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第16話 気持ちの変化

 今日は朝から一歩も進めていない。

 今は街道から少し離れた地山の裂け目に出来ていた小さな洞穴で俺達は休んでいる。

 その理由は、昨日の夜からリディアが熱を出したので今は動けないからだ。


 応急処置として、一応はポーションは飲ませているが、残念な事にポーションには病気を治す効果は無い。

 体力を維持させる程度の、気休め程度にしかならないだろう。


 やはり子供にとって、徒歩による長旅はかなりの負担があったようで、その事に気づかなかった俺は責任を感じていた。




★   ★   ★




 昨日一歩も動かず休ませていたが、今朝リディアの額に手を当ててみると、熱が下がる所か逆に上がってきている様にも感じた。

 辛そうなリディアの息は荒く、今も大量の汗をかいている。


 さすがにヤバイと感じた俺は、なにか対策できる事は無いかと考え、すぐに父さんから貰った本を開き、薬草などの事が書かれているページを開いた。

 そして必死にページをめくり続け、俺は本の中から熱冷ましの薬草が書かれたページを見つけた。

 もしこの薬草が近くに生息しているのなら、採取しリディアに煎じて飲ませたい。


「あった! ハサキ草…… これだな。場所は関係なく生息していて、湿気の多い所か…… 湿気が多いって事は森の中に生えているかもしれないぞ」


 今すぐにでも探しに飛び出したいが、動けないリディアを残して薬草を探しに行く訳にも行かない。

 俺が居ない間に、魔物に襲われる可能性があるからだ。

 もしそうなれば、本末転倒。

 リディアを助ける為の行為でリディアを危険に晒す訳にも行かない。


 少し悩んだ俺は、苦肉の策として、リディアを背負い紐で固定すると森の中に向かって歩き始めた。

 まだ幼いリディアはとても軽かった。


「……ごめんなさい。私、迷惑をかけて……」


 意識が朦朧としているリディアは小さな声で呟く。

 小さいながらも迷惑を掛けた事に責任を感じているのだろう。

 本当に優しく賢い少女だと俺は思う。


「気にするな! これも仕事の内だ。それよりも今から森の中を少し走るから、気分が悪くなったらちゃんと言うんだぞ」


「うん……」


 リディアはその後、俺に背負われたまま眠りについた。


 俺はその後、森の中を走り回り、三十分程度捜索を続けた時、ついに森の奥で目的の薬草を見つけ出す。


「あった。これだ間違いない」


 本と実際に咲く花に差異はないか? 何度も見比べ確認する。

 間違った草を飲ませて、リディアの具合が更に悪くなったら目も当てられないからだ。


 本に書かれている特徴とそっくりで、俺は間違いないと判断する。

 次に根の部分だけを綺麗に洗い、粉状に潰して、まずは俺が舐めてみる。

 少し苦いが口に入れても大丈夫だと判断した。

 そのまま俺はお湯に煎じてリディアに飲ませた。

 半分意識の無い状態でも、何とか薬を飲んでくれたリディアは再び眠りに付く。


「お父さん…… お母さん……」


 眠っているリディアが、うなされながら叫ぶ心の声を聴き、俺の心も痛む。

 リディアはこんな小さいにも関わらず母親を亡くしている。

 父親の行方は判らないが、馬車に居なかった事を考慮すると、期待はしない方がいいかもしれない。


 だけどリディアは弱音を吐く事も無く、母親の言いつけを守り、必死で俺に付いて来ている。


「俺も老人の姿で産まれ、村中の人から後ろ指をさされ、今までそれなりに厳しかったけど。両親はずっと傍に居てくれた。だけどリディアはたった一人だ。辛い事も在ったのに良く頑張っている…… せめて一緒に居る間だけでも、俺が父親の代わりをしてやらないとな」


 俺は目の前で眠るリディアを見つめ、同情の念と、負けずに頑張る心の強い姿を思い出し、尊敬の念を抱く。

 

 そして、その日はずっとそばで看病を続けた。


 翌朝、迂闊にもウトウトと眠ってしまい。

 ふと何かの気配を察し飛び起きる。

 すぐに起き上がり魔物のが出たのかと周囲を見渡すと、リディアが起き上がっている事に気づく。


「リディア、大丈夫なのか?」


「うん…… もう大丈夫」


「そっか。良かったな。今から何か食べ物を作るから、待っていろ」


「……うん」


 俺は干し肉を入れたスープと近くで採取した果実の皮を剥いでリディアに手渡す。

 本当はもっとあっさりとした食べやすい物が良いのかも知れないが、手持ちの材料ではこの程度の物しか作れない。

 病み上がりのリディアは肉料理など食べたくも無いだろうが、今は何か食べた方がいい。


「悪いな…… こんな物しか作れないけど」


 俺が手渡した料理をリディアは何も言わずに手に取ると、熱いスープに息を吹きかけ冷ました後、少しだけ口に含んでみる。


「美味しい…… ありがとう」


「美味いのか、良かった。なら全部くえよ」


「うん……」


 今までは殆ど自分の意見を言わなかったリディアが美味しいと俺に告げた。

 少しの驚きと、大きな嬉しさが俺を襲う。


 その日を堺にリディアは少しづつ自分の気持を俺に伝える様になる。




★   ★   ★




「また出たのかよっ! 繁殖期でも無いのに魔物が多すぎるだろ? 本当に新人の冒険者達もこれだけの魔物を相手にしながら旅とかしているのか?」


 リディアの熱も下がり、再び俺達が移動を開始して今日で五日が経過していた。

 その間、絶え間なく襲ってくる魔物に対して、流石の俺もつい愚痴が出てしまう。

 出てくる敵はそれほど強くは無く、十分対処出来るのだが、リディアを守りながらだとやはり精神的には少々きつい。

 体力面で言えばどうって事でもないが、精神面で言うなら疲労が溜まってきている。

 だが俺も男だ! 

 リディアの前で弱音を言うつもりは無い。

 今、リディアは俺しか頼れる者が居ない。

 なら格好くらいは付けるってのが男だと俺は思っている。


 毎日少しづつ進んで行くと、遥か遠くに街の影が浮かび上がって来る。

 馬車では五日、徒歩だと十五日、今は少女のリディアの歩くペースに合わせて進み続けた結果。

 二十日を超える旅にも、ついに休息の文字が浮かびあって来た。


「リディア見えるか? やっと街にたどり着いたぞ。 もう少しだ頑張ろう!」


 俺は無口な少女リディアにそう声を掛ける。


「……うん」


 リディアは小さく頷きガッツポーズを取る。

 その後、俺達の移動速度も自然と上がっていく。

 リディアに視線を向けてみる。

 俺の視線に気づいたリディアは笑顔を返してくれた。

 この旅で少しは俺の事を信用してくれているのかもしれない。

 ラフテルの街に着く頃には、もっと打ち解け合えていると嬉しい。

 

 だが今はリディアよりもきっと俺の方が興奮し、ニヤけ顔になっている筈だ。

 それは憧れていた冒険者の扉があの街で待っているから、今はまだ無職だがあの街へ行けばきっと職業を得る事が出来る。

 レベル2になった時に覚えた魔法、女神召喚は未だに使えない。

 前に一度、魔法を使って見ようと心で念じた時に頭の中に流れた言葉は【使用不可】であった。

 レベルが10になった今でもそれは変わらない。

 いつ使える様になるか解らない魔法よりも、早く職業を得て、剣技スキルや魔法スキルをぶっ放したいと言う思いが体中を駆け巡る。

 本に穴が開く程、読み返した英雄譚の物語を思い出しながら、子供の時に抱いた興奮が俺を包み込む。


「俺はどんな職業に付けるんだろ。勇者? 剣士? 魔法使い? とにかく早く知りたい!!」


 その時の俺の表情は年相応に戻って子供の様に無邪気であった。

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