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第17話 アーデルの街

 アーデル街の姿が見え初めて二十分後、やっと街の入口へと辿り着く。


 この街はアーデルと言って、俺の村から一番近くにある街だ。

 人口も多く、比較的大きい街に分類される為、この街に来れば大概の物は手に入る。

 

 当然冒険者ギルドもあり、俺はこの街の冒険者ギルドで冒険者登録を行い、人生初の職業を手に入れるつもりだ。


 街の入口には大きな門がそびえ立ち、周囲は高い壁で囲われている。

 真下から見上げてみると、高さは三メートル位だろうか?

 魔物の侵略に対する備えなのだろうと思うが、お金がある街はスケールがでかいと感心する。

 門のそばには門兵が数名立っており、街へ入りたい人々が長い列を作って並んでおり、順番に入門検査を受けている。

 俺達はその列の最後尾に並び、自分の順番が来るのを待つ事にした。


「次の者!」


 門兵の声が響き渡り、いよいよ俺達の順番がやって来る。

 長い時間待っていたが、期待と興奮で妄想が膨らみ色々と考えているうちに順番が来たので、全然苦痛にならなかった。

 

 門兵は全員で四名確認できた。

 二名の門兵が訪れた者が検問をすり抜け、不法侵入を試みる者を拒むために出入り口で警戒し、残りの二名が身体検査や尋問、記帳などを行っている。


「旅の者か? 爺さんと子供だな…… おい! じいさん、その子供のフードを外して顔を見せてみろ!」


 門兵の指示に従い、リディアがすっぽり被っているフードを外して見せた。


「ほぅ…… 亜人の子供か。それでお前達はどういう関係なんだ? まさか何処かで攫って来たのではないのか?」


 門兵の問いに俺がどうしたものかと考えていると、リディアがすっと門兵の前に移動し、小さな声で答えた。


「私のおじいさんなの…… お母様が亡くなってしまったから、私を故郷に連れて行ってくれてる途中なの……」


 その答えを聞いた門兵の顔に、一瞬だけ渋い表情が浮かぶ。

 魔物が蔓延るこの世界で、親が居ない子供達は多くいる。

 そんな彼等が生きて行くには厳しく辛い事もあるだろう。

 きっとその事を想って見せた表情なのかもしれない。


 門兵はリディアの頭に手を置くと、机が設置されている場所にいる兵の元へ行く様に言ってくれた。

 そこで名前を書けば街へ入れるとの事だ。

 俺達が指示通り机が設置されている場所へ行くと、併設された椅子に座る様に指示される。

 椅子に座って名前を書いている間に、正面に座る兵士が大きな画板に貼られた紙に何やら書いていた。


「何を書いているのですか?」


 俺が興味本位で尋ねると、兵士は得意気に書いている物を見せてくれた。


「へぇぇ、上手いな…… しかもこんな短時間で……」


「おっ そう言って貰えると嬉しいね。何故上手いかと言うと僕の職業は画家だからさ! だから間違っても街の中では問題を起こすなよ。この似顔絵にはまだまだ秘密があって…… おっと、これは内緒だ。兎に角直ぐに見付かってしまうからね」


 彼が見せてくれたのは、俺とリディアの似顔絵であった。

 たった一~二分程度の短時間で、信じられない程の完成度である。

 確かに似顔絵を描いて置けば、問題起こした外部の者を特定し易いだろう。


 こうして俺の最初の目的地であるアーデルの街の中へと入る事が出来た。

 この街で俺は冒険者になって、新しい職業を会得するつもりだ!




★   ★   ★




「大きいなぁ~」


 俺は産まれてから、街と呼ばれる様な大きな街に来るのは初めてだった。

 街にはレンガを積んで建てられた家屋が立ち並び、街道には露店が多数出店しており、多くの人が買い物をしている。

 色々見て回りたい衝動に駆られたが、まずは今日の寝床を探さないといけない。

 日の高さで確認すると既に正午を過ぎている。

 ゆっくりしていると、すぐに夜になってしまう。

 リディアもここ数日は野宿ばかりだったので、疲労も溜まっているだろう。

 今日はグッスリとベッドで眠らせてあげたかった。


「冒険者ギルドは明日にして、先ずは商店で金を作らないと」


 今の俺は金を殆ど持っていなかった。

 モンスターの素材を売れば、金はいつでも用意出来るだろうと高をくくっていた所がある。

 これは俺のミスだが、今の手持ちの貨幣だけでは今晩の宿代も足らないかもしれない。

 

 一応、リディア達が魔物に襲撃された時に乗っていた馬車からは、貴金属や貨幣を全て集めて持っている。

 しかし今後リディアが大金を必要とする時が来るかもしれない。

 その時の為にリディアが自分の為に使える様にする為、俺はその金に手を出すつもりは無かった。


「まずは商店探さないとな…… 商店はどこだ?」


 リディアが迷子にならない様に俺達は手を繋ぎ、キョロキョロと首を左右に振りながら街道を歩いて行く。

 すると、俺はある商店の看板を発見する。

 中々大きな店で、見ている限りでは客入りも十分。

 ここなら良心的な値段で買い取ってくれると直感的に感じとり、俺は店舗の中へ入っていく。


「冒険者様、いらっしゃいませ。今日は何をお探しで?」


 若い男性の店員がニコニコと笑顔で俺に声を掛けて来る。


「魔物の素材を買い取って欲しいのですが」


「買い取りですね。それでは奥のテーブルで買い取らせて頂きます」


 俺は店員に案内されたテーブルの上に、今まで倒して手に入れたドロップアイテムが詰まった大きな袋を置いてみせた。

 店員は袋の口を開き、中に詰まっていたドロップアイテムを次々とテーブルの上に並べて行く。


「これはまた随分多いですね。これはパープルフロッグの希少種物! もしかして貴方様は有名な冒険者様ですか?」


 店員は俺の見た目や装備などの服装で判断したのだろう。

 しかし俺は冒険者にもなっていない新参者。

 だがそれを言ってもどうせ信じてくれない。

 外見六十歳前後の見た目で、装備を身に付けた老人が大量のドロップアイテム持ち込んでいる。

 店員がそう言うのも普通の事であった。


「それでは今から査定させて頂きますので、冒険者プレートを提示して下さい」


「冒険者プレートですか!?」


 俺の煮え切らない返事に店員は何を言っているのだ? としかめ面を見せた。

 俺の方は、まさか商店で買い取って貰う為に冒険者の証みたいな物を提示する必要があるとは思わなかった。




 俺の慌てている様子を見た店員が何かを察したのだろう。

 表情を崩し、疑いの視線を向けてきた。


「もしかして、忘れたのですか? そうでしたら冒険者様の名前を教えて頂ければ後で確認しますが? それともこれらは盗品か何かですか? それなら衛兵に突き出す事になりますよ」 


 語気を強めてそう告げた若者に、俺が無難な返事を考慮していると、背後から突然声を掛けられる。


「もしかして…… アイール山脈の麓にあるアイール村のクラウスさんじゃないですか? 私ですよ、いつも馬商でお世話になっていた。商人の……」


 その声に誘われる様に視線を向けると知人の男性が立っていた。


「えっザイルさんですか!?」


 彼は昔から俺が村でお世話になっていた商人の人である。

 まさか此処で出会うとは思ってもいなかった。


「お久しぶりです。いつもお世話になっております。最近は村に行けなくてすみません。私の代わりの者にはクラウスさんの事はしっかり伝えて置いたのですが大丈夫でしたか?」


「大丈夫です。いつも良くして貰っていて助かってます」


 そう言いながらザイルは頭を深々と下げた。

 それに釣られて俺も頭を下げる。


「旦那様、この冒険者様は旦那様のお知り合いの方なのですか?」


 しまったと言うような顔をしながら若者は声を発した。


「えぇ、そうですよ。私が昔からご贔屓にさせて頂いていた大のお得意様です。ムスカ何か失礼な事をしたのですか?」


「いえ、いえそんな事は……」


 そこまで言って、口が動かなくなった若者を見てザイルはテーブルの側までやって来た。


「いつもの様に素材の買い取りですね。ふむ、数はいつもより少ないですが、今回の素材はゴブリンが無いですね。これなら今までよりも高い値段を付ける事ができますよ」


「ザイルさん有難うございます」


 俺は垂れてきた蜘蛛の糸に縋る思いで胸を撫で下ろす。


「クラウスさん、この素材はどこで狩られた物ですか?」


 査定を続けながらそう訪ねてくるザイルに俺はこの街へ来る途中に出会った魔物達の事を話す。


「何ですと!? あの道にこれ程の魔物が現れるとは…… しかもこの量をお一人でですか…… 流石で御座います」


 何を言っているのか良く分からないが、たぶん量が多いと言う事だろう。

 俺は大群相手に戦い慣れている。

 繁殖期と比べれば、数で言うなら全然少ない。


「査定が終わりました。 全ての素材の合計で金貨5枚と銀貨15枚になります。全て硬貨でお支払いでいいですか?」


 いつもは素材を全て武器やポーションなどと交換していた。

 だが今後は金が必要になってくる。

 金貨を持っていれば一カ月以上は宿に泊まれるだろう。

 そんな計算を俺はしていた。

 その結果、俺は今回は全て硬貨でお願いする事に決めた。

 取り敢えず現金を持っているに越した事は無い。


 その後、ザイルさんにおすすめの宿を紹介して貰い、商店を後にした俺とリディアは地図を片手に宿屋へと向かった。

 

 紹介された宿屋は立派な佇まいで、紹介されていなければ入る気にはならない位に豪華で大きい。

 ドアを開き中へ入ると、カウンターに受付の美しい女性が立っていた。

 彼女にザイルさんから紹介を受けた事を伝えると、何も聞かれず部屋へと案内された。


「どういう事ですか? 料金は後払いですか? それに部屋によって料金が違うのでは?」


 俺がそう言うと女性はザイル商店の紹介を受けた人は、全員同じ部屋に案内すると説明してくれた。

 それなら仕方ないかと思い、俺達は女性に付いて行く。

 案内された部屋はビックリする位豪華で広かった……


(参ったな…… 手持ちの金で足りるのか?)


 俺の額に一筋の汗が流れ落ちる。

 明日は冒険者ギルドへ行って登録もしなければ行けない。

 お金はまだまだ必要になってくる。

 今後はもっと質素に生活しようと俺は心の中でそう呟いていた。

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