃが部屋の中に舞い戻って来た。


「グルじぃさん、どうしたんですか?」


 マリアさんがそう告げると、グルじぃは鎖状のネックレスをカウンターの上に叩き付けた。

 ネックレスにはプレートが一枚通されている。


「お主、何か特別なスキルでも持っているのか?」


 その言葉の意味が理解できず首をかしげる。


 マリアさんは俺のプレートを覗き込み、口を手で塞ぎ驚いていた。


「どうしたんですか?」


「どうしたもこうしたもあるか! お主のレベルは20以下じゃろう?」


 確かにそうだ。

 もしかして血を採取されたからバレたのかも知れない? 

 ここは冒険者ギルドで、迂闊に嘘は付かない方がいいと判断し、俺は素直に頷いて見せた。


「そうだ、それが何か?」


 グルじぃは俺の言葉を聞き、驚きを隠せず目を見開いた。


「ワシはこれでも元二級の冒険者だぞ。幾ら年老いて引退したとしても、たかがレベル20に満たないルーキーなんぞに負ける訳がない。特殊なスキルでも持っていないと、先程の腕相撲の説明が出来んわい」


(そうなのか? 自分のステータスがどれ位の強さか解っていなかったが、俺の今のステータスはどうやら元二級冒険者同等以上の能力があるみたいだな……)

 

 自分がどれ位強いか判断しかねていたが、これで一定の強さを持っている事がわかった。

 もし勇者マリアと出会う事となっても、気後れすることなく自分をアピールできるだろう。


 グルじぃは、俺が何かのスキルを持っていると勘違いしてくれている様で、今回はそれに乗る事にする。


「スキルの事は言うつもりは無い。スキルの詮索は御法度なんだろ? これで俺も冒険者になれたって事だよな」


 グルじぃは、ぐぬぬぬと歯軋りしていたが、渋々俺にプレート付きのネックレスを手渡してきた。

 鉄の色をした長方形のプレートには、俺の名前と職業が記載されている。 

 俺はそのプレートを首から掛けると、次の目的の為に後ろに立つマリアに声を掛ける。


「冒険者ギルドで職業に付けると聞いているんですが、どうすればいいですか?」


「ええ、新しい職に就く事はできますけど、その場合は今の職業は無くなってしまいますよ。よろしいでしょうか?」


 俺がマリアさんに返事をする前に、グルじぃが話しの間に割り込んできた。


「そのじいさんは無職じゃ」


 そう、俺の職業欄には何も記載されてはいなかった。

 

「嘘でしょ…… 無職の人がグルじぃさんを圧倒するなんて……」


 その事実を知り、マリアさんが未知な生物を見た時の様な歪んだ表情を浮かべる。


 その後、マリアさんが何とか気を取り直し、いつもの調子を取り戻す。

 そして職業は違う部屋で得る事が出来ると説明してくれた。

 一秒でも速く職業を獲得したかった俺は、マリアさんに頼み込む。

 するとマリアさんは快く了承し、今から職業を得る場所へ案内をしてくれる事になった。


 俺がリディアの手を引き部屋を出ようとした時、リディアが手に力を入れて、逆方向に引っ張られ、俺は動きを止める。


「リディア、どうしたんだ?」


 俺がそう言うとリディアが小さな声でハッキリと呟いた。


「私も冒険者になる…… 私もおじ様の力になる……」


 その発言に俺もマリアさんもグルじぃも、今日一番の驚きを見せた。


「リディア、一体どうしたんだ? 冒険者なんて危険だ。駄目だ。俺は認めない!」


 俺がそう言うとリディアは首を左右にプルプルと振り、俺の言う事を聞いてくれない。

 リディアが駄々をこねるのは初めてで、俺は何とかして説得しようと試みる。


「冒険者登録にはナイフで手を刺すんだぞ。痛いんだぞ。それにほら、マリアさんこんな子供は冒険者になれませんよね?」


 俺が助け舟を求めて、マリアさんにそう声を掛ける。

 ここでマリアさんが同調してくれれば、リディアも諦めてくれるかも知れない。


「いえ、規則にはそんな事は書いてませんので…… 冒険者になる事は出来ますが……」


 どこまでも真面目なマリアさんは、あっさりと俺の期待を裏切ってくれた。

 俺がマリアさんを軽く睨むと、彼女は首を傾げて窓の外へ顔を向けた。


「じぃさんからも言ってくれ、こんな子供は冒険者になる事できないよな?」


 すると今度はリディアがトコトコとグルじぃの元へ歩き、姿勢良くペコリと頭を下げた。


「おじ様、私どうしても…… 冒険者になりたいの、お願いします」


 するとグルじぃはニヤつき頭を搔きはじめた。


「仕方ないのぉ~」


(このロリコンじじぃが!!! リディアと旅をするのはこの俺なんだぞ。リディアを危険にさらす事など出来ない。)


 リディアは鉄格子の開口部前に設置されている椅子の上に立ち、開口部に腕を差し出している。

 俺が受けた一連の行動を見ていたからだろう。

 だがナイフに刺される恐怖から、リディアは目をギュッとつむり体はプルプルと震えている。


「リディア、やめろ!」


 リディアのか弱く綺麗な手を、ナイフで傷物にされる訳には行かない。

 俺が登録を止めようと近づいた時、グルじぃが「ホレッ」と言いながら、リディアに小皿を近づけた。

 リディアはどうしたらいいのか解らず固まっていると、グルじぃが説明を始める。


「この小皿に唾を吐き出しなさい。それで大丈夫じゃ」


 リディアの頭に手を伸ばし、鼻の下を伸ばしながら撫でている。


(唾? どういう事だ?)


 俺も様子を伺っていると、グルじぃはリディアの唾を水晶玉の上に垂らす。

 すると俺の時と同様に水晶玉が光出した。


 それを見た瞬間、俺は怒声を上げてぶち切れる。


「おい! エロじじぃ、ちょっと待てゴラァ! これはどういう事だよ。ナイフで手を刺す必要ねーじゃねーか!?」


「エロじじぃじゃと!! 貴様こそ、このクソジジィじゃろが。こんなか弱い子供に心配かけおってからがぁ! 恥ずかしいとは思わんのか! 普通は血でやるんじゃよ。血でっ!! こんな可愛い天使に血など流させてたまるか」


「クソジジィだと。そんな悪口吐けない様に、もう一回締めてやろうか! 今度は高級ポーションじゃ治らない程、全身ボコボコのバキバキにしてやるぞ、エロじじぃ!」


「何を言うか! 今度は初めから本気で殺ってやるわい。死ぬ気で掛かってこいよ。クソじじぃが!!」


 俺は腕を捲くり上げ、グルじぃは大きなハンマーを手に持ち、鉄格子を挟んでいがみ合う。

 暴走する二人を止めたのは、リディアの「いい加減に、やめなさい!!!」と言う一括だった。


 俺は一人、へこんでいた。

 自分は冒険者になるために、色々と苦労をしたのに、隣で笑顔を見せるリディアは、とんとん拍子で冒険者となっていたからだ。


 だけどやっと念願の冒険者になることが出来た。

 次は職業を得るぞ!!

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