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第15話 二人の旅

 俺とリディアは南にあるアーデルの街に向かっていた。

 幼いリディアの歩く速度に合わせてゆっくりと街道を進む。

 やはりリディアの歩幅が小さい分、一人で移動していた時の倍以上の時間が掛かっているが、その間にリディアと少しでもうち解けあえれば良いのだが。


 俺は今回の依頼を受けた時、一つの誓いをたてていた。

 それは俺は決して、この少女「リディア」を裏切らない事だ。

 人に裏切られる辛さを分かっているつもりだ。

 母親に先立たれ、身寄りのないリディアには俺と同じ想いは決してさせない。

 せめてラフテルに着くまでは、最大の味方でいるつもりだ。


 しかし俺と旅を始めてから、リディアは殆ど言葉を発していない。

 それも仕方ないかも知れない。

 母親が先日亡くなった所で、しかも見ず知らずの爺さんと旅をする事になってしまえば、普通の子供なら戸惑って当然だ。

 けれど今の所、俺の指示には首を横には振らず素直に聞き入れてくれているので、いずれリディアの心の傷が癒え、心を開いてくれると嬉しいと思った。


 今、リディアには全身を覆うローブを着せていた。

 このローブは馬車の中で見つけた物で、これはもし魔物に襲われた時でも大怪我を防ぐ為の処置だ。

 厚手の布は意外と防御力が高く、リディアの様に非力な者が身に着けるには最適な装備だろう。


「疲れたか? 少し休もうか」


 二人で旅を初めて二日目、子供にとっては辛い距離を歩いて来ている。

 流石に疲労も貯まっていている筈だ。

 だが俺の言葉を受けたリディアはフルフルと首を左右に振り、まだ進もうとしている。

 この二日間、行動を共にして俺が感じた事は、リディアは頑張り屋だと言う事だった。

 

 昨日も今日も朝から日が沈むまで歩いたが、弱音を吐く事は一度も無い。

 幼いながらも、逆境に立ち向かう強さをリディアは持っていた。

 しかし、このままじゃ駄目だろう。

 長年森の中を走り回っていた俺は、疲労の溜まり具合は何となくわかっているつもりだ。

 大丈夫だと思っていても、気づかない内に膝や腰に負担をかけている事もある。


 そんな事を考えながら歩いていたが、俺は強制的に休憩をとる事にした。

 休憩の準備を始めた俺にリディアは近づいてくる。


「おじい様…… 私、まだ歩ける」


「リディアが大丈夫でも、大きい荷物を持っている俺の方が疲れているんだ。こんな爺さんに長い距離を歩かせるのは、どうかと思うぞ。あ~疲れた、疲れた。」


 自分の見た目を使って、疲れた振りをして無理やりに休憩を取ると、リディアは道具袋の中から水筒を取り出して、俺に手渡してきた。


(本当に心が優しい子なんだな。二日前に母親が無くなった所なのに……)


 リディアの銀色に輝く髪が、太陽の光をを受けて更に輝く。

 俺はリディアの頭を撫でて、お礼を告げて水を飲んだ。

 その後も俺達は適度に休憩を挟みながら、アーデルの街へと向かう。




★   ★   ★




 それから更に数日が経過し、俺とリディアの距離も少しづつ近づいて来ている気がしていた。

 ただリディアは今だ一歩引いている、そんな雰囲気を俺は感じ取っている。


「リディア! お前は岩陰に隠れていろ!!」


 俺の指示に従ってリディアは岩の陰に身を潜めた。

 だが顔だけはヒョコっと出して、俺の戦いをジッと見ている。


「紫色のカエルの魔物が三匹か。当然、真ん中に居る一回りデカイ奴がリーダーだろうな。それなら先ずはお前から叩く!!」


 俺は剣を抜き、現れた魔物の群れに飛び込んでいく。

 一人で戦っていた時は考えもしなかったが、誰かを守りながら戦う事がこれほど難しい事だとは思いもしなかった。

 

 子供で戦う事が出来ないリディアを絶えず意識の端に置いておきながら、危険があれば駆けつけられる様に、一定の距離を保ちながら戦わなければならならない。

 全ての魔物が俺に向ってくれば何も気にする事もないのだが、俺が離れた時、リディアに牙を向けられれば助けに間に合わない可能性もある。

 

 今まではヒットアンドウェイ戦法で、敵を撹乱しながら戦場を自由自在に駆け回っていた俺にとって、この状況は翼を捥がれた鳥と同じである。


 自分の最大の武器を封じられた戦いを強いられ続け、大きな舌打ちをうつ。

 

 だからと言って、弱音を吐いている訳にも行かない。

 逃げる事が出来ないなら違う方法を見つけるだけだ。


 実際、この数日で俺の戦い方も少しづつ変化している。

 今は自ら敵の懐に素早く飛び込み、一撃で仕留める戦い方を心がけていた。

 単体の敵と戦う時は手間をかけてもう少し安全に戦う事も出来るが、出会う魔物は複数の場合が多く、悠長に時間を掛ける事は出来ない。


 その理由の一つとして、時間をかけている間に新たな魔物が出てくるかも知れないからだ。


 リディアが怪我をしない様に、今の内から多数の魔物が相手だとしても、瞬時に敵を退ける戦法を見つける必要があった。


 ゴブリン相手の場合は傷一つ受ける事がなかった俺だが、今戦っている相手は初めて出会う魔物達。

 そして誰かを守りながら戦うと言う、不慣れな環境下で少しだが傷を負う事もあった。

 だがこれは有る意味、良い修行の様にも思えた。

 この経験が自分を高みに上げてくれている。

 俺はそんな気がしていた。


「これで終わりだ!」


 最後の魔物を倒した後に、他の魔物が居ないか周囲の警戒を行なう。

 安全を確認した後、リディアに岩陰から出るように声を掛けた。


 ポテポテと歩いてくるリディアは、腕から少量の血を流す俺の姿をジッと見ていた。

 心優しいリディアの事だ。

 きっと心配してくれているのだろう。


「大丈夫、こんなのかすり傷だ。ポーションをかければすぐに治る」


 俺はリディアの頭を撫でながらそう答えた。


「この辺りは魔物が多いから、もう少し先に進んでから休む場所を探すぞ」


「……うん」


 リディアもそれに了承し、俺達は再び移動を開始する。

 それから一時間程度歩いた所で、チャポンという音が聞こえた。

 近くに池があるのだろうか? 

 魚が飛び跳ねて着水した様な音だった。

 そう言えば、しっかりと体を洗ったのは何日前なんだろう……? 

 俺もそうだが、リディアも毎日、体をタオルで拭く程度で水浴びなどしていない。

 幼いながらもリディアは女性だ。

 何日も体を洗えない事は苦痛だろう。

 そう考えた俺はある考えに辿りついた。


(よし今日は池で水浴びをしよう)


 そう決めた俺は、音がした方角へと進路を変える。


 草木をかき分けながら、森の奥へ数十m程度進むと、平たい場所が現れた。

 そしてその中央で大きな池を見つける。

 どうやら地下水が湧き出て、土砂を少しづつ削り、自然に形成された池のようだった。


 池の一部分には自然に作られた小さな川が出来ており、一定水量以上水が貯まると、その川の方へ水が流れていく。

 そのおかげで、池の水質は良く透明度は高い。


「リディア見てみろよ池がある。今日はこの場所で休むから水に入って体の汚れを取りなさい」


 俺の言葉を受けて、リディアの表情が和らいだ気がした。


 彼女も毎日汗だくになりながら歩いてきたんだ。

 やはり水浴びしたかったのだろう。

 嬉しそうに落ち着かないリディアは、ローブからはみ出した尻尾の毛先を大きく揺らしていた。

 早く入りたそうにしているけれど、悪いが先に安全を確かめさせてもらう。

 池の安全を確かめる為、俺がリディアより先に池へ入る事にした。

 最初に池の側まで近寄り、水面を覗き込んでみる。

 やはり池の水質が良いのだろう。

 数メートル先の池底で泳ぐ淡水魚の姿も見ることができる。

 次に手だけを水に浸し、ペロリと一舐めしてみると「美味しい」と言う言葉が自然と口から溢れ出た。

 この水ならば飲料水として持っていても大丈夫だと判断する。


「うん。これなら大丈夫だな」


 次に俺は装備を外し、上半身は裸で下着だけつけた状態で池の中へ入っていく。


「つめてぇぇ~! でも気持いいや。 ふぅ~疲れが取れる様だ」


 そのまま池の奥に進みながら、丁度胸元当たりまで水面が来る場所で止まると、持っていた布で体を拭き汚れを取っていった。


 体が綺麗になったその後、大きく息を吸い込むと俺は水中へとダイブする。

 池の水深は浅い所で数センチメートルから始まり、深い所で約三メートルだ。

 人が潜れば簡単に底まで手が届く程度の深さである。

 水中に潜った後、事前に持って来ていたナイフを鞘から取り出し、水中を泳ぐ魚に突き刺して行く。

 昔なら、魚をナイフで突いて取る事なんで出来るとは思っていなかったが、レベルの上がった俺の能力値は高い。

 冒険者を名乗る者であれば、きっとこの位は簡単に出来るだろう。

 その後、数匹の魚を取った俺は池から上がり、水辺で待っていたリディアに声を掛けた。


「リディア、俺が魚を料理している間に、池へ入って体を綺麗にしておくんだ」


 リディアは何度も頷くと、ローブをハラリと脱ぎ捨てる。

 ローブの下から半袖、短パンで動きやすい服を着たリディアの姿が現れる。

 そして、いつもはお目にかかる事が出来ない銀色の大きな尻尾をなびかせる。

 彼女は亜人で銀狐(ぎんこ)と言う種族だと教えてくれた。

 白い肌に銀髪の毛色がとても似合っており、人形の様に可愛らしい。


 俺がそんな事を考えていると、俺の目の前でリディアは躊躇なく、服を脱ぎ捨て裸となっていく。

 既に上半身は裸で、小さな頂きが二つ、これから大きくなるぞと主張を始めようとしていた。

 驚き呆気に取られた俺は、汚れ一つ見受けられない、その神々しまでの美しさに、一瞬だが見惚れてしまった。

 見た目は六十歳の老人だけど、中身はまだ十六歳の青年だ。

 俺には少々、刺激が強すぎた。

 しかし、すぐに正気を取り戻し、俺はキョドリながらリディアに向かって叫んだ。


「リディア、下着を脱ぐのは俺が後ろを向いてからにしてくれ!」


 丁度、最後の一枚に手を掛けていたリディアの動きがピタっと止まった。

 そしてその体勢のまま、ジッと俺を見つめている。


 十歳を過ぎた少女に欲情してしまいましたとも言えず。


 俺はすかさず背後を向くと、焦りながら着火用の魔法石をカバンから取り出し、火を起こす作業に取り掛かる。


 ジッと俺を見つめていたリディアが、ポツンと爆弾を投げかけてきた。


「もしかして…… おじい様は私に欲情したの?」


 普段全くしゃべらないリディアが、まさかそんな事を言ってくるとは思っていなかった。


(確かに俺の見た目はまだ老人だけど、中身は十六歳の現役バリバリの青少年なんだぞ。年下とはいえ、女性の裸を見ればキョドるのは仕方ないじゃないか!!)


 心の中で自分自身を正当化させながら、ジト目で見つめる少女に言い訳を言う。


「いや!? 違うから! そんなエロい目で見てないから!? そんな事より早く水浴びしてきて」


「……」


「……頼むから早く水浴びに行ってくれ」


 やや混乱気味にリディアを入水させ、ホッと一息ついた俺は、これからもこんな事が続くかと頭を悩ませていた。


(幾ら裸が見れても、俺は相手から見ればおじいちゃんなんだよな…… こんなの蛇の生殺しだよ。やっぱり早くレベルを上げて若返えらないと!!)


 そして俺は若返る目的を新たに一つ追加する。


 その後、入水を終えたリディアは焼魚を頬張りながら美味しそうに食べているが、時折ジッと俺の方を見つめていた。


(さっきから視線が痛い…… きっと少女趣味の変態だと思われているんだ……)


 俺は魔物との戦闘で貰った傷よりも深いダメージを心に受けていた。

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