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第2話 勇者との決別

 村は空前絶後の興奮に包まれている。

 村の中を歩けば、全員がマリアちゃんの事を話していた。


「流石はマリアちゃん。凄いな勇者だなんて……」


 俺は感心しながら、そう呟いた。

 あの日から十四日が経過しているが、俺はマリアちゃんと会えていない。

 助けてくれたお礼も言えていないので、ずっと気にはなっている。


 後、俺を突き飛ばした少年と笑っていた少年たちは、親にこっぴどく怒られたらしいが、それだけであった。

 俺の家に謝りに来る事も無く、怒られて終わり。

 俺はそれだけの存在なんだと、再認識させられただけだ。

 

 けれどそんな事はどうでも良かった。

 唯一の友人で、味方であるマリアちゃんが勇者となった。

 これ程嬉しく、心強い事はない。


 だって勇者が守ってくれるのだ、無敵と言っても過言ではなかった。


 俺は早くマリアちゃんに会いたいと強くそう想う。

 早く合って、おめでとうと言いたい。

 ありがとうと伝えたかった。

 だけど家に行っても大勢の人が家に押しかけているみたいで、俺が入る隙は無さそうだ。

 

(今は忙しいけど、時間が経てば会えるようになるよね? それじゃ会えた時に、助けてくれた時のお礼をしたいから、何かプレゼントを用意しなくちゃ。何がいいだろ……)


 マリアちゃんの家を遠くから見つめ、俺は回れ右をして離れていく。


 その後、俺は村中を歩き回り、綺麗な野花を摘んでいった。

 花束を作ってプレゼントするつもりだ。

 お金もなければ、何も出来ない俺にはこの程度の事しか出来ない。


 しかし花を摘んでいる時はとても楽しかった。

 花束を渡して、喜んでくれるマリアちゃんの笑顔が浮かんでくる。


 綺麗な花だけを選んでいたので、意外と時間は掛かってしまい。

 空を見上げると日は落ちかけていた。

 すぐに日は沈み、辺りは一気に暗く、闇が広がっていく。


「やばい。急がないと暗くなってしまうぞ」


 俺は出来上がった花束を大事に抱え、マリアちゃんの家へと向かう。

 そしてマリアちゃんの家の側まで来た時、俺は悪ガキの少年達と出会ってしまった。


「おい! 化け物が、こんな所で何しているんだよ?」


 来なくても良いのに、わざわざ近づいて声を掛けてくる。


「みんな見てみろよ。こいつ花束なんて持ってるぞ。一体誰に渡す気なんだ?」


「本当だ。花束を持っているじゃねーか。何処に行く気なんだよ。正直に言えよ」


 そう言いながら、俺の肩を突き飛ばしてきた。

 俺は咄嗟に花束を身を挺して守る。


(やばい。このままじゃ。この花束だって無茶苦茶にされてしまうぞ)


 そう考えた俺は少年達の隙をつき、走り出した。


「おい。化け物が逃げたぞ。みんな捕まえろ!!!」


 少年達は追いかけてきた。


「後少し、あと少しでマリアちゃんの部屋の側なのにっ!!」


 必死に逃げていたが、年齢が少し上の少年達の方が足は速く、マリアちゃんの部屋の外で捕まってしまう。

 そして一生懸命に作った花束を奪い取られてしまう。


「返せよ!! それはお前たちが触って良いものじゃないんだぞ」


「気持ち悪い化け物の癖に、何を偉そうに言ってやがるんだ。こんな物こうしてやる!!」


 少年は奪った花束を地面に投げつけ、上から何度も踏みつけ始めた。

 その様子をみて他の者達も笑い出す。


 俺は悔しくて悔しくて、大量の涙が頰を流れる。


 その瞬間、マリアちゃんの部屋の窓が開き、一人の少女のシルエットが浮かび上がってきた。

 光鉱石のランプが輝き、室内は明るい。

 丁度、逆光となっており、少女の顔には影がかかってよく見えていないが、その長い髪と村で一番の村ではマリアちゃんしか持っていない洋服の形状で、その影の人物がマリアちゃんだと俺は判断をした。


「ったく。さっきからうるさいわね。そこで何をやっているのよ?」


「マリアちゃん。俺だよ。クラウスだ。マリアちゃんに花束を持ってこようと思って、でも……」


 そこまで言いかけた時に、マリアちゃんの方から信じられない事が投げられた。


「あぁ、丁度良かったわ。私、貴方に言っておきたい事があったの。今後は私に関わらないで欲しいの。私は勇者になるのよ? そんな私に貴方の様な気味の悪い人間が近づいていいと思ってるの? 今までは家畜を飼っているつもりで、相手をしてあげただけ。勘違いしてんじゃないわよ。それじゃ、二度と話しかけないでね。バ・ケ・モ・ノ!!」


 それだけ言うと、窓を締めカーテンで見えない様にされた。


「だせぇぇーーー。あーはっはっは。コイツ捨てられてやんの!!」


 少年達がこれまでない程に笑い出した。

 その後、少年達は俺を開放して離れていく。


「嘘でしょ…… マリアちゃん…… マリアちゃん…… 何かの誤解だよね? 俺何か悪いことした? ねぇ、何か言ってよマリアちゃん」


 俺は呆然となり、縋るように何度も何度も、マリアちゃんの名前を叫び続けた。

 しかしマリアちゃんが再び窓を空けてくれる事はなかった。

 最も信頼していた人に裏切られたショックで、俺の心は壊れていった。





★   ★   ★





 俺は一人、村を抜け出し宛もなく森の中を歩いている。

 今日は満月で夜でもギリギリ視野が確保されていた。


 最も信頼していた人に裏切られ、自暴自棄となっていた。

 もう、どうでも良かった。

 生きている意味さえ失っており、このまま死んでしまいたい症状が体中を駆け巡っている。

 


 ガサガサッ!!


 その時突然近くで音が聞えた。

 俺が音のする方角に視線を向けると、有り得ない物を目にした驚愕の表情で固まる。


「ゴ……ゴブリンだって!? こんな村の近くに!?」


 その瞬間、俺の意識もハッキリと覚醒する。

 それと同時に思い出されるのは、儀式で目の当たりにした獰猛な魔物の本質。

 草むらの奥では二匹のゴブリンが周囲に視線を向けていた。


 幸いにもゴブリンの方はこちらには気づいていない。

 俺は逃げようと試みる。


 さっきまでは死にたいとか考えていた筈なのに、魔物に喰い殺される自分を想像して、怖くなったのが逃げ出した理由だった。


 ゴブリンは魔物最弱と呼ばれ、村人でも倒す事が可能だ。

 しかし流石に武器も持っていない、六歳の子供が一人で倒すには無理がある。

 ゴブリンは好戦的な性格だが臆病な面もあるので、繁殖期以外で村の近くへ来る事はあまり無いと父さんは言っていた。


 だとしたら今回の遭遇は、偶然が重なった不運としか言いようがない。

 俺はゴブリンに気付かれないよう、静かに動きながら少しづつその場から離れていく。

 だが残酷にもゴブリンは俺の存在に気付いてしまう。


「ギィィヂャッ!!」


「やばい。気づかれた!!」


 ゴブリンはその場で飛び跳ね、興奮を隠さずテンションを上げていく。

 俺は気付かれた事を悟ってからは、なりふり構わず全力で走り出していた。

 その背後を追いかけるゴブリンは、理性を手放し目の前の獲物を捕食する為に興奮状態で追いかけてくる。


「駄目だ!? このままじゃ追いつかれる」


 俺は強く頷くと突然、進行方向を変えて草むらの中へと入っていく。

 その後到着したのは行き止まりの崖の上で、崖の高さは十メートル程、下には大きな川が流れている。

 崖の際まで移動し俺が背後を振り返ると、すぐ近くまで迫ってくるゴブリン達の姿が見える。

 ゴブリンは獲物を追い詰めた事を理解しているのだろう。

 ギロリと赤い瞳を光らせ、俺の数メートル手前で立ち止まると、二手に分かれてジリジリと間合いを詰めて来る。

 

 残された方法は、どちらも死ぬ可能性が高い究極の選択。


「玉砕覚悟でゴブリンと戦うか? それとも崖の下の川へ飛び込むか?」

 

 死が目前に迫った事を悟った俺は、強い意志を表した表情を見せ、崖から下にある川へと飛び込んだ。

 

 ゴブリンに喰い殺されるのは嫌だった。

 落下中、走馬灯が今までの思い出を映し出していると。


 ドカン!!


 突然、俺は空中で得たいの知れない何かと激突した。

 不思議と痛みは無く、その物体が身体に巻き付いたまま、俺は川沿いの地面へと墜落する。

 しかし身体に巻き付いていた物体は驚くほど柔らかく、クッションの様に落下のダメージを全て吸収してくれていた。


 タッタラーン!!


 その時、俺の頭の中に甲高いファンファーレが鳴り響いた。


 ファンファーレに近い音を聴いた瞬間、俺の身体に異変が起こる。


 不思議な事に身体全体に、今まで感じた事の無い力が沸き上がっているのだ。


 俺は恐る恐る身体に巻き付いた物が気になり、下を見ると銀色に輝く薄っぺらい布の様な魔物が地面と俺の間に入っていた。

 想像するにこの魔物が丁度クッションの様な役割を果たしていたのかもしれない。


「助かった! 今の絶対に死んだと思ったんだけど…… でも頭の中で響いたあの音…… あれって一体?」


 生き残れた事に俺は安堵感を覚えていた。


「ふっ。それにしても、死にたいと思ったり、死んでいないと喜んだり。俺は一体何をやりたいんだよ」


 自然と笑いがこぼれていた。

 いつの間にか、気持ちも楽になっている。


 取り敢えず、身体の異変を確認する為に、手を握り締めたり足を動かしたりしてみると、手足はよく動くし身体も軽かった。

 崖の上を見てみると、ゴブリンが下を覗き込んでいたが、俺の事を諦めたのか? 何やら叫んだ後、姿を消した。


 俺が落ちた地面の側には大きな川が流れている。


 幸い、川の流れは穏やかで泳げる事が出来る者なら、向こう岸まで簡単に泳いで渡る事が出来そうだった。

 一度死を覚悟した事により、俺の考えも変わっていた。


「村中の人達から嫌われ、最も信頼していた人には裏切られた。もう俺の味方はいない。そして今日、俺は一度死んだ。なら今日から俺は一人で生きていける程強くなってやる。そして俺を馬鹿にした奴等を全員見返してやる」


 そして俺と衝突した物体もいつの間にか自然と土へと返っており、後には銀色の皮だけが残されていた。

 俺はその布が気になり、服の中へと隠す。


 その後、一人で帰っている間、ずっと考えていた。


(あの頭に響いた音。本で書いてあったレベルアップの音だろうか? もしかしてレベルが上がった事と力が湧き上がっている事が関係しているかもしれない。もしそうだとすれば……)


 以前より身体が軽く、力が湧いている今なら少年達にも引けを取らないと思える。

 馬鹿にされていた毎日から抜け出す糸口が見えた。

 確信に近い憶測であるが、手応えはある。

 それに伴い俺の目には生きる活力が戻っていた。


(レベルさえ上げれば、俺はもっと強くなれるじゃないか!! なら俺はレベルをあげてやる。強くなって、そして俺の心をもて遊んだ勇者マリア! 俺はお前を絶対に許さない!!)

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